迷宮へ(二)
文字数 2,174文字
「え? ええ? 餓鬼の死体が消えていく……?」
三人の目の前で倒れた餓鬼がシュウゥゥと霧散した。校舎内には陽 が射し込んでいないのに。
「どうして?」
不思議がる世良に、京香が顎に手を当てて見解を述べた。
「……化け物達は迷宮が生み出した生命体で、死んだらまた迷宮と一体化する……吸収されるってことじゃないかしら?」
「お姫様は発想がいちいち独創的だよね~」
水島のツッコミに京香は不機嫌になった。
「じゃあ、あなたはこの現象をどう考えるのですか?」
「ハハ、頭を使うのは多岐川さんに任せてるから~」
お調子者は全く悪びれていなかった。
「それよかさ、廊下が歪んで見えて酔いそうじゃね?」
水島の呟き通り、直線のはずの廊下が蜃気楼のようにユラユラ歪んでいた。平衡感覚がおかしくなりそうだ。しかし歩く分には異常は無かった。靴の下にはしっかりと固い質感が有った。
「ここは……職員室だったんですが、別の空間になっちゃいました」
世良に言われて職員室だった部屋を覗いた水島は、室内に空いた巨大な穴と下り坂道の先の階段を視認した。
「いかにもって階段だけど、今日は一階だけの探検だから行けないか。学院には元々地下室が在ったの?」
「いいえ。校舎は一階から三階までです」
「ハハ……。いよいよ現代科学じゃ解明できない現象が起きたな」
「それを言うなら餓鬼の出現だって」
「うん。でもさ、アイツらは理由がつくんだよ。海外にね、洞窟で生活していた一族が居たんだってさ。生まれてからずっと暗い中で生活していたせいで、子供世代は目が退化して、身体つきも普通の人間とはだいぶ異なったらしいよ」
「餓鬼もそのパターンだと……? 化け物じゃなくて人間かもしれないってことですか?塵 になって消えたのに!?」
「そういう可能性も有るってこと。ちなみにその一族が食べていたのは何だと思う?」
「え、洞窟で生活……なら、虫とか蛇とかでしょうか?」
水島はニッと笑った。
「人肉。洞窟の近くを通った人間を一族総出で襲って、バラバラにして食べていたそうだよ」
「………………」
化け物が出現するここでそんな話をするなんて。世良は水島に腹を立てた。この悪趣味野郎が。
「さて取り敢えず、一階部分の部屋を片っ端から見ていこうか」
「気をつけて下さい。私達が前に来た時、白装束の幽霊みたいな女性が居たんです」
「りょ~かい」
水島は銃を右手に構えた状態で、部屋の扉を次々に開けていった。
二つ目の部屋に餓鬼が三体、四つ目の部屋には餓鬼が一体居た。いずれも水島が撃ち殺した。性格的には好きになれないが、戦闘では頼りになる男だった。
そして四つ目の部屋の奥には、ピアノとドラムが置いてあった。壁には有名作曲家の肖像ポスター。紛れもなくここは……。
「音楽室、よね?」
三人は音楽室に入り室内を見て回った。
「中に変化は無いね。でも音楽室は三階だったのに」
「ふうん。、一、二、三階がグチャグチャに混ざっちゃったのかねぇ」
「わあっ!?」
世良の足首に樹の根が絡み付いた。生き物のように動くソレは、世良を引っ張って転ばせた。
パンッ。
弾を補充したばかりのハンドガンで水島が樹の根を撃ち抜いた。撃たれた根は餓鬼同様に消滅した。
しかし、バァンッと天井板が一斉に何枚も剝がれ落ちて、そこから無数の樹の根が飛び出して来た。
「おいおいおいおい!」
根っこはウネウネと動き、三人の元へ伸びてきた。まさに触手だ。
水島が銃を連射して先鋒の触手達を消滅させた。しかし数が多かった。十数発撃ったところで弾丸は底を突いた。
水島は銃の代わりにサバイバルナイフを抜いて、迫り来る触手達を斬り付けた。世良もそうだ。ペティナイフを振り回して触手と戦った。
(キリがない……!)
斬っても斬っても触手は湧いて出た。そして触手が纏 うヌラヌラとした粘液が、少しずつ世良の身体を濡らしていった。
「あっ」
粘液のせいで指が滑り、世良はナイフを床に落としてしまった。拾おうと身を屈めた際、またしても右足首に触手が絡んだ。
くんっと世良は足を上に引っ張られて、天井近くに宙吊りにされた。世良にはほぼ50キロの体重が有るというのに、触手は彼女を放さなかった。
「くそっ」
身動き出来なくなった世良の身体へ他の触手が伸びた。ネトリとした触感が皮膚の上を這いずった。不愉快さに身をよじった世良へ、触手は更なる攻撃を加えてきた。彼女の衣服を引き裂いたのだ。
「!?」
水色の上下の下着のみとなった世良は必死に暴れた。触手が下着の中にまで侵入を始めたからだ。
「やめろッ、嫌だ!」
「高月さん!」
世良へ伸びた触手の大半が一気に消滅した。京香がモップの柄 で薙ぎ払ったのだ。
「このぉ!」
尚も京香は湧き出る触手を薙ぎ払い、時には強打して消していった。柄には刃物が付いていないというのに、狙いを定めて京香は舞うように触手を仕留めていった。
「足首を縛っている根は高くて届かない! 水島さん、あなたが撃って!」
「おうよ、待ってろ!!」
水島は触手の隙間を縫 って飛び込み前転をし、京香の近くへ移動した。京香が柄で触手を牽制している間に、水島は上着のポケットから予備の弾丸が詰まったマガジンを取り出して銃に装填 した。
「クソが……舐めんなよ?」
構えた水島は二発の弾を撃ち込み、世良を拘束していた触手を消滅させた。
三人の目の前で倒れた餓鬼がシュウゥゥと霧散した。校舎内には
「どうして?」
不思議がる世良に、京香が顎に手を当てて見解を述べた。
「……化け物達は迷宮が生み出した生命体で、死んだらまた迷宮と一体化する……吸収されるってことじゃないかしら?」
「お姫様は発想がいちいち独創的だよね~」
水島のツッコミに京香は不機嫌になった。
「じゃあ、あなたはこの現象をどう考えるのですか?」
「ハハ、頭を使うのは多岐川さんに任せてるから~」
お調子者は全く悪びれていなかった。
「それよかさ、廊下が歪んで見えて酔いそうじゃね?」
水島の呟き通り、直線のはずの廊下が蜃気楼のようにユラユラ歪んでいた。平衡感覚がおかしくなりそうだ。しかし歩く分には異常は無かった。靴の下にはしっかりと固い質感が有った。
「ここは……職員室だったんですが、別の空間になっちゃいました」
世良に言われて職員室だった部屋を覗いた水島は、室内に空いた巨大な穴と下り坂道の先の階段を視認した。
「いかにもって階段だけど、今日は一階だけの探検だから行けないか。学院には元々地下室が在ったの?」
「いいえ。校舎は一階から三階までです」
「ハハ……。いよいよ現代科学じゃ解明できない現象が起きたな」
「それを言うなら餓鬼の出現だって」
「うん。でもさ、アイツらは理由がつくんだよ。海外にね、洞窟で生活していた一族が居たんだってさ。生まれてからずっと暗い中で生活していたせいで、子供世代は目が退化して、身体つきも普通の人間とはだいぶ異なったらしいよ」
「餓鬼もそのパターンだと……? 化け物じゃなくて人間かもしれないってことですか?
「そういう可能性も有るってこと。ちなみにその一族が食べていたのは何だと思う?」
「え、洞窟で生活……なら、虫とか蛇とかでしょうか?」
水島はニッと笑った。
「人肉。洞窟の近くを通った人間を一族総出で襲って、バラバラにして食べていたそうだよ」
「………………」
化け物が出現するここでそんな話をするなんて。世良は水島に腹を立てた。この悪趣味野郎が。
「さて取り敢えず、一階部分の部屋を片っ端から見ていこうか」
「気をつけて下さい。私達が前に来た時、白装束の幽霊みたいな女性が居たんです」
「りょ~かい」
水島は銃を右手に構えた状態で、部屋の扉を次々に開けていった。
二つ目の部屋に餓鬼が三体、四つ目の部屋には餓鬼が一体居た。いずれも水島が撃ち殺した。性格的には好きになれないが、戦闘では頼りになる男だった。
そして四つ目の部屋の奥には、ピアノとドラムが置いてあった。壁には有名作曲家の肖像ポスター。紛れもなくここは……。
「音楽室、よね?」
三人は音楽室に入り室内を見て回った。
「中に変化は無いね。でも音楽室は三階だったのに」
「ふうん。、一、二、三階がグチャグチャに混ざっちゃったのかねぇ」
「わあっ!?」
世良の足首に樹の根が絡み付いた。生き物のように動くソレは、世良を引っ張って転ばせた。
パンッ。
弾を補充したばかりのハンドガンで水島が樹の根を撃ち抜いた。撃たれた根は餓鬼同様に消滅した。
しかし、バァンッと天井板が一斉に何枚も剝がれ落ちて、そこから無数の樹の根が飛び出して来た。
「おいおいおいおい!」
根っこはウネウネと動き、三人の元へ伸びてきた。まさに触手だ。
水島が銃を連射して先鋒の触手達を消滅させた。しかし数が多かった。十数発撃ったところで弾丸は底を突いた。
水島は銃の代わりにサバイバルナイフを抜いて、迫り来る触手達を斬り付けた。世良もそうだ。ペティナイフを振り回して触手と戦った。
(キリがない……!)
斬っても斬っても触手は湧いて出た。そして触手が
「あっ」
粘液のせいで指が滑り、世良はナイフを床に落としてしまった。拾おうと身を屈めた際、またしても右足首に触手が絡んだ。
くんっと世良は足を上に引っ張られて、天井近くに宙吊りにされた。世良にはほぼ50キロの体重が有るというのに、触手は彼女を放さなかった。
「くそっ」
身動き出来なくなった世良の身体へ他の触手が伸びた。ネトリとした触感が皮膚の上を這いずった。不愉快さに身をよじった世良へ、触手は更なる攻撃を加えてきた。彼女の衣服を引き裂いたのだ。
「!?」
水色の上下の下着のみとなった世良は必死に暴れた。触手が下着の中にまで侵入を始めたからだ。
「やめろッ、嫌だ!」
「高月さん!」
世良へ伸びた触手の大半が一気に消滅した。京香がモップの
「このぉ!」
尚も京香は湧き出る触手を薙ぎ払い、時には強打して消していった。柄には刃物が付いていないというのに、狙いを定めて京香は舞うように触手を仕留めていった。
「足首を縛っている根は高くて届かない! 水島さん、あなたが撃って!」
「おうよ、待ってろ!!」
水島は触手の隙間を
「クソが……舐めんなよ?」
構えた水島は二発の弾を撃ち込み、世良を拘束していた触手を消滅させた。