第2話 「これからは大人の思い出を一緒に作りましょうよ」 

文字数 1,272文字

 そして、真理が靖彦を案内したのは、香林坊片町の犀川沿いに隠れ家のようにひっそりと店を構えるたった十二席の小さなフレンチレストランだった。
重い扉を押して店内に入った二人は、都会の喧騒から離れ、ゆっくりと流れる時間の中で、独創性溢れる艶やかなコース料理とゴージャスなワインを味わうことになった。
二人は居心地の良い快適な空間で食事もワインもじっくり堪能して、至福のひと時を過ごした。
 それから真理が靖彦を連れて行ったのは生バンドの入ったグランドクラブだった。
女性シンガーのショーが終わってライトが少し落とされ、ムーディーなブルースの曲が奏でられ始めた。
真理は青く仄暗いフロアに靖彦を誘い、二人は抱き合って踊り始めた。
「あなたの眼って、素敵ね」
「君もチャーミングだよ」
「涼し気で・・・好きだったなあ、その眼」
「会えて嬉しかったよ」
真理は靖彦にピタリと身体を寄せて彼の胸に顔を埋めた。靖彦も真理を抱く腕に力を込めた。サックスの音色と淡い灯りに酔ったのか、真理は瞳を潤ませ、睫毛が濡れていた。
 
 グランドクラブを出た靖彦は真理をタクシーに乗せて、駅前の超高層ホテルへ彼女を送って行った。
部屋の前で引き返そうとした靖彦を真理が止めた。
「今日一日は未だ終わってないわ」
真理はそう言って靖彦の腕を取り彼を中へ引き入れた。
部屋に入ると直ぐに、真理は靖彦の首に両腕を回して唇を合わせて来た。それは熱い狂おしい深い接吻だった。靖彦もしっかりと真理を抱きしめた。
唇を離した真理は燃えるような瞳で覗き込むように靖彦の眼をじっと見つめながら、彼の上衣を脱がせネクタイを解き、シャツのボタンを外してズボンのベルトを緩めた。靖彦も真理の眼を凝視して彼女の衣服を一枚一枚ゆっくりと剥がしタイトスカートのジッパーを引き下ろした。生まれたままの姿になった二人は唇を合わせ、抱き合って縺れながらベッドに倒れ込んだ。
真理は肉体を固く強張らせ眼を見開いて靖彦を受け入れた。靖彦は優しく緩やかに突き進んだ。靖彦の優しい愛撫に、やがて、真理は心を解いて肉体を開き、あ~あぁ、あ~あぁ、と喘ぎ始めた。靖彦の動きが強く激しくなるに連れて真理は昇り始め、仰け反ったり沈んだりを繰り返しながら、幾度となく昇りつめて、やがて二人は頂点に達して、一緒に果てた。
身体を離した靖彦の傍で、真理は暫く放心したように定まらぬ視線を宙に泳がせていたが、やがて、靖彦の胸に顔を埋めて、言った。
「ああ、良かったぁ・・・わたし、蕩けちゃったわ・・・」
靖彦は真理の滑らかな肩を抱き寄せて括れた背中を優しく撫でた。
暫くして、潮が退くように余燼が肉体から退いて行った真理は浴室へ消えて行った。
出て来た彼女は下着をつけ始めた。
「今日は一日付き合ってくれて、真実に有難う」
着衣を終えた真理はバッグを手に持って立ち上がった。
それから、ドアの前で立ち止まった彼女は靖彦の方を振り向いて言った。
「ああ、さっぱりした。これでもう、何の後顧の憂いも未練も無く、彼と結婚出来るわ」
後ろ手にドアを閉めて真理はリザーブした別の部屋へと出て行った。
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