第69話
文字数 1,791文字
この数日で、籠城する兵らの意気はいよいよ阻喪していた。
すでに十月の半ば…――。
白河を吹き渡る風は
南から折れて流れる白河を上ってゆけば、洛邑、桃原へと到る。つい一つきほど前まで、これら姚姓の都の華やかさの中にあったことが嘘のようなうら寂しさが、彼らの心胸を萎えさせていた。
そんな寂寥のなか
「そなた、たしか境丘から馳せ参じた――」
まだ加冠に達していないのか、その頭上に
その顔は、疲労に目を落ち
「――…戦には不慣れであろうに、よくぞ駆けつけてくれた。礼を申すぞ」
「過分なお言葉、恐縮至極にございます。五人の
澄んだ
「五人、とな……。それではそなたの仲間は、まだ全員がこの城内にいるのか」
衛府の士ですら、櫛の歯の欠ける如くに城を去っている。一度はわざわざ宮城から駆けつけてきた官らも、夜が明けるたびに少しずつ姿を消してゆく。それを我が右腕と
正直なところ、姚華は、洛邑の緒戦からこの方、下官・学徒らのことなど、ほとんど失念していた。だがそんな中にあって、桃原の境丘から参じてきた六人はいまだ自分を信じ、この沮に留まっているという。
志はあっても、所詮は筆硯のみを相手にしてきた彼らである。いざ戦となればおそらく足手まといになるに違いない。この期に及んでもなお自分に従う加冠すら終えていない若者に、姚華は突然にうしろめたさを覚えた。
「そなた……そなた、名はなんという」
「はい。
誇らし気に自らの出生の姓を口にした騰政の若い顔を見るや、境丘門道に連なる学堂の佇まいがまざまざと脳裏に思い起こされた。最後に学舎を訪れたのは、いったい何時だったか、……ふと思った。
いや、それを言うならば、最後に賢人と
あれほど懸命に学鑚したことは、いったい何だったのであろう。〝百家の争鳴〟に身を置いた日々は、どこに行ってしまったのだろう……。姚華は、ひっ、と息を呑んだ。
「いかがなさいました、太師」
「い……いや、なんでもない。もうよい、下がれ」
「ですが、お顔の色が優れませぬ」
「わしに構うな! さっさと下がれ」
激しく袖を振って騰政を追い払うと、姚華は冑を投げ打ち、両手で髪を掻きむしって
適当な文が浮かばないのも道理だ。思えばもう何年もの間、書籍に手を触れていない。かつて毎日のように読みふけった群書は、今ごろ洛邑の邸の片隅で埃を被っていることだろう。
(わしは――わしは、いま、何をしておるのか……)
若かりし日、自分はたしかに古の五帝の仁政に胸を躍らせ、荒れ
しかし、いま振り返ればどうか。治世の理念を忘れ果て、天子を操り、国を
自分と
そのような大事すら失念していた自分に、姚華は今更ながら愕然とした。
然るに、なぜあの若者はこんな自分を慕い北の果てにまで