第40話 「こっちへ帰って来い、俺のところへ嫁に来い!」
文字数 1,348文字
暫く沈黙が続いた。
そして、唐突に沢木が言った。
「こっちへ帰って来い。そして、俺のところへ嫁に来い!」
「えっ、耕ちゃんと結婚するの?」
突然の思いもよらぬ沢木の言葉に、恵子は呆れた表情をした。
「そうだ。結婚しよう!」
沢木の胸には急に熱いものが込み上げて来ていた。
そうだ!この一言を言う為に、子供の頃から今日まで、二十八年間も懸かったのだ!俺はお恵がずうっと好きだったのだ!
冗談交じりに聞いていた恵子も、沢木の真剣な眼差しに、笑いを消して、じっと見返して来た。
「ありがとう。嬉しいわ。でも、私で良いの?」
「ああ。お前でなきゃ駄目なんだよ!」
テーブルの上に置かれた沢木の左手に、恵子の右手がそっと重なった。恵子は目を潤ませていた。
最後のデザートを食べ終えた二人は、混み合った店内の通路を通り抜けて、出口のカウンターで勘定を済ませてから、街路へ出た。
恵子が腕を絡ませて来た。初めてのことであった。沢木は、あれっ、と思ったが、何も言わなかった。独りで突っ張って来たキャリアウーマンではなく、幼なじみの普通の女の娘が、そこに居た。
・・・何があっても、どんな時でも、お前のことは必ず俺が守ってやるぞ!お恵・・・
二人は互いの家の前で「それじゃ」「お休みなさい」と今までと変わらぬ挨拶を交わして、それぞれの家の中へ入って行った。
それから二日間、恵子からは何の連絡も無かった。沢木は気懸かりではあったが、自分から電話をするのを躊躇った。
沢木には、真実にこれで良かったのだろうか、と自分自身に問い詰めるものがあった。安っぽい同情に駆られて、或いは、可哀想にという憐憫の情から、思わず「結婚しよう」と口走ったのではないか?俺は恵子に大変失礼なことをしたんじゃないか?あいつには迷惑だったんじゃないのか?俺はもっと繊細な思いやりのある寛大な態度を取るべきだったのだろうか?沢木は、自身に問い詰めれば詰めるほど、惑乱するばかりであった。が、反面、否、あいつも俺の気持は子供の頃から嫌やと言うほど解っていた筈だし、あいつもまた俺と同じ思いを持っていたに違いない、それは俺が一番よく理解している、とも思った。
三日目の昼、沢木が食事を終えて事務所に帰って来て間も無く、恵子から携帯に電話が入った。
「耕ちゃん?今から東京に帰るわ。この度は色々とありがとう。真実に嬉しかった!でも、このままじゃ、耕ちゃんと結婚することは出来ないわ」
「おい、お恵、一寸待てよ」
「私、もう一度自分を立直して来る。今の私じゃ耕ちゃんに失礼だもの。仕事にも人生にもチャレンジし直して、もう一度輝きを取り戻して来るわ」
「何もそんなに無理しなくても、今のお前で十分なんだよ」
「ううん、駄目よ。耕ちゃん、私が生きる自信を取り戻して帰って来たら、その時は、耕ちゃんの嫁さんにしてくれる?」
電話の声の向こうで、東京行きの新幹線がホームに入って来るアナウンスが微かに聞こえた。
「解った!一年でも二年でも待っていてやるよ!お前と俺は何もかも知り合っている幼なじみなんだからな。しっかりやって早く帰って来い。何かあったら今度はちゃんと電話して来るんだぞ」
沢木は恵子の笑顔を思い浮かべて、あいつなら大丈夫だ、きっと一人で立ち直れるだろう・・・そう自らに言い聞かせた。
そして、唐突に沢木が言った。
「こっちへ帰って来い。そして、俺のところへ嫁に来い!」
「えっ、耕ちゃんと結婚するの?」
突然の思いもよらぬ沢木の言葉に、恵子は呆れた表情をした。
「そうだ。結婚しよう!」
沢木の胸には急に熱いものが込み上げて来ていた。
そうだ!この一言を言う為に、子供の頃から今日まで、二十八年間も懸かったのだ!俺はお恵がずうっと好きだったのだ!
冗談交じりに聞いていた恵子も、沢木の真剣な眼差しに、笑いを消して、じっと見返して来た。
「ありがとう。嬉しいわ。でも、私で良いの?」
「ああ。お前でなきゃ駄目なんだよ!」
テーブルの上に置かれた沢木の左手に、恵子の右手がそっと重なった。恵子は目を潤ませていた。
最後のデザートを食べ終えた二人は、混み合った店内の通路を通り抜けて、出口のカウンターで勘定を済ませてから、街路へ出た。
恵子が腕を絡ませて来た。初めてのことであった。沢木は、あれっ、と思ったが、何も言わなかった。独りで突っ張って来たキャリアウーマンではなく、幼なじみの普通の女の娘が、そこに居た。
・・・何があっても、どんな時でも、お前のことは必ず俺が守ってやるぞ!お恵・・・
二人は互いの家の前で「それじゃ」「お休みなさい」と今までと変わらぬ挨拶を交わして、それぞれの家の中へ入って行った。
それから二日間、恵子からは何の連絡も無かった。沢木は気懸かりではあったが、自分から電話をするのを躊躇った。
沢木には、真実にこれで良かったのだろうか、と自分自身に問い詰めるものがあった。安っぽい同情に駆られて、或いは、可哀想にという憐憫の情から、思わず「結婚しよう」と口走ったのではないか?俺は恵子に大変失礼なことをしたんじゃないか?あいつには迷惑だったんじゃないのか?俺はもっと繊細な思いやりのある寛大な態度を取るべきだったのだろうか?沢木は、自身に問い詰めれば詰めるほど、惑乱するばかりであった。が、反面、否、あいつも俺の気持は子供の頃から嫌やと言うほど解っていた筈だし、あいつもまた俺と同じ思いを持っていたに違いない、それは俺が一番よく理解している、とも思った。
三日目の昼、沢木が食事を終えて事務所に帰って来て間も無く、恵子から携帯に電話が入った。
「耕ちゃん?今から東京に帰るわ。この度は色々とありがとう。真実に嬉しかった!でも、このままじゃ、耕ちゃんと結婚することは出来ないわ」
「おい、お恵、一寸待てよ」
「私、もう一度自分を立直して来る。今の私じゃ耕ちゃんに失礼だもの。仕事にも人生にもチャレンジし直して、もう一度輝きを取り戻して来るわ」
「何もそんなに無理しなくても、今のお前で十分なんだよ」
「ううん、駄目よ。耕ちゃん、私が生きる自信を取り戻して帰って来たら、その時は、耕ちゃんの嫁さんにしてくれる?」
電話の声の向こうで、東京行きの新幹線がホームに入って来るアナウンスが微かに聞こえた。
「解った!一年でも二年でも待っていてやるよ!お前と俺は何もかも知り合っている幼なじみなんだからな。しっかりやって早く帰って来い。何かあったら今度はちゃんと電話して来るんだぞ」
沢木は恵子の笑顔を思い浮かべて、あいつなら大丈夫だ、きっと一人で立ち直れるだろう・・・そう自らに言い聞かせた。