第43話 「細川はあなたに呉れてあげるわ」 

文字数 539文字

 朝一番に、慌しく理恵がやって来た。
普段、身嗜みの良い彼女が、化粧は崩れ髪を振り乱していた。
「昨夜、何処へ行っていたのよ!」
噛みつきそうな勢いである。
「何処へも行かないわよ。店閉めて、此処へ帰って来て」
「居なかったわ、ベルを押しても!」
「何時頃?」
「十一時半」
「寝入り端かしら・・・近頃、寝つきが悪くて、催眠剤を飲んでいるから」
「細川さん、来たでしょう?」
「十一時近くまで店であなたを待って居たわ」
「一緒にドライブに行ったでしょう?」
「そんな元気無いわよ、もう・・・」
理恵の表情が急変して険しくなった。顔は憤怒で燃えていた。
「早希、空恍けるのもいい加減にしてよ!」
「えっ?」
「私、細川のマンションに張り込んでいたのよ。朝帰りした彼に問い詰めたら、あっさり白状したわ!」
ああ、やっぱり二人はそういう仲だったんだ・・・
「あなたって最低ね!十年来の親友を裏切るなんて!・・・絶望的だわ」
早希は俯いて両手で顔を覆った。
「あなたの顔なんて二度と見たくないわ!さよなら!」
理恵は語気荒くそう言って出口へ向かい、途中で、つと、振り向いた。
「細川はあなたに呉れてあげるわ、じゃあね」
理恵の後姿を見送った早希の胸に深い悔恨の思いがじわぁ~っと拡がった。
外には、いつの間にか、小雨が降り出していた。
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