第40話
文字数 1,683文字
この日の射会は、章弦君の食客と公府の
学派を代表して弓を引いた
そうして
その垢汚れの目立つ粗末な衣服を纏った童女は、
陣幕は射会に参じた者らが射技のあいだに使う控えの場で、上は大夫の子弟から一介の士、さらには、それぞれの地縁の有力者に後見された
衆目の場で弓を引いた兄の姿に妹は興奮したであろうし、そんな兄と一緒に食べるのだと、弓場の端に出た露店で求めた粥の入った椀を抱えて心踊らせていたろう。
そうしてただ心踊る妹は、兄のもとへと小走りに陣幕の入口へ駆け込み、不幸にも
光銘の深衣の華美な刺繍と腰に吊るされた宝剣を、椀からこぼれ散った粥が濡らしたとき、逢の王孫、光銘の顔から微笑が消えた。
「…………」
光銘の強張った顔が見下ろすと、その冴え冴えとした目線に射すくめられた立青の妹は、言葉を失って立ち尽すこととなった。
「(ひっ……うっ……) あ、の……、ご、ごめん、なさい…――」
震える唇からどうにか言葉を絞り出す童女に向けられた光銘の目の険呑な光に、立青が割って入るように進み出て
「…――たいへん御無礼いたしました。なにとぞ、平に、平にご容赦を」
そう言ってからさらに
そんな兄妹の面前に立つ貴人は、小刻みに震える立青の背中に質した。
「おまえがその
一瞬、何を問われたのか
「おまえはその賤とは
今度こそ訊かれた意味を理解した立青は、意を決して応えた。
「――…わたくしの、妹でございます」
その答えに光銘は神経質そうに片方の眉を上げると、立青に向けた目を酷薄そうに細めた。
「では、おまえも賤であるな」
「……はい…――」 立青の、震える声音が応えた。
同門の学徒の首尾を讃えようと陣幕を訪ねた
陣幕のなかのこの流れに胸騒を覚えた大慶は、立青の隣に進み出る前に、一足先に陣幕の外に出て中を振り見遣った章弦君の顔を見た。境丘学派の総帥は、黙ってただ顔を横に振って返した。
それで大慶も足が出なくなった。
章弦君の隣で
「立て」
そう命じられた立青が面を上げゆっくりと立ち上がると、光銘は無造作に剣の柄に手をかけ、抜剣した剣尖を無造作に一閃させた。
「あ、あああぁぁ……っ」
絶叫があがった。「……うああぁぁっ……目が……見えない! 何も……何も見えないっ!」
絶望の声を上げて膝をついた立青の顔は、真一文字に掻き切られた両目から噴き出す鮮血で染まっていた。
そんな立青にしがみついて泣く妹の声が、唸り声に変わった兄の慟哭に重なり、陣幕の中は粛然となった。
そんななかで剣を鞘に戻した光銘は事も無げに言った。
「命は取らぬ。我が衣を汚した妹の罪を
徐云は、自分の隣の何捷の中で張り詰めてゆくものが、一気に弾けようとするのを感じた。