6月7日の迷宮(一)
文字数 2,199文字
12時47分。迷宮探索を希望する世良は、小鳥と杏奈と共に一階へ降りた。本当は昨日倒れた小鳥には休んでもらって、杏奈に彼女を看てもらいたかったのだが、二人とも参加を強く表明した。世良に水島を近付けたくないというのが主な理由だった。
レクレーションルームに入ると既に警備隊員は三人揃っていた。生徒では世良達が一番乗りのようだ。藤宮が軽く片手を上げて挨拶してくれた。
「よ、早いね。身体は休めたかい?」
「はい。夜の警備、ありがとうございました」
世良は一礼した後、レクレーションルームの床に座った。彼女を挟む形で小鳥と杏奈も座った。
するとソファーに座っていた水島が立ち上がり、こちらへ向かってきたかと思うと、世良の隣にぴったり腰掛けた。そこに居た小鳥を腕と尻で押し退 けて。
「ちょっと何するんですか、女のコに向かって! それでも大人!?」
横へゴロンと転がった小鳥は強く抗議したが、水島は平然と返した。
「この程度で押し負けて、大人は自分に優しくしろと主張するお子様には、命懸けの迷宮探索なんて土台無理だよ。部屋に戻って引き籠もってな」
「なっ…………」
小鳥は怒りで顔を赤くしたが、水島のそれは正論だった。彼女にも解っているようで、それ以上水島に反論しなかった。
水島は世良には優しい目を向けて、肩を抱いてきた。
バシッ。
即座に世良はその手を叩き落とした。水島はめげずにまた手を伸ばしたが、再度世良に叩き落とされた。
「……少しは僕に優しくしてくれない?」
「この程度で打ち負かされて、優しくしろと言い出す人には、命懸けの迷宮探索は土台無理ですよ」
先程の水島の台詞を使って、世良は小鳥に代わって意趣 返しをした。藤宮と多岐川がブッと噴き出した。
「お姉様が私の仇討ちを……」と小鳥はキラッキラの目を向けていた。
「ハイハイ解りました~。今は触るの我慢します~」
不貞腐 れた水島を多岐川が咎めた。
「今は、ではなくいつでも駄目だ。女生徒に手を出すな。距離が近過ぎる、高月さんからすぐに離れろ」
水島はニッコリ笑って爆弾発言をかました。
「でも僕達、付き合ってるんで」
「はぁ!? ほ、本当ですか高月さん!」
素で驚いて声が裏返った多岐川へ、世良は静かに訂正した。
「水島さんの妄想です」
「ですよね……。良かった、疲労であなたがどうかしてしまったのかと心配しましたよ」
「二人とも酷くない?」
「賑やかね、もう始まってるの?」
そこへ浴衣姿の少女が二人登場した。他の少女達がTシャツにショートパンツ姿なので、浴衣の花模様が一層艶 やかに際立った。
「お嬢さん達は誰だい?」
藤宮の問い掛けに、紺色の浴衣の少女が深く頭を下げた。
「失礼。五月雨ミリヤとユリヤの姉妹でございます。皆様が校舎へ行かれていると耳にしまして、ぜひ私達も参加させて頂きたく参上しました」
「……現在校舎は危険な状態だ。命の保証ができないくらいにな」
「はい。寮長と生徒会長から校舎に近付かないよう言われました。ですが皆さんは連日向かわれている……。危険であっても、行かなければならない理由が有るのですよね?」
「………………」
「それは化け物の出現と関係が有るのではないですか?」
「だとしたらどうする?」
「化け物の出現を止める手立てが有るのなら、お手伝いしたいのです。もうクラスメイトが死ぬ姿は見たく有りません」
「私達運動神経いいから、足手まといにはならないと思うよ?」
白い浴衣を着た妹の百合弥も、姉の意見を後押しした。
「浴衣かぁ……。セラも似合いそうだな。いやセラには甚平 の方がキマるかな……」
水島がどうでもいいことをブツブツ言っていた。
「校舎に生徒が立ち入ることは理事会が許可を出しているが、身に起こったこと全てが自己責任となるぞ?」
「覚悟の上です」
「そうか……。いいだろう、今日の迷宮探索メンバーは……」
「待ってよ、私もここに居るよ?」
茜、詩音、そして京香までもがレクレーションルームに入ってきた。
「清水さん、まだ寝てなきゃ!」
世良は驚いて京香へ注意した。打撲傷は数日間痛むというのに。
「大丈夫。私は江崎先輩ほど酷くなかったのよ」
「そうなの? でも無理はしないでね」
「隊長~、流石に人数多過ぎませんか? 大勢で行った方がいいって言ったの僕ですけど~、これだと狭い通路でわちゃわちゃしますよ」
「そうだな……五人組くらいがちょうどいいか。警備隊員二名に、生徒三名。それなら目が届きやすいから俺達としても護りやすい」
「え、たったの三人? それじゃあ八分の三? せめて枠は四人にしてよ。そうしたら二分の一の確率になるから」
茜が不満を漏らした。
「まぁ、前衛三人、後衛三人と考えればいいか……。よし、生徒は四人までだ。これ以上は増やさん。誰が行く?」
「私は絶対に行くから」
「私も行きたいです」
「お姉様にどこまでも付いていきます」
全員譲らなかった。
「文句無しのジャンケン勝負をしろ。今日の運が良い奴が行けばいい」
藤宮にそう言われて、少女達は己の右手の勝負運に賭けた。結果は世良、杏奈、美里弥、詩音の四名に決まった。
負けた茜が文句を垂れた。
「後衛役が居ないじゃない! アーチェリーの私が行くべきなのよ!!」
「ご心配無く。私が遠方射撃でサポートします」
多岐川がライフル銃を持って宣言した。銃を目にした茜はもう何も言えず、警備隊員の参加は多岐川と水島に決まった。
レクレーションルームに入ると既に警備隊員は三人揃っていた。生徒では世良達が一番乗りのようだ。藤宮が軽く片手を上げて挨拶してくれた。
「よ、早いね。身体は休めたかい?」
「はい。夜の警備、ありがとうございました」
世良は一礼した後、レクレーションルームの床に座った。彼女を挟む形で小鳥と杏奈も座った。
するとソファーに座っていた水島が立ち上がり、こちらへ向かってきたかと思うと、世良の隣にぴったり腰掛けた。そこに居た小鳥を腕と尻で押し
「ちょっと何するんですか、女のコに向かって! それでも大人!?」
横へゴロンと転がった小鳥は強く抗議したが、水島は平然と返した。
「この程度で押し負けて、大人は自分に優しくしろと主張するお子様には、命懸けの迷宮探索なんて土台無理だよ。部屋に戻って引き籠もってな」
「なっ…………」
小鳥は怒りで顔を赤くしたが、水島のそれは正論だった。彼女にも解っているようで、それ以上水島に反論しなかった。
水島は世良には優しい目を向けて、肩を抱いてきた。
バシッ。
即座に世良はその手を叩き落とした。水島はめげずにまた手を伸ばしたが、再度世良に叩き落とされた。
「……少しは僕に優しくしてくれない?」
「この程度で打ち負かされて、優しくしろと言い出す人には、命懸けの迷宮探索は土台無理ですよ」
先程の水島の台詞を使って、世良は小鳥に代わって
「お姉様が私の仇討ちを……」と小鳥はキラッキラの目を向けていた。
「ハイハイ解りました~。今は触るの我慢します~」
「今は、ではなくいつでも駄目だ。女生徒に手を出すな。距離が近過ぎる、高月さんからすぐに離れろ」
水島はニッコリ笑って爆弾発言をかました。
「でも僕達、付き合ってるんで」
「はぁ!? ほ、本当ですか高月さん!」
素で驚いて声が裏返った多岐川へ、世良は静かに訂正した。
「水島さんの妄想です」
「ですよね……。良かった、疲労であなたがどうかしてしまったのかと心配しましたよ」
「二人とも酷くない?」
「賑やかね、もう始まってるの?」
そこへ浴衣姿の少女が二人登場した。他の少女達がTシャツにショートパンツ姿なので、浴衣の花模様が一層
「お嬢さん達は誰だい?」
藤宮の問い掛けに、紺色の浴衣の少女が深く頭を下げた。
「失礼。五月雨ミリヤとユリヤの姉妹でございます。皆様が校舎へ行かれていると耳にしまして、ぜひ私達も参加させて頂きたく参上しました」
「……現在校舎は危険な状態だ。命の保証ができないくらいにな」
「はい。寮長と生徒会長から校舎に近付かないよう言われました。ですが皆さんは連日向かわれている……。危険であっても、行かなければならない理由が有るのですよね?」
「………………」
「それは化け物の出現と関係が有るのではないですか?」
「だとしたらどうする?」
「化け物の出現を止める手立てが有るのなら、お手伝いしたいのです。もうクラスメイトが死ぬ姿は見たく有りません」
「私達運動神経いいから、足手まといにはならないと思うよ?」
白い浴衣を着た妹の百合弥も、姉の意見を後押しした。
「浴衣かぁ……。セラも似合いそうだな。いやセラには
水島がどうでもいいことをブツブツ言っていた。
「校舎に生徒が立ち入ることは理事会が許可を出しているが、身に起こったこと全てが自己責任となるぞ?」
「覚悟の上です」
「そうか……。いいだろう、今日の迷宮探索メンバーは……」
「待ってよ、私もここに居るよ?」
茜、詩音、そして京香までもがレクレーションルームに入ってきた。
「清水さん、まだ寝てなきゃ!」
世良は驚いて京香へ注意した。打撲傷は数日間痛むというのに。
「大丈夫。私は江崎先輩ほど酷くなかったのよ」
「そうなの? でも無理はしないでね」
「隊長~、流石に人数多過ぎませんか? 大勢で行った方がいいって言ったの僕ですけど~、これだと狭い通路でわちゃわちゃしますよ」
「そうだな……五人組くらいがちょうどいいか。警備隊員二名に、生徒三名。それなら目が届きやすいから俺達としても護りやすい」
「え、たったの三人? それじゃあ八分の三? せめて枠は四人にしてよ。そうしたら二分の一の確率になるから」
茜が不満を漏らした。
「まぁ、前衛三人、後衛三人と考えればいいか……。よし、生徒は四人までだ。これ以上は増やさん。誰が行く?」
「私は絶対に行くから」
「私も行きたいです」
「お姉様にどこまでも付いていきます」
全員譲らなかった。
「文句無しのジャンケン勝負をしろ。今日の運が良い奴が行けばいい」
藤宮にそう言われて、少女達は己の右手の勝負運に賭けた。結果は世良、杏奈、美里弥、詩音の四名に決まった。
負けた茜が文句を垂れた。
「後衛役が居ないじゃない! アーチェリーの私が行くべきなのよ!!」
「ご心配無く。私が遠方射撃でサポートします」
多岐川がライフル銃を持って宣言した。銃を目にした茜はもう何も言えず、警備隊員の参加は多岐川と水島に決まった。