露見(二)
文字数 2,084文字
「どうして……あんな風になっちゃったの……?」
世良が疑問を抱くのは至極当然のことだった。瑞々しい若さに溢れていた同級生。それが顔を合わせない数日の間に、一気に年老いた姿で死亡していた。
世良、彼女の肩を抱く水島、花蓮は並んで廊下に座っていた。少女二人はへたり込んでしまった、と言う表現が正しいのかもしれない。
「二人がおばあさんみたいに……。何で……?」
「化け物が、寮の中にまで入り込んでいるんだよ」
「そんな! ここで化け物の姿は見ていませんよ!?」
「僕達も巡回してるけど見ちゃいない。でもセラ……、脅かすようだけど落ち着いて聞いて」
水島は冷静だった。過去の殺人と今回を比べて分析していた。
「今まで起きていた殺人は人間が起こしたものだった。凶器が現場に残っていたからね。だけど今回は……殺害方法すら判らない。酸素や糖分の過剰摂取で老化スピードが早まると言われているけど、いくら何でも
全くだ。少女だった者が短期間で老婆になるなんて、異常としか言い表せない。
「二人は化け物に……殺された……。でも、でもどうやって寮内に……?」
「それはまだ判らない。だけど居るんだ」
何処に潜んでいるのか、どうやって侵入を果たしたのかまるで判らない。だからこそ怖い。いつもは友人の死にまず悲しみを感じる世良だったが、今回ばかりは得体の知れない敵に恐れを感じて身を縮めた。
そんな世良を水島が抱き寄せたが、世良は大人しく彼の胸に顔を埋めた。
……どれくらいの時間が経ったのだろう。藤宮と多岐川が暗い表情で戻ってきた。
「隊長、どうでした?」
水島の問い掛けに、藤宮はまず大きく息を吐いた。
「……ここ以外でも八部屋で、合計十四体の死体を発見した」
「!?」
世良にはもはや叫ぶ気力が無かった。自分達の知らない間に大量の死者が出ていた。
気丈にも花蓮が聞いた。
「隊長さん、死んだ生徒はどんな様子だった……?」
「ここと同じだ。学年はまちまちだったが皆まるで老人のような外見になっていて、……衣服をほとんど身に着けていなかった」
花蓮は唇を結んだ。
「それとな、他にも問題が有るんだ。引き籠もっていた生徒達の衰弱が激しい。立つことすらままならない状態の生徒も居た。あのままでは……近い内に命を落とすだろう。飯も食えていないらしいから」
「心理的なものですかね」
「いや……、生徒達は元気になりたいと願っている。だが身体に力が入らないそうだ」
「その生徒達も、若さを奪われているんですかね?」
水島の意見に皆ギョッとしたものの、そうなのかもしれないと考えた。生徒達の体内で何かが起きたと言うよりも、外部から強制的に若さを吸い取ったと言い換えた方がしっくりきた。
「隊長、僕は寮内に化け物が侵入したと考えているんですが」
「……俺と多岐川も同意見だよ。あんな殺し方は人間業 じゃできない」
「問題は、何処から入り込んだかですよね。一階は僕達が毎晩見張っていますから不可能でしょう?」
多岐川が指で眼鏡を上げながら有り得る可能性を考えた。
「壁をよじ登って窓から侵入……とか?」
「しかし化け物の姿を見た者は居ないだろう? どうやって俺達の目を搔い潜って生徒を何人も襲えたんだ」
「悲鳴すら聞こえませんでしたね。声を上げる暇も無いくらい、一瞬で殺害されたということでしょうか?」
「一人きりならともかく、二人で一緒に居た部屋なら、どちらかが騒ぎそうなモンだが。いくら衰弱していても声くらい……」
犯人像を絞られず、捜査は暗礁に乗り上げるかと思われた。
しかしここで花蓮が久し振りに発言した。
「……よく知っている相手なら、まさか自分を殺しに来たなんて思わず油断するだろうね……」
「ん?」という顔をした藤宮は花蓮に尋ねた。
「どういう意味だ、副寮長」
「化け物は、あたし達に怪しまれない格好をしているんだよ……。あたし達に発見されても化け物だとバレないように……」
「ちょっと待て、おい」
冷静な藤宮の顔が蒼ざめた。多岐川も、世良も。水島は平常だった。豪胆な男だ。
「それはつまり……、化け物が何かに擬態しているということか?」
花蓮は頷いた。擬態。生徒に怪しまれずに扉を開けて貰える対象。それは一つしかない。
「人間に……生徒に化けてるってことなのか……?」
呻くような藤宮の呟きに世良の恐怖心が極限まで高まった。自然と水島にしがみ付いてしまった。
世良を受け入れながら水島は花蓮に尋ねた。
「メッシュちゃん、アンタはまるで全てを知っているような口ぶりだね。……化け物が誰に擬態しているか、心当たりが有るんじゃないの?」
ハッとした全員の視線が花蓮に集中した。花蓮は世良以上にブルブル震えていた。藤宮が花蓮の肩に手を置いて優しく聞いた。
「つらいかもしれんが言ってくれや、副寮長。……誰なんだ?」
「……………………」
「頼む」
口にしたら仲間だと思っていた相手を、これからは魔物だと区別し直すことになる。それでも言わなければならなかった。
花蓮は両手で顔を覆い、泣きそうな声でその名を告げた。
「寮長の……神谷ソーコだよ……!」
世良が疑問を抱くのは至極当然のことだった。瑞々しい若さに溢れていた同級生。それが顔を合わせない数日の間に、一気に年老いた姿で死亡していた。
世良、彼女の肩を抱く水島、花蓮は並んで廊下に座っていた。少女二人はへたり込んでしまった、と言う表現が正しいのかもしれない。
「二人がおばあさんみたいに……。何で……?」
「化け物が、寮の中にまで入り込んでいるんだよ」
「そんな! ここで化け物の姿は見ていませんよ!?」
「僕達も巡回してるけど見ちゃいない。でもセラ……、脅かすようだけど落ち着いて聞いて」
水島は冷静だった。過去の殺人と今回を比べて分析していた。
「今まで起きていた殺人は人間が起こしたものだった。凶器が現場に残っていたからね。だけど今回は……殺害方法すら判らない。酸素や糖分の過剰摂取で老化スピードが早まると言われているけど、いくら何でも
アレ
は異常だよね?」全くだ。少女だった者が短期間で老婆になるなんて、異常としか言い表せない。
「二人は化け物に……殺された……。でも、でもどうやって寮内に……?」
「それはまだ判らない。だけど居るんだ」
何処に潜んでいるのか、どうやって侵入を果たしたのかまるで判らない。だからこそ怖い。いつもは友人の死にまず悲しみを感じる世良だったが、今回ばかりは得体の知れない敵に恐れを感じて身を縮めた。
そんな世良を水島が抱き寄せたが、世良は大人しく彼の胸に顔を埋めた。
……どれくらいの時間が経ったのだろう。藤宮と多岐川が暗い表情で戻ってきた。
「隊長、どうでした?」
水島の問い掛けに、藤宮はまず大きく息を吐いた。
「……ここ以外でも八部屋で、合計十四体の死体を発見した」
「!?」
世良にはもはや叫ぶ気力が無かった。自分達の知らない間に大量の死者が出ていた。
気丈にも花蓮が聞いた。
「隊長さん、死んだ生徒はどんな様子だった……?」
「ここと同じだ。学年はまちまちだったが皆まるで老人のような外見になっていて、……衣服をほとんど身に着けていなかった」
花蓮は唇を結んだ。
「それとな、他にも問題が有るんだ。引き籠もっていた生徒達の衰弱が激しい。立つことすらままならない状態の生徒も居た。あのままでは……近い内に命を落とすだろう。飯も食えていないらしいから」
「心理的なものですかね」
「いや……、生徒達は元気になりたいと願っている。だが身体に力が入らないそうだ」
「その生徒達も、若さを奪われているんですかね?」
水島の意見に皆ギョッとしたものの、そうなのかもしれないと考えた。生徒達の体内で何かが起きたと言うよりも、外部から強制的に若さを吸い取ったと言い換えた方がしっくりきた。
「隊長、僕は寮内に化け物が侵入したと考えているんですが」
「……俺と多岐川も同意見だよ。あんな殺し方は
「問題は、何処から入り込んだかですよね。一階は僕達が毎晩見張っていますから不可能でしょう?」
多岐川が指で眼鏡を上げながら有り得る可能性を考えた。
「壁をよじ登って窓から侵入……とか?」
「しかし化け物の姿を見た者は居ないだろう? どうやって俺達の目を搔い潜って生徒を何人も襲えたんだ」
「悲鳴すら聞こえませんでしたね。声を上げる暇も無いくらい、一瞬で殺害されたということでしょうか?」
「一人きりならともかく、二人で一緒に居た部屋なら、どちらかが騒ぎそうなモンだが。いくら衰弱していても声くらい……」
犯人像を絞られず、捜査は暗礁に乗り上げるかと思われた。
しかしここで花蓮が久し振りに発言した。
「……よく知っている相手なら、まさか自分を殺しに来たなんて思わず油断するだろうね……」
「ん?」という顔をした藤宮は花蓮に尋ねた。
「どういう意味だ、副寮長」
「化け物は、あたし達に怪しまれない格好をしているんだよ……。あたし達に発見されても化け物だとバレないように……」
「ちょっと待て、おい」
冷静な藤宮の顔が蒼ざめた。多岐川も、世良も。水島は平常だった。豪胆な男だ。
「それはつまり……、化け物が何かに擬態しているということか?」
花蓮は頷いた。擬態。生徒に怪しまれずに扉を開けて貰える対象。それは一つしかない。
「人間に……生徒に化けてるってことなのか……?」
呻くような藤宮の呟きに世良の恐怖心が極限まで高まった。自然と水島にしがみ付いてしまった。
世良を受け入れながら水島は花蓮に尋ねた。
「メッシュちゃん、アンタはまるで全てを知っているような口ぶりだね。……化け物が誰に擬態しているか、心当たりが有るんじゃないの?」
ハッとした全員の視線が花蓮に集中した。花蓮は世良以上にブルブル震えていた。藤宮が花蓮の肩に手を置いて優しく聞いた。
「つらいかもしれんが言ってくれや、副寮長。……誰なんだ?」
「……………………」
「頼む」
口にしたら仲間だと思っていた相手を、これからは魔物だと区別し直すことになる。それでも言わなければならなかった。
花蓮は両手で顔を覆い、泣きそうな声でその名を告げた。
「寮長の……神谷ソーコだよ……!」