第34話 伊豆の恋人岬でプロポーズした

文字数 971文字

 一カ月後、宏一は美千代を伊豆の恋人岬へ誘った。
一八〇度以上のパノラマが拡がり、富士山や駿河湾を一望出来る素晴らしい景観の岬に愛の鐘「ラブコールベル」はあった。この鐘を三回鳴らしながら愛しい人の名を呼ぶと愛が実ると言われている。
此処で、宏一は正面から真直ぐに美千代と向き合って、彼女にプロポーズした。
「美千代さん、僕と一緒になってくれませんか?否、僕と結婚して下さい!」
「えっ?」
突然の宏一の申し出に、美千代は慌てて、直ぐに言葉が出なかった。
「でも、私なんかで良いんですか?」
「君でなきゃ駄目なんです、僕は!」
美千代はじい~っと宏一の眼を覗き込むようにしながら答えた。
「良いんですね、真実に、わたしで」
「ああ!」
彼女の切れ長の両目蓋から涙が流れ落ちた。
二人は頷き合って「愛の鐘」を鳴らした。
「美千代さん」
「宏一さん」
十一月の晩秋の空に、鐘の音は、二人の愛を祝福するように澄んだ音色を残して、消えて行った。
 その昔、土肥で漁師をしていた「福太郎」と恋人岬の在る小下田で畑仕事をしていた「およね」の話が恋人岬の逸話になっている。二人は惹かれ合って恋人となったが、一緒に暮らすことは出来なかった。なかなか逢うことが出来ない「およね」は近くの神社へ毎日「福太郎」との恋を願掛けしていた。その「およね」の一途な恋心にうたれた神様が二つの鍵を「およね」に授けた。「およね」は神様の慈悲を信じ「福太郎」へ片方の鍵を届けた。そして、「福太郎」が恋人岬を通る際に「およね」は岬に立って三回鐘を鳴らし、「福太郎」も呼応して互いの愛を確かめ合った。恋人や愛おしい人を信じる気持が二人を結びつけ、その気持を周りが受け止めて初めて「およね」と「福太郎」の恋が成就したのであった。
「いつの時代も、信じる気持が絆を作るのですね」
「福太郎とおよねのように互いを信じる努力を続ければ、それは絆になり、永遠の愛となる筈ですよ」
 二人は鐘を鳴らした後、遊歩道の入口に在った恋人岬事務所に立ち寄って恋人宣言証明書を発行して貰った。
「恋人宣言証明書って素敵ね。恋人の先に結婚という終着駅が在るということですね。誰が考えたのでしょう・・・私たちも恋人のままの気持で居ることを大事にしましょうね」
 年も押し詰まった十二月の中頃、宏一と美千代は連れ立って結婚相談所を訪れ、婚活会を退会した。
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