第35話
文字数 1,752文字
「おい、たいへんだ。どうも
「いま
「おい、それはやはり……
「うむ。新たな人事では昌公の閥が並ぶこととなるらしい」
「なんと…――」
皆が言葉を失うこととなった。
徐云のような若輩にも、その予感はあった。
先だって洛入した変法諮問の一陣は市内に留め置かれたままで、当の諮問はいっこうに開かれる気配がないというし、そもそも
変法を牽引するのは
西方巡察に付き従った鷲申君はこの人事に関わりようがなく、当の人事をもって逢の宮廷を主導しようという昌公の目論見が透けて見える。が、それは置くとして、より一層に問題があると感じるのは、頃王がこれを承知した上で、鷲申君を巡察の随員に加えたのであろう
鷲申君によって開かれ、その甥の章弦君に引き継がれた境丘学派にとり、頃王の寵が鷲申君より離れてゆく事態は由々しきことだった。
その何捷は堂の端で牘に走らせる筆を休めて人だかりに目を向けていたが、徐云の視線に気づくと、ひとつ頷いて机に向き直り、再び筆を走らせ始めた。
彼にしてみれば境丘の学派に列なるのは学ぶ場所を得るためであり、立身に学閥を頼るつもりはないのだから、洛邑での政争に一喜一憂することは馬鹿げているのだろう。
そんな徐云と何捷の間の微妙な空気感などとは関係なしに、堂内は学徒らの若い声で
「……しかし、いったいなんだって
何捷と意見を交わすことを諦めた徐云が、誰ともなく呟いたその声に、一人の少年が振り返った。つい先ごろ高偉瀚の門人に入ったばかりの、
猫を思わせる切れ長の目を澄ませ、張暉は首をかしげた。
「なんだ、
「
張暉という少年は冠礼は
案の定、張暉は
「
「それは王権の強化だろう?」
徐云の回答に、張暉はわざとらしく徐云の顔を見返してみせた。その幼い顔が、ええ、そうですとも。ですが、いったい
徐云は、そのことについて、朧げな形のようなものを思い描くことは出来るのだが、それを言葉にして伝えることまではできなかった。
「さて?」 張暉は楽し気に回答を促してくる。
と――、
「おい、誰からの情報なのだ? いやそれはともかく、勿体つけずに早く教えろ」
声変わりしていない張暉の高い声に、他の学徒らがどっと迫った。
「まいりましたねえ。これは内密の話だと釘を刺されているんですが」
いったい事の重大さがわかっているのかどうか。姉の婚約者の官位のことでも話題にするような気楽さ呟くと、張暉は周りの先輩学徒らに近くに寄るよう促がした。
「あくまで、
衆目が集まるのを待ってから張暉は云った。
「――天子さまは