朝日の中で広がる闇(三)
文字数 2,053文字
(正々堂々とはね。自分ではなくアンナちゃんの躰を差し出して、僕を味方に組み込んだ小悪党がよく言うよ!)
茜の言い分に苦笑した水島は、ニヤつきがバレないように左手で自身の口元を隠した。そして右手からは肩を抱いている世良の震えが伝わってきた。
「セラ、震えてるね。怖いの?」
「いいえ、怒っているんです」
全員が世良に注目した。
「ずっと、生徒が生徒を殺す意味が解らなかった。食料は充分に有るから取り合いにはならないし、何よりも異変に怯える被害者同士なのにどうしてって。……三件の殺人事件は、雫姫になりたい誰かが起こしたものだったんですね?」
私利私欲にまみれた身勝手な犯行動機。その為に四名の生徒が殺害された。それが解って世良は怒りに震えたのだ。
「そうだよ高月、全てはこの女ががやったんだよ!」
茜が再び詩音を指差し、詩音は金切り声で否定した。
「私じゃない!」
「じゃあ誰さ! 雫姫について詳しく知ってんのは、理事の娘である私とアンタだけじゃない! 私じゃないならアンタしか居ないんだよ!!」
「違うったら!! 私を潰す為にあなたが仕組んだんじゃないの!?」
「ふざけないで、メアリは私の陣営だったんだよ! わざわざ自分の戦力を減らす訳がないでしょうが!!」
「いい加減にして下さい!」
罵 り合う茜と詩音を世良が一括した。
「先輩達はそんなに生き神様として崇められたいんですか……? 知り合いが次々に死んでいっているのに、自分がチヤホヤされる方が大切なんですか? 島田先輩が殺されたんですよ? 桐生先輩はよく彼女と一緒に居たじゃないですか!」
「わ、私が殺したんじゃないから。シオンだから」
「違う! 私だっていくら何でもそこまではできない。私じゃない!」
自己主張ばかりで、未だに芽亜理の死を悼もうとしない二人に世良は苛ついた。
「あなた達は、絶対に生き神様にはなれません」
「な……」
「高月さん?」
世良は愚かな二名の上級生を真っ直ぐ見据えた。
「今は力が無くなって悪いものが噴き出してしまったけど、雫姫は土地とそこに住む人を護る優しい女神様なんでしょう? 利益ばっかり追って仲間を大切にしない先輩達が、そんな雫姫に選ばれると思いますか?」
「……………………」
「……………………」
茜と詩音には返せる言葉が無かった。
「私は異変を早く終わらせたいから迷宮へ行きますが、先輩達とパーティは組めません。後ろから刺されるのはごめんです」
詩音が反射的に否定した。
「高月さん、私はそんなことしない!」
世良は悲しそうに頭を左右に振った。
「ごめんなさい桜木先輩。……あなたを信用できません」
「!」
世良のこの言葉は詩音の胸に深く突き刺さった。茜に責められた時よりも何倍も胸が苦しくなった。
セラは立ち上がり、リーダーである藤宮に一礼してからレクレーションルームを出ていった。その後を水島が追った。二人の後ろ姿を小鳥と杏奈、多岐川が心配そうに見送った。
「私は何もしてないのに……。何で非難されなきゃいけないのよ……」
尚もぼやく茜を花蓮が諫めた。
「もうやめときな桐生。あたしもアンタらに不信感を持ったよ」
「だからメアリを殺したのは──」
「今回のことだけじゃない。今まで持っていた情報を隠していたことに腹が立つんだよ。知っていたら異変に対してもっと上手く対処できたかもしれない。犠牲者も減らせたかもしれないんだよ?」
「それは……」
「……アンタらが黙っていた理由はさ、あたし達を出し抜く為だろう? 高月の言う通りみんなの命より、自分達の利益を優先したんだ」
目を泳がせた茜と詩音を見て、花蓮は大きな息を吐いた。
「あたしも高月に賛成だわ。アンタらには迷宮探索に立候補して欲しくない。一緒に行動するの、怖いもん」
「何よ江崎、私とシオンを探索から外して、自分が雫姫に指名される気なの!?」
「その発想を何とかしろって言ってんだよ! これだけ言われてまだ解んないのかよ!?」
今度は花蓮と茜の言い合いになりかけたが、玄関方面が騒がしくなり二人の気は削 がれた。学院を出ていくと息巻いていた六人の生徒達が戻ってきたのだ。
やはり門を越えられなかったようで、全員が泣いていた。彼女達の逃げ道は断たれてしまったのだ。殺人鬼が徘徊する寮に残るしかなかった。
「桐生にシオン。絶望してるアイツらにさ、自分は正しいって胸張って言えるか?」
「……………………」
茜と詩音は押し黙った。これで反省してくれればいいのだが。
花蓮は横目で寮長である奏子を窺った。いつもなら奏子が積極的に動き、寮内の揉め事を収めようとするはずなのだが。
(やっぱり、最近のソーコは何か変だ。おかしくなったのは迷宮から帰ってきてからだよね。だからもうソーコを迷宮に行かせたくない。あたしが潜って原因を調べるしかないか……)
花蓮は密かに相棒のことを案じた。
藤宮と多岐川は難しい表情をして目配せし合った。警備隊員達は詩音を次代の雫姫として推し上げるつもりだったのだが、今回の件でそれは難しくなりそうだ。
茜の言い分に苦笑した水島は、ニヤつきがバレないように左手で自身の口元を隠した。そして右手からは肩を抱いている世良の震えが伝わってきた。
「セラ、震えてるね。怖いの?」
「いいえ、怒っているんです」
全員が世良に注目した。
「ずっと、生徒が生徒を殺す意味が解らなかった。食料は充分に有るから取り合いにはならないし、何よりも異変に怯える被害者同士なのにどうしてって。……三件の殺人事件は、雫姫になりたい誰かが起こしたものだったんですね?」
私利私欲にまみれた身勝手な犯行動機。その為に四名の生徒が殺害された。それが解って世良は怒りに震えたのだ。
「そうだよ高月、全てはこの女ががやったんだよ!」
茜が再び詩音を指差し、詩音は金切り声で否定した。
「私じゃない!」
「じゃあ誰さ! 雫姫について詳しく知ってんのは、理事の娘である私とアンタだけじゃない! 私じゃないならアンタしか居ないんだよ!!」
「違うったら!! 私を潰す為にあなたが仕組んだんじゃないの!?」
「ふざけないで、メアリは私の陣営だったんだよ! わざわざ自分の戦力を減らす訳がないでしょうが!!」
「いい加減にして下さい!」
「先輩達はそんなに生き神様として崇められたいんですか……? 知り合いが次々に死んでいっているのに、自分がチヤホヤされる方が大切なんですか? 島田先輩が殺されたんですよ? 桐生先輩はよく彼女と一緒に居たじゃないですか!」
「わ、私が殺したんじゃないから。シオンだから」
「違う! 私だっていくら何でもそこまではできない。私じゃない!」
自己主張ばかりで、未だに芽亜理の死を悼もうとしない二人に世良は苛ついた。
「あなた達は、絶対に生き神様にはなれません」
「な……」
「高月さん?」
世良は愚かな二名の上級生を真っ直ぐ見据えた。
「今は力が無くなって悪いものが噴き出してしまったけど、雫姫は土地とそこに住む人を護る優しい女神様なんでしょう? 利益ばっかり追って仲間を大切にしない先輩達が、そんな雫姫に選ばれると思いますか?」
「……………………」
「……………………」
茜と詩音には返せる言葉が無かった。
「私は異変を早く終わらせたいから迷宮へ行きますが、先輩達とパーティは組めません。後ろから刺されるのはごめんです」
詩音が反射的に否定した。
「高月さん、私はそんなことしない!」
世良は悲しそうに頭を左右に振った。
「ごめんなさい桜木先輩。……あなたを信用できません」
「!」
世良のこの言葉は詩音の胸に深く突き刺さった。茜に責められた時よりも何倍も胸が苦しくなった。
セラは立ち上がり、リーダーである藤宮に一礼してからレクレーションルームを出ていった。その後を水島が追った。二人の後ろ姿を小鳥と杏奈、多岐川が心配そうに見送った。
「私は何もしてないのに……。何で非難されなきゃいけないのよ……」
尚もぼやく茜を花蓮が諫めた。
「もうやめときな桐生。あたしもアンタらに不信感を持ったよ」
「だからメアリを殺したのは──」
「今回のことだけじゃない。今まで持っていた情報を隠していたことに腹が立つんだよ。知っていたら異変に対してもっと上手く対処できたかもしれない。犠牲者も減らせたかもしれないんだよ?」
「それは……」
「……アンタらが黙っていた理由はさ、あたし達を出し抜く為だろう? 高月の言う通りみんなの命より、自分達の利益を優先したんだ」
目を泳がせた茜と詩音を見て、花蓮は大きな息を吐いた。
「あたしも高月に賛成だわ。アンタらには迷宮探索に立候補して欲しくない。一緒に行動するの、怖いもん」
「何よ江崎、私とシオンを探索から外して、自分が雫姫に指名される気なの!?」
「その発想を何とかしろって言ってんだよ! これだけ言われてまだ解んないのかよ!?」
今度は花蓮と茜の言い合いになりかけたが、玄関方面が騒がしくなり二人の気は
やはり門を越えられなかったようで、全員が泣いていた。彼女達の逃げ道は断たれてしまったのだ。殺人鬼が徘徊する寮に残るしかなかった。
「桐生にシオン。絶望してるアイツらにさ、自分は正しいって胸張って言えるか?」
「……………………」
茜と詩音は押し黙った。これで反省してくれればいいのだが。
花蓮は横目で寮長である奏子を窺った。いつもなら奏子が積極的に動き、寮内の揉め事を収めようとするはずなのだが。
(やっぱり、最近のソーコは何か変だ。おかしくなったのは迷宮から帰ってきてからだよね。だからもうソーコを迷宮に行かせたくない。あたしが潜って原因を調べるしかないか……)
花蓮は密かに相棒のことを案じた。
藤宮と多岐川は難しい表情をして目配せし合った。警備隊員達は詩音を次代の雫姫として推し上げるつもりだったのだが、今回の件でそれは難しくなりそうだ。