第30話

文字数 8,562文字

 …五井東家の消滅…

 いや、

 消滅ではない…

 五井東家は、東家出身の、昭子の妹、和子の孫、菊池リンが、継ぐことになった…

 これは、やはり、規定路線だったのだろうか?

 それとも、重方(しげかた)、冬馬父子を、五井東家から、追放するために、急遽、昭子が、考えた結論だったのだろうか?

 考えた…

 普通に、考えれば、ずっと前から、考えていたに決まっている…

 現に、あの菊池重方(しげかた)自身の口から、

 「…姉は、ずっと以前から、私を評価していなかった…」

 と、私に会ったときに、重方(しげかた)が、私に告げた…

 と、同時に、

 「…子供の頃は、可愛がってもらった…」

 とも、言っていた…

 この発言は、一見、矛盾するように、思える…

 そんなに、可愛がっていたなら、なぜ、評価しないのか? と、考えがちだ…

 しかし、冷静に、考えれば、可愛がるのと、評価は、違う…

 いくら、可愛がっていても、それと、評価は、別のものだからだ…

 たとえば、わかりやすい例で、言えば、自分の娘でも、親の欲目でも、美人か、否かは、わかるものだ…

 もちろん、親の欲目が入るから、評価は、甘くなりがちだ…

 しかしながら、それでも、自分の娘は、美人で有名な佐々木希に匹敵する美人だと、豪語する親は、いない…

 そういうことだ(笑)…

 そして、もし、自分の娘が、佐々木希に匹敵する美人と、本気で言っている親がいたとすれば、頭がおかしいか?

 あるいは、実際に、佐々木希に匹敵するか、少し劣ったレベルの美人に違いない…

 この場合は、仮に佐々木希に、少し劣ったレベルの美人でも、親の欲目で、佐々木希に匹敵するレベルと、勘違いする…

 そういうことだ(笑)…

 私は、考える…

 つまりは、昭子の場合もこれと、同じ…

 10歳離れた、弟の重方(しげかた)を、可愛がる半面、冷静に、重方(しげかた)の能力を、はかっていたに違いない…

 菊池重方(しげかた)は、藤原ナオキにも、言ったが、決して、無能な人間ではなかった…

 一度、会ったきりだが、それは、確信が持てた…

 だが、だからといって、有能か、どうかは、わからない…

 わかりやすい例えで、言えば、東大を出ていれば、すべての人間が、会社でも、役所でも、出世できるわけでは、ないからだ…

 出世=評価されるか否かは、上司に恵まれるか?

 同僚に恵まれるか?

 仕事は、自分に合っているか?

 など、こう言っては、身もふたもないが、本人の能力とは、別の外的要因も多い…

 いくら、東大を出ていても、スーパーマンではない…

 なんでもできるわけではない…

 たとえば、宅急便の配達や、郵便の配達を例に取れば、わかりやすいが、東大を出ていれば、偏差値40の工業高校出身の人間に、必ず勝てるわけではない…

 これは、誰でも、わかるだろう…

 配達時間で、差が出るので、能力の差が、すぐにわかる…

 非常に、わかりやすい例だ…

 そして、そのように、能力がわかりやすい仕事は、世の中に、稀だ(笑)…

 話を重方(しげかた)に、戻そう…

 菊池重方(しげかた)は、国会議員で、自民党の大場派の幹部だった…

 これも、また菊池重方(しげかた)の評価に違いない…

 無能な人間ならば、派閥の幹部になれるわけはない…

 ということは、普通に考えれば、重方(しげかた)が、無能のはずがない…

 五井家出身ゆえに、五井家の財力を背景に、派閥の幹部になれた可能性は、否定できない…

 だが、普通は、それは、下駄をはかせる程度…

 お金持ちゆえに、派閥での昇進は早いかもしれないが、ただ、金を出すだけでは、幹部にはなれないだろう…

 まったくの無能では、幹部になれないだろう…

 そういうことだ…

 だが、有能か、どうかは、また話が違ってくる…

 国会議員としての、能力は、また別のものだからだ…

 これは、国会の関係者に聞かなければ、本当の評価は、わからない…

 が、

 重方(しげかた)の能力は、ひとまず、置くとしても、重方(しげかた)、冬馬の父子が、五井家を去った事実は、変わらなかった…

 五井家を去る…

 これが、重方(しげかた)の、国会議員としての地位に、どう影響を及ぼすか?

 普通に考えれば、今季限り…

 次回の選挙に出馬することは、叶わないだろう…

 菊池重方(しげかた)は、五井家あっての、菊池重方(しげかた)だ…

 五井家という、大げさにいえば、江戸時代の徳川家のような三つ葉葵の御文を背景にしていたから、国会議員になれた…

 その五井家から、追放されたら、なにも残らないに違いない…

 五井という、いわば、お金と、ブランドの両方を手放したのだ…

 これでは、残るものは、なにもないに違いない…

 重方(しげかた)は、無能ではないに違いないが、失礼ながら、重方(しげかた)と、同程度の能力の持ち主は、国会で、ごまんといるに違いなかった…

 さらには、冬馬…

 息子の菊池冬馬に至っては、なにもなかった…

 冬馬は、わがままで、五井家内で、居場所がなく、それゆえ、五井でも、持て余していた…

 五井の関連会社を、あちこち、たらいまわしにされた挙句、五井記念病院の理事長の座に就いた…

 しかしながら、理事長の座は、名ばかり…

 実権もなにもない、実質は、お飾り…

 それが、嫌だったに違いないことは、誰にもわかるが、さりとて、その理事長以外には、居場所がなかったに違いなかった…

 つまりは、重方(しげかた)、冬馬は、父子共々、追い詰められたと、いっても、良かった…

 現に、私の病室を訪れた、諏訪野マミですら、

 「…冬馬もバカなことをしたものね…」

 と、呆れていた…

 「…バカなことって、なんですか?…」

 私は、病室で、ベッドの上に上体を起こして、言った…

 「…寿さんに、ケンカを売ったこと…」

 「…私にケンカを売ったことですか?…」

 「…あの件が、すぐに、週刊誌の格好の話題になり、昭子さんは、決断した…」

 「…決断した?…」

 「…昭子さんは、ずっと、我慢してたの…」

 「…なにに、我慢してたのですか?…」

 「…重方(しげかた)さんと、冬馬父子の扱いによ…」

 「…」

 「…重方(しげかた)さんは、バカじゃないわ…」

 …バカじゃない?…

 …やはり、諏訪野マミも、そう思うのか?…

 私は、内心、考えた…

 「…ただ、やり過ぎるのよ…」

 「…どういう意味ですか?…」

 「…議員になったのもそう…昭子さんは、重方(しげかた)さんに、政治に関わるな、と、何度も念を押したそうよ…」

 「…どうしてですか?…」

 「…やはり、五井の金でしょ…」

 「…」

 「…金に困った議員が、重方(しげかた)さんに、群がって、財布扱いされては、困ると思ったに違いない…」

 「…」

 「…それに、重方(しげかた)さんは、人がいいというか…安易に、人に流されるところがある…つまり、人間的な弱さね…それを利用されると、昭子さんは、思ったと思う…」

 「…」

 「…そして、そんな重方(しげかた)さんが、冬馬の半面教師になったと思う…」

 「…冬馬さんの半面教師?…」

 どういう意味だろう?

 私は、思った…

 「…要するに、冬馬は、重方(しげかた)さんが、嫌いなのね…」

 「…嫌い? …自分のお父様を…ですか?…」

 「…結局、重方(しげかた)さんの人に、利用される姿が嫌いだったんだと思う…」

 「…」

 「…だから、冬馬は、基本、人と群れない…つるまない…いつも、独りぼっち…」

 「…」

 「…人とつるんで、誰かに利用されるのを、誰よりも、嫌がった…きっと、重方(しげかた)さんが、人に利用されるのを見ているからだと思う…」

 「…」

 「…つまり、二人は、コインの裏と表…きっと、内面は、似ているところがあるんじゃいかな…」

 「…似ているところ? …どんなとこが、似ているんですか?…」

 「…冬馬から、すれば、たぶん、自分の中に、父の重方(しげかた)さんと、同じく、他人に、利用される弱さみたいのものが、あるんだと思う…」

 「…」

 「…きっと、内心、それを恐れてるんじゃないかな…私は、以前、寿さんに、言ったように、わりと、冬馬と、親しかったから、なんとなく、そう思う…」

 「…」

 「…ほら、ひとって、自分と似ているひとが、嫌いでしょ?…」

 「…どういう意味ですか?…」

 「…おしゃべりは、おしゃべりを嫌いってこと…」

 「…それは、一体?…」

 「…おしゃべりな人間は、ホントは、自分が、おしゃべりなことを、内心嫌ってることが多い…だから、おしゃべりな人間を見ると、自分の嫌な部分を、見せつけられたような気持ちになる…」

 「…」

 「…これは、ウソつきも同じ…よくウソをつく人間は、他人がついた小さなウソを見つけると、アイツは、ウソつきだから、大嫌いだという…自分が、ウソつきで、有名なのにね(笑)…」

 「…」

 「…それはきっと、おしゃべりと、同じで、潜在的に、自分が、ウソつきであることを、内心嫌悪しているんじゃないかな…だから、自分と、同じ、ウソつきを嫌う…」

 「…」

 「…だから、冬馬が、父親の重方(しげかた)さんを、嫌いなのは、自分の中にある、弱さみたいなものを、重方(しげかた)さんに、見ているんだと思う…」

 意外な言葉だった…

 これまで、冬馬をそんなふうに、見たことがなかった…

 だが、そういえば、わかる…

 諏訪野マミが、そんなふうに、説明すれば、どうして、冬馬が、重方(しげかた)さんを、嫌いなのか、わかる…

 まして、父子だ…

 自分の中にある、弱い部分を、父親の中に見るのは、ひどくありがちなことだ…

 が、

 だとすれば、どうだ?

 冬馬の中に、重方(しげかた)さんのような、ひとに利用される弱さがあるとすれば、どうだ?

 真逆に見れば、重方(しげかた)氏の中にも、冬馬と同じく、傲岸不遜というか…

 金持ちの家に生まれたがゆえに、驕り高ぶった気持ちがあったということか?

 私は、思った…

 私が、そんなことを、考えてると、

 「…つまりは、あの父子は、似た者父子なのね…」

 諏訪野マミが、断言した…

 「…あの二人は、一見、似ていない…冬馬の目は、険があるし、真逆に、重方(しげかた)さんの目は優しい…」

 「…」

 「…でも、よく見ると、目以外は、そっくり…顔立ちも背格好も同じ…」

 「…」

 「…でも、目つきが違うから、全然、別人に見える…歌舞伎の十二代目市川團十郎、海老蔵父子と同じ…目以外は、すべて、似ている…」

 ということは、どうだ?

 性格もまた似ているということか?

 もし、重方(しげかた)が、冬馬と似た性格だとしたら、人一倍プライドが高いに違いない…

 そんなプライドの高い重方(しげかた)が、息子の冬馬共々、五井家を追放されたら、どうなるか?

 火を見るより明らかだ…

 なんらかの形で、五井家、いや、昭子に復讐しようとするに違いない…

 そして、当たり前だが、昭子は、重方(しげかた)の動きをあらかじめ、見抜いているに違いない…

 対策を講じているに違いない…

 私は、思った…

 
 そして、その日から、遠からず、私の、退院に向けるスケジュールが、見えてきた…

 私は、冬馬とケンカしたことで、この病院の中で、有名人?と、なったが、いつまでも、この病院にとどまることは、なくなった…

 それは、あの長谷川センセイが、私に、告げた…

 「…寿さん…おめでとうございます…遠からず、退院ですよ…」

 「…ホントですか?…」

 思わず、声を上げた…

 まさか、退院の日が、そんなに間近にやって来るとは、思いもしなかった…

 「…ホントです…ウソは言いませんよ…」

 長谷川センセイが、にこやかに、言った…

 「…と言っても、まだ一か月は、先です…」

 「…一か月先?…」

 私は、長谷川センセイの言葉に、落胆した…

 「…その頃には、ことによると、松葉杖も、いらなくなるかもしれない…」

 「…ホントですか?…」

 「…ウソは言わないです…ただ、あくまで、ことによると、です…ただ、松葉杖をついても、今よりも、楽に歩けるでしょう…」

 私は、長谷川センセイの言葉に、どう答えていいか、わからなかった…

 正直、戸惑ったというか…

 せっかく、退院できると聞いても、その退院の時期は、一か月後…

 松葉杖をつかなくても、歩けるかもしれないと言われた後に、でも、それは無理かもしれないというようなことを、言われては、素直に喜べなかった…

 なんだか、中途半端…

 すべて、中途半端だ…

 だから、嬉しいような、悲しいような、気持ちだった…

 退院は、嬉しいが、一か月後では、遠いし、松葉杖を使わないで、歩けるようになるのは、夢だったが、それも、当面は、夢で、終わりそうだ…

 なんだか、怒っていいのか、笑っていいのか、わからない気持だった…

 そんな私の表情に、気付いたのだろう…

 長谷川センセイが、

 「…なんだか、寿さんを、ガッカリさせたようで、申し訳ありません…」

 と、私に謝った…

 「…いえ…」

 私は、形式的に、否定した…

 「…とんでも、ありません…退院できるのは、嬉しいです…」

 私は、言ったが、やはり、説得力に欠けたというか…

 私が、落胆している気持ちは見え見えだった…

 「…寿さんって、案外、気が弱いんですね…」

 傍らの看護師の佐藤ナナが、口を挟んだ…

 「…意外ですね…」

 と、私をからかうように言う…

 私は、そんな佐藤ナナを見ても、怒る気にもなれなかった…

 そんな気力がわかなかった…

 これは、ちょうど、ナチスの拷問に似ている…

 ふと、思い出した…

 昔、読んだ本に、書いてあった…

 手錠で、手足を縛られて、椅子に座らされた、囚人を、ナチスの憲兵が、棒で、殴る…

 いわゆる、拷問だ…

 そのときに、殴られた囚人は、殴られてる最中は、グッと、こらえている…

 我慢している…

 そして、いつしか、拷問が、終わる…

 「…よし、これで、終わりだ…」

 と、殴る憲兵が、告げる…

 すると、それまで、殴られていた、囚人が、ホッと気を抜く…

 その気を抜いたところへ、憲兵が、思いっきり、棒で殴る…

 すると、それまでで、一番の痛みが、囚人に走る…

 ホッと、気を抜いたところへ、棒で、殴られるので、堪ったものではないからだ…

 それと、似ている…

 私の場合も、それと同じ…

 せっかく、退院できると、ぬか喜びさせて、現実は、退院は、一か月後…

 松葉杖を使わずとも、歩けるようになると、言った後に、でも、できないかもしれない…

 …そこまで回復しないかもしれない…

 そんなことを言われては、私は、落胆するし、ある意味、嫌がらせのようだとも、いえなくはない…

 誰だって、そうだろう…

 長谷川センセイを憎む気持ちはないが、ちょっぴり、恨めしく思った…

 そんなことを、考えてると、

 「…でも、長谷川センセイ…残念ですね…」

 と、またも、佐藤ナナが、口を挟んだ…

 「…大好きな寿さんが、退院しちゃいますから…」

 佐藤ナナの言葉に、長谷川センセイが、

 「…ボクは、冬馬に頼まれて…寿さんを…」

 と、言って、顔を真っ赤にした…

 私は、長谷川センセイの態度を見て、当惑したというか…

 あらためて、この長谷川センセイが、私を好きなのを、確信した…

 が、私と長谷川センセイが、どうこうなるはずがない…

 私は、今、諏訪野伸明と結婚するかもしれない…

 そういう立場だ…

 それはまた、長谷川センセイも、わかっている…

 にもかかわらず、やはり、好きだと態度で、示されると、嬉しいものだ…

 が、

 一方で、どうしていいか、わからない…

 私を好きだと言ってくれるのは、嬉しいが、どうこうできる話ではないからだ…

 だから、とっさに、

 「…冬馬理事長は…」

 と、話題を変えた…

 思えば、私と、長谷川センセイの共通の話題と言えば、冬馬…

 菊池冬馬だけだった…

 だから、あえて、冬馬の話題を出した…

 「…冬馬がどうかしましたか?…」

 「…いえ、冬馬さんは、理事長を辞めてから、どうしているのかと思って…」

 「…それは、ボクにもわかりません…」

 長谷川センセイが、ムッとした表情になった…

 途端に、機嫌が悪くなった…

 「…むしろ、寿さんの方が、わかるんじゃないですか?…」

 「…私の方が?…」

 「…寿さんは、五井家の諏訪野伸明さんと、親交がある…だから…」

 たしかに、そうかもしれないが、五井家を追い出された菊池冬馬が、その後、どうなっているか?

 むしろ、五井家の人間よりも、冬馬の学生時代の友人の方が、知っているのではないか?

 そんな、淡い期待があった…

 だから、

 「…私は知りません…」

 と、即答した…

 「…冬馬さんが、この病院の理事長をお辞めになってから、諏訪野伸明さんは、まだ、この病室に、見舞いに来たことは、ありません…」

 これは、ウソではない…

 諏訪野マミは、やって来たが、諏訪野伸明は、やって来ていない…

 だから、あの後、冬馬が、どうなったのか、諏訪野伸明の口からは聞いていない…

 ただ、諏訪野マミの口から、思いがけず、重方(しげかた)と、冬馬の父子は、実は、似ていると言われたのが、意外だったというか…

 「…冬馬は、前にも、言いましたが、嫌われ者です…だから、学生時代の知り合いで、今も冬馬と交流している人間はいない…」

 「…」

 「…ただ、噂は、聞いています…」

 「…噂…それは、どういう…」

 「…変な話…冬馬は、嫌われ者ですが、注目度が高いんです…」

 「…注目度?…」

 「…五井家のお坊ちゃまでしょ? だから、どうしても、目立つ…」

 「…目立つ?…」

 「…だから、気になる…噂では、菊池リンという同じ一族の人間と接触しようとしていると、聞いてます…」

 「…菊池リン?…」

 まさか、その名前が、ここで出るとは、思わなかった…

 いや、

 思わないではない…

 菊池リンは、五井東家を継いだ人間…

 五井東家を追い出された、菊池冬馬が、接近しても、おかしくはない…

 ただ、その事実を、この長谷川センセイから、聞くとは、思わなかった…

 「…どうして、センセイが、その名前を?…」

 「…週刊誌で、見たんですよ…」

 長谷川センセイが笑った…

 それから、

 「…と言いたいが、ボクの周囲にも、五井家以外にも、金持ちがいて、その友人が、こう言っては、身も蓋もないが、金持ち繋がりで、情報を得たらしいです…」

 私は、長谷川センセイの言葉に、納得した…

 金持ちには、金持ちのネットワークがあるに違いないからだ…

 だから、そういうネットワークを通じて、情報を得ることができるのかもしれない…

 私は、思った…

 しかし、菊池冬馬と、菊池リン…

 あの二人が、接近するとは、思わなかった…

 いや、

 そうではない…

 以前にも、その気配はあった…

 劣勢に立たされていた冬馬が、菊池リンと、結婚するかもしれない、と、噂があった…

 諏訪野伸明の母、昭子の一卵性姉妹である、妹の和子の孫、菊池リン…

 彼女と、菊池冬馬が、結婚すれば、ひょっとしたら、五井本家に対抗できるからだ…

 五井家の女帝、昭子の妹の、和子を、自分の味方に引き入れることができるからだ…

 だから、以前も、その可能性に言及した…

 が、

 それはなかった…

 いや、

 最初から、その可能性に気付いていた和子は、重方(しげかた)、冬馬、父子の動きに、警戒していたに違いない…

 孫の菊池リンが、キーパーソンになる…

 そう、睨んでいたからだ…

 そう、気付いていたからだ…

 だから、菊池リンと、冬馬の結婚を、和子は、一笑に付したと、諏訪野マミが、言っていた…

 菊池リンが、冬馬と結婚することを、なにより、恐れていたからだ…

 そして、もし、冬馬が、菊池リンと、結婚あるいは、婚約でもしていれば、冬馬は、五井家から、追放されることも、なかっただろう…

 それが、今、追放された身の上で、冬馬が、菊池リンに、接近しようとしているとは?

 冬馬は、一体、なにを考えているのだろうか?

 あるいは、これは、冬馬の父、重方(しげかた)の指示なのだろうか?

 それとも、ガセ?

 そもそも、その話自体が、ウソ臭い?

 そんな予感もした…

 だが、同時に、やはりというか、不安は捨てきれなかった…

 重方(しげかた)、冬馬、父子が、なんらかの動きを見せることは、不可避だったからだ…

 プライドの高い、重方(しげかた)、冬馬、父子が、五井家を追放された…

 このままでは、終われない…

 当たり前だが、そんな復讐の炎にメラメラ燃えても、驚くことではなかった…

 ただ、その復讐の方法が、どうなのか?

 問題は、そこだった…

 あの女帝の昭子が、肝を抜かすといえば、大げさだが、そんな方法を思いつくか、実行すれば、驚くが、その可能性は、低いと、言わざるを得なかった…

 なにしろ、そんなことができるのならば、五井家から、追放されないように、あらかじめ、手を回していたはずだった…

 それができないから、追放された…

 そんなことも、できない、重方(しげかた)、冬馬、父子に、逆転の秘策など、ないに違いないと、思っていた…

 にも、かかわらず、不安は消えなかった…

 逆転は、不可能と思いながらも、不安は消えなかった…

                
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