屈辱の洗礼

文字数 2,356文字

 杏奈は困惑した。未だかつてそんなことを指示された経験が無い。
 茜は片眉を上げて固まった杏奈に繰り返した。

「何してんの? 服を脱いで、そこに、四つん這いになりなさい」

 ゆっくり言われても内容が変わる訳ではない。

「あの……ですが先輩」
「ああ? 犬が口答えしてんじゃないよ」
「犬……?」
「そうだよ。今日からアンタは私の犬になんの。犬は四つん這いが自然のポーズでしょ?」
「で、でも……」
「田町さん」

 背後に立つ芽亜理が無表情で杏奈を諭した。

「家族が大切なら、アカネさんに逆らわない方がいいよ?」

 杏奈は芽亜理を見て背筋が寒くなった。茜一派に苦手意識を持っていたので、今まで杏奈は意識して彼女達を避けていた。だから気付かなかった。芽亜理の瞳には諦めの色が宿っていた。
 黒人の血が入っている芽亜理は黄色人種に比べて手足が長い。普通なら優れたスタイルは賞賛されるべきなのだが、感情が消えた芽亜理は無機質なマネキン人形のようで不気味だった。

「早くしてよね。一人で脱げないんならメアリに手伝ってもらう?」

 茜の言葉を受けて一歩前に出た芽亜理。杏奈は怯えて横へ逃れた。

「嫌です、そんなの」
「じゃあ自分で脱ぎなさい」
「……………………」

 断れる空気じゃなかった。
 杏奈は意を決して上半身のTシャツを脱いだ。ブラジャーから零れ落ちそうな大きな膨らみが披露された。
 茜が手を叩いて喜んだ。完全にショーの観客だ。

「すっごい。何センチ有るの?」
「……92センチです」
「直に見せてよ。早くブラも取って」
「…………!」

 湧き上がる羞恥心を(こら)えて、杏奈はブラジャーを外した。薄ピンク色の乳輪と乳首が人前にさらけ出された。

「アハハ、乳輪おっきい、迫力ね。何食べたらそんなに胸が育つのよ? 毎晩高月に揉んでもらってんの?」
「私とセラはそんな関係じゃありません!」
「あれ、そうなの? 高月ってビアンじゃないの?」
「セラは……ノーマルです」
「へぇ、あんなナリしてるからソッチ系だと思ってた。だけどさ、高月が男に抱かれる光景なんて想像できなくない? アイツでも男を妄想してオナニーとかするのかな? ウケる。アンタ見たことない?」

 親友を汚された気がして、杏奈は思わず茜を睨んだ。

「ああ? 何その目、ムカつくんだけど。メアリぃ、コイツに自分の立場を解らせてやって」

 次の瞬間ヒュンッと音がして、続いてバシン! 杏奈の臀部(でんぶ)に痛みが走った。

「あうっ!?

 見ると芽亜理が短い鞭を持っていた。これでを杏奈を叩いたのだ。

「私が主人でアンタは奴隷。奴隷って表現じゃあんまりだから、犬として可愛がってあげようとしてんのにさ~」

 バシッ。

「痛っ!」
「けっこう痛いでしょ? でも死んだサキはこれが大好きだったんだよ? アイツってばマゾでさ、打たれながら白目剥いてイッてたの」
「………………」

 (いびつ)な関係だったとしても、死んだ級友の性癖を笑いながら暴露する茜を杏奈は嫌悪した。

「アンタは痛いの嫌い? だったら素直に言うこときくのね。ホラ、下も脱いで」
「下も……ですか?」

 バシン! 再度臀部を鞭で叩かれた。皮膚がヒリヒリと熱を持っている。これ以上の苦痛を与えられることを避けたかった杏奈は、ランニングパンツに手を掛けて下ろした。脱いだ衣類は茜の対面、無人のベッドの上へ芽亜理が放り投げた。

「まだ残ってるよ~?」

 最後の砦、大切な部分を護る一枚へ茜が視線を絡ませた。
 酷い。しかし抵抗すれば家族がどんな目に遭うか……。杏奈は唇を噛み、震える手で下着を下ろした。

「よくできました。さ、次は四つん這いよ。よく見えるように側へ来て。ああ、お尻を私の方に向けてね」
「………………」
「早く。またメアリに打たれたい? 直に打たれると肌が裂けちゃうかもよ?」

 杏奈はヨロヨロとした足取りで茜へ近付き、後ろ向きになってから四つん這いになった。

「よく見えない。もっとお尻を上げなさい」

 鞭で叩かれて三本の赤いミミズ腫れができた尻を、杏奈は主人の前に突き出した。
 その尻へ茜は両手を伸ばし、左右の肉を掴んで開いた。

「キャアッ!?
「アッハ田町、丸見えだよ~? もちろん大切なトコもね~」

 杏奈は恥ずかしさで気が遠くなった。最もデリケートな部分を無遠慮に暴かれたのだ。

「ご主人様に隠し事は無しだからね。ねえ田町、アンタはもう男相手にココを使ったこと有んの?」

 杏奈はブンブンと首を左右に振った。

「やっぱ処女だったんだ。勿体無いよね、宝の持ち腐れ。その身体を使えばお父さんの借金も数年で返せるんじゃない?」
「………………」
「うん、でも私はいいと思うよ。簡単に処女を捨てる奴は馬鹿だよね」

 つい杏奈は首を回して背後の茜をまじまじと眺めてしまった。この人も男性経験が無いのだろうか? 大胆そうに見えるのに。少し意外に思えた。
 そんな不躾な視線を受けても茜は堂々としていた。

「そうだよ、私も処女。男の中には未だに処女を信捧する奴らが多いんだから、せいぜい高く売りつけてやらなきゃ」

 茜は計算高く、男を利用するタイプの女だった。

「私の犬であるアンタの処女も私が管理してあげる。もっとも良いと思うタイミングで、アンタを男に抱かせるからね。アンタもメアリも身体は綺麗だから、イイ取引ができそう」

 杏奈は絶望した。そんなことまで指示されてしまうのか。「まともな恋愛はさせない」と宣言されたも同然だ。

「ああ、そんな哀しそうな顔しないでよ。私の下に居る限り、アンタのことは護ってあげるからさ」

 茜は尻から手を離した。恥ずかしさと未来への絶望で脱力した杏奈はその場に崩れた。そんな彼女をベッドに座ったまま茜は見下ろした。

「田町、アンタのご主人様は誰?」
「………………。桐生先輩です」

 下僕の答えに満足した茜はほくそ笑んだ。
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