学院警備隊(二)

文字数 2,370文字

「警備隊員の皆さんですか!?

 詩音が玄関へ向かって澄んだ声で聞き返した。

「そうだ! 寮の周りに居た化け物達は片づけたぞ? 中へ入れてくれ」
「今開けます! ……いいよね? みんな」

 詩音は他の少女達に念の為に確認を取った。全員が頷いた。
 相手が知らない相手なら突然の来訪に戸惑っただろうが、警備室長の立川から隊員が派遣されることを事前に知らされていた。むしろいつ来るのかと少女達は苛立ちながら待っていたのだ。

「やっと来た助けなんでしょ? 早く入ってもらってよ!」

 茜に急かされて詩音は玄関扉の鍵を外した。

「どうぞ」

 間髪空けずにレバー式ノブが上がり、扉を開けて三人の男達がドカドカと寮内へ入って来た。扉を閉めて施錠した後、彼らはブーツを履いたまま床へ上がった。



「無作法で悪いな。コイツ脱ぐのが大変なんで、警備中はこのままで通させてもらうよ」

 男たちはカーキ色の制服(戦闘服?)を着ていて、腰に付けたホルダーの中に短銃を収納していた。さらに眼鏡を掛けた一人はライフル銃まで所持していた。日本で銃器とは無縁の生活を送っていた少女達は、間近で目にした物騒な武器に言葉を失った。
 彼女達の視線に気づいた先頭の男は苦笑いした。

「今は緊急事態、だからな。扱いには慣れてるから安心してくれ。学院警備室の隊員は、元自衛官や元警官で構成されているんだ。ただ日本では銃の所持や使用について厳しいから、俺達が携帯していたことはここだけの秘密な?」

 詩音が会釈してから自己紹介をした。

「駆け付けて下さってありがとうございます。私は学院生徒会長の桜木シオンと申します。あの、あなたが隊長さんですか?」

 先頭の男はニカッと笑った。三十代半ばの風貌をしたその男は名乗り返した。

「そうだ。俺は藤宮浩司(フジミヤコウジ)。しばらく一緒に生活することになるようだが宜しくな。んで、ライフル持ってる奴が多岐川誠(タキガワマコト)
「……どうも」

 眼鏡の男が一礼した。神経質そうなこの男は30歳ちょうどくらいだろうか。

「それでもって、そっちに居る軽そうな奴が水島小春(ミズシマコハル)
「あ、ど~も。紹介に上がりました水島で~す。せっかくなんで仲良くやろうね~♪」

 確かに軽そうだ。少女達とさして歳が離れていないように見えるこの青年は、二十代前半といったところか。

「あれ? 女子寮って聞いていたけど、男のコも居るの?」

 水島が不思議そうに視線を飛ばした相手とは、もちろん世良であった。

「……女です」
「嘘でしょ!? そこら辺の野郎より断然イケメンじゃん! 声まで低くて少年っぽいね」
「……よく言われます」

 世良はウルトラマンに代表される強い男に憧れている。自分達のピンチに颯爽と登場した警備隊員達に対して、実は少しだけ心がときめいた。しかし水島の失礼な態度にすぐテンションが下がった。

「あの、周囲の餓鬼を一掃して下さったんですよね?」
「ガキ? ……おおマジだ、明るい所で見るとこの化け物、地獄の餓鬼にそっくりなんだね~」

 水島は室内に転がる餓鬼の死体を楽しそうに眺めた。

「……敵が居ない今の内に、窓を補強した方が良いと思うんです」

 世良は台所の割れた窓を指差した。隊長の藤宮が頷いた。

「確かにありゃあ、早急に何とかしなくちゃならんな。道具は有るのかい?」
「掃除用具入れのドアを使って塞ぎましょう。簡単な大工道具も入っていたはず。私達がドアを外してきますから、窓から餓鬼が入ってこないように見張っていて頂けますか? 私は寮長の神谷ソウコです」
「了解だ、寮長さん」

 三年生達がドアを外しに向かったので、世良、杏奈、小鳥の三名は室内の片づけをすることにした。
 ホウキとちりとりはずっと台所に置いてあったので、散らばったガラス片をそれで掃き取った。

「ヤッホー、イケメンくん。僕らが泊まる部屋はどうなるのかなぁ?」

 馴れ馴れしく水島が話し掛けてきた。失礼な男だが助っ人として来てくれたのだ、世良は仕方無く相手をした。

「一階を使ってもらうことになっています」
「ここ? お嬢さん達は何処で寝てんの?」
「二階と三階の部屋ですが?」
「ええ~、僕もそっちがいい」
「……すみませんが、女生徒と男性を一緒にする訳にはいきませんので」
「何で~? せっかくお知り合いになれたんだからさ、仲良くしたいなぁ」

 怒鳴るのを我慢している世良の代わりに、隊長の藤宮が注意してくれた。

「おいコラ水島、お嬢さん達にちょっかいを出すな」
「でも隊長~、一階を使えと言われてもこんな有り様ですよ?」

 水島は血塗(ちまみ)れの餓鬼の死体を顎で指した。藤宮はアッサリと言った。

「片づけろ」
「はいはい」

 水島は頭を掻きながらまず、世良達に一番近い位置に在った餓鬼の死体を両手でヒョイと持ち上げた。芽亜理がめった刺しにした個体だ。ボタボタと滴る血に眉を(ひそ)めた少女達へ水島は笑顔を向けると、ガラスの無い窓の外へ死体を投げ捨てた。

「はい、まず一体~」

 その後も水島は世良たちに見せつけるように、次々と餓鬼の死体を窓の外へ投げ捨てた。手が血で汚れることも(いと)わず、まるで躊躇(ちゅうちょ)の無いその行動に、少女達は頼もしいと感じるよりも戦慄(せんりつ)した。

「セラ、あの人ちょっと怖い……」

 小声で囁いた杏奈に世良も同感だった。小鳥も水島が近くを通り過ぎる度に身体を強張(こわば)らせていた。

 鼻唄を歌いながらシンクの蛇口で水島が手を洗っているところへ、外したドアを運ぶ三年生達が戻ってきた。

「さ、急いで作業を済ませましょう」

 男達の手も借りて、窓の前にドアを横向きに置いた。ドア自体には厚くて釘を打てなかったが、ロープで固定して、ロープの左右は壁に打ち付けたフックに縛った。
 これで当面は大丈夫のはずだ。銃を持った警備隊員も加わり、守りはかなり固くなったと言えるだろう。

 だが世良は不安を感じていた。この男達は信頼して良い相手なのだろうか、と。
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