第49話

文字数 7,911文字

 諏訪野伸明から、次に連絡がきたのは、午前9時頃だった…

 私は、あまりにも、早いので、驚いた…

 スマホが、鳴り、急いで、電話に出た…

 「…諏訪野です…今、マンションの外に来ています…」

 私は、

 「…そうですか…わかりました…すぐに、下に降ります…待っていて、下さい…」

 と、言って、部屋を出ることにした…

 午前中に、電話があることは、わかっていたが、あまりにも、早い…

 さっきの電話は、7時前…

 そして、今は、9時…

 わずか、2時間後だ…

 伸明は、せっかちな性格なのだろうか?

 それとも、よほどの急ぎの用事なのだろうか?

 漠然と、そんな考えが脳裏に浮かんだ…

 すでに、準備はできていたから、慌てることは、なかった…

 服も、普段よりも、おしゃれなものに、着替えている(笑)…

 私は、自分の部屋を出ながら、そういえば、以前も、こんなことがあったなと、思い出した…

 夜、諏訪野伸明から、いきなり、電話があって、今と同じように、このマンションから、外に出た…

 それから、諏訪野伸明の運転するクルマに乗り、伸明の義理の父である、建造の眠る、墓の前で、キスをした…

 思い返せば、あの一件から、私と伸明は、結婚を意識する関係になった…

 あの夜から、私と伸明は、始まったというべきか…

 そして、今日、もしかしたら、その関係も終わる…

 漠然と、そんなことを、思った…

 つまりは、同じ…

 同じように、このマンションから始まっている…

 これは、もしや、運命なのだろうか?

 漠然と、思った…

 神様が、すべて、決めていることなのだろうか?

 もしかしたら、運命というものがあって、神様が、すべてを決めている?…

 だが、もし、そうだとしたら、やはり、私の命も、後数年なのだろうか?

 漠然と思った…

 死は怖くないといえば、ウソになるが、さりとて、長く生きても、この先、なにがあるか、わからない…

 仮に、子供を生めば、その子供が、成人するまで、どころか、小学校に上がるまでも、生きては、いないだろう…

 それを思えば、結婚もなにもない…

 ただ、死を待つだけ…

 それだけかもしれない…

 私の人生に待つものは、死だけかもしれない…

 そんなことが、脳裏に浮かんだ…

 そして、それを思えば、今日、これから、諏訪野伸明と別れるのも、悪くはない…

 言葉は悪いが、後腐れなく、別れる…

 これ以上、伸明に関わることは、伸明に迷惑をかけることになる…

 そう、思った…


 マンションから、一歩、外に出ると、諏訪野伸明の姿があった…

 私は、伸明の姿を見ると、なんだか、ホッとしたというか…

 これまで、頭の中で、アレコレ、伸明のことを、考えていたのが、ウソのように、脳裏から消えた…

 脳裏から、吹き飛んだというべきか…

 私の姿を見るなり、

 「…こんな朝早く、呼び出して、スイマセン…」

 と、丁寧に頭を下げた…

 私もまた、諏訪野伸明の前で、立ち止まり、

 「…ご無沙汰しています…」

 と、頭を下げた…

 それから、頭を上げると、諏訪野伸明が、はにかんだような表情をしている…

 まるで、久しぶりに、私に会えたのが、心の底から、嬉しそうだった…

 その伸明の顔を見ると、マンションの自分の部屋を出る前から、色々、頭の中で、漠然と、考えていた思いが、すべて吹き飛んだというか…

 どうでも、良くなった…

 伸明の嬉しそうな表情を見ると、すべてが、どうでもよくなった…

 と、同時に、あらためて、伸明の育ちの良さを思った…

 今、五井は、混乱の中にある…

 その中にあって、最も苦悩している伸明が、本当は、もっと苦しそうな表情をしていても、おかしくはないのに、私に会えて、嬉しそうな表情をする…

 辛い表情を露ほども見せない…

 私は、なぜか、そんな伸明に、生まれの良さを感じた…

 お金持ちと貧乏人を比べれば、お金持ちの方が、性格が良い人間が多く、貧乏人の方が、性格が悪い人間が多い…

 よく聞く言葉だ…

 なぜそうなのかと、問われれば、お金持ちは、生活に余裕があり、貧乏人は、生活に余裕がない…

 それに尽きるだろう…

 お金がないことで、家庭で、争いが起き、その結果、性格がねじくれるというか…

 いわゆる、生きるのに、楽な方が、性格がいい場合が多い…

 つまりは、苦労をしないからだ…

 金銭的な苦労をしない方が、性格が良い人間が多い…

 私自身、金持ちか、貧乏人かと、問われれば、迷わず、貧乏人出身なので、それが、わかる(苦笑)…

 そして、そんなことを、考えて、伸明を見ると、内心、嫉妬した…

 わずかだが、嫉妬した…

 こんなにも、生まれが良い人間が、羨やましい…

 至極、単純な理由だった…

 そして、私が、漠然と、そんなことを、考えながら、眼前の伸明を見ていると、

 「…どうしました?…」

 と、穏やかに、伸明が訊いた…

 私は、どう言おうか、一瞬、迷ったが、

 「…やはり、私とは、生まれが違うなと…」

 と、言った…

 「…生まれが違う? …どういう意味ですか?…」

 「…こんなに、ゴタゴタしているのに、いつもと変わらない…とても、尊敬します…」

 私の言葉に、伸明が、絶句した…

 それから、

 「…そう見えるだけです…内心は、いつも、不安で一杯です…」

 と、呟いた…

 「…不安? …なにが、不安なんですか?…」

 「…すべてです…」

 「…すべて?…」

 「…五井の一族の争いもそうだし、五井の会社の業績も気になる…そして、寿さんも…」

 「…私?…」

 「…寿さんと、このまま、縁が切れてしまうのが、怖い…」

 「…」

 「…色々、外野がうるさいでしょうが、寿さんが、それに惑わされるのも、怖い…」

 「…」

 「…藤原さんにも、昨日、電話で話しましたが、やはり、寿さんと、直接話した方がいいと…」

 「…」

 「…それで、今朝、こんなに早く伺いました…」

 伸明が折り目正しい態度で、言った…

 今さらながら、そんな伸明を見て、私の心が動いたと言うか…

 動揺した…

 せっかく、ここで、伸明と会うまでは、自分から、別れを切り出すつもりが、一瞬で、そんな気持ちが、泡と消えた…

 つくづく自分は、意志が弱い…

 あるいは、

 日和見主義というか…

 なるようになれ! と、心の中で、開き直った…

 
 結局、私と伸明は、近くのファミレスに場を移した…

 いつまでも、マンションの前で、立ち話もできないからだ…

 「…五井家の内紛は?…」

 私は、遠慮がちに聞いた…

 私が、どこまで、聞いていいか、わからないデリケートな話題だったからだ…

 「…一応、終息しました…」

 「…一応? …ですか?…」

 「…そうです…」

 伸明が、歯切れが悪く言った…

 「…こういった不満は、今後も、折にふれ、出るでしょう…誰だって、不満はある…だが、普段は、誰もそれを口に出さないし、態度にも出さない…でも、不満は、澱(おり)が、溜まるように、心の底に深く、溜まる…そして、なにかのきっかけで、それが、爆発する…」

 「…」

 「…今回は、米倉平造が、その導火線に火をつけたというか…それで、不満が、一気に、表に出た…」

 「…」

 「…五井は、連合体です…」

 「…連合体?…」

 「…規模は大きいが、団結力は、それほどでもない…だから、五井本家は、いつも難しい舵取りに悩まされます…」

 「…」

 「…父の建造は、それに、苦慮しました…それより、なにより、五井本家の力が、弱い…だから、結果的に、五井東家出身の母と、結婚することになった…だが、それが、幸いした…」

 「…幸いした?…」

 「…あくまで、結果論ですが、五井本家は、五井東家と、事実上、合併したというか、一体化したというか…」

 「…」

 「…寿さんは、どこまで、ご存知か知りませんが、五井家には、五井保存会という五井グループの主だった企業の株を監理する、持ち株会社があります…その五井保存会の株を五井一族が、保有しています…そして、それが、五井一族が、五井グループを支配する力の源泉です…その五井保存会の株式を五井家は、一族の序列に従って、保有しています…その割合が、本家が、30%、東西南北の分家が、10%ずつ、他の分家が、残りの30%を、分けています…」

 「…」

 「…五井一族といっても、本家だけでは、30%の力しかありませんから、分家が束になって、反乱すれば、困ります…だから、母の出身の東家と、本家は、一体化したことで、40%の支配権を得ることができました…でも、40%です。過半数には、足りません…」

 「…」

 「…それが、今回、南家が、本家の側に立つことを約束してくれました…南家が、本家の側につけば、ちょうど、50%、つまり、半分です。他の分家がすべて、本家に歯向かうことは、ありえないので、事実上、本家の意向が、通りやすくなりました…」

 「…でも、そのために、五井情報を…」

 「…ご存知でしたか?…」

 「…ハイ…社長から、伺いました…」

 「…社長? …藤原さん?…」

 「…ハイ…」

 「…でしたら、話が早い…たしかに、五井情報を米倉平造に、格安で、譲るのは、痛手でしたが、それ以上に、五井南家が、本家についたことが、嬉しい…」

 「…」

 「…これで、本家が、主導権を、握れる…」

 「…主導権?…」

 「…これまでは、一族で、なにかを決めるときは、あらかじめ、根回しとか、色々、煩わしいものが、ありました…ですが、南家が、本家側につけば、その煩わしさから、解放されます…五井本家、東家、南家の三家だけで、半分の力があります…残りの10家が、束になって、反乱を起こすことは、ありえないので、3家で、五井一族を統治することが、できます…それを思えば、五井情報を、米倉平造に、格安で、譲るのも、悪い選択ではありませんでした…」

 「…米倉氏は、いえ、佐藤ナナさんは、今後どうするのでしょうか?…」

 「…佐藤さんは、とりあえず、本家預かりとします…」

 「…本家預かり?…」

 「…といっても、名目だけです…」

 「…名目だけ?…」

 「…実質的に、今、五井本家に、住むわけでも、なんでも、ありません…ただ、ゆくゆくは、母の養女となり、ボクの義理の妹になり、そこから、他家にお嫁にゆくことになります…」

 「…伸明さんの義理の妹?…」

 「…寿さんは、佐藤さんが、ボクと結婚するとでも、思ってましたか?…」

 「…ハイ…」

 「…それは、ありえません…」

 「…ありえない? …なぜですか?…」

 「…佐藤ナナさん…彼女の存在は、南家にとって、僥倖(ぎょうこう)でした…」

 「…僥倖(ぎょうこう)…どうして、僥倖(ぎょうこう)なんですか?…」

 「…佐藤ナナ…彼女を本家に差し出すことで、本家側…政治でいえば、与党というか、主流派になることができます…」

 「…どういう意味ですか?…」

 「…彼女の存在が、南家にとって、渡りに船だったということです…」

 「…渡りに船?…」

 「…これまで、五井は、本家と東家が中心に、動かしてました…だから、他の分家も、本音では、こちら側に来たいに決まっている…でも、血縁関係とか、なにか、はっきりと、本家に繋がるものが、ないと、本家側にゆけない…そこへ、南家の血を引く、佐藤ナナさんが、見つかった…だから、彼女を使って、本家と、血縁関係を結ぶ…正直、ボクの妻が一番いいんですが、年齢的にも、難しい…だったら、一度、本家に養女として、来てもらえばいい…事実上、それで、本家と南家は、血縁関係を結んだことになる…」

 「…そんな?…」

 「…自分でも、変な話だと思いますが、これが、現実です…戦国時代の人質交換とか、大名同士の子息の結婚じゃありませんが、具体的に、血縁関係を結ばないと、信用できないというか…その意味で、佐藤ナナさんの存在は、画期的と言うか…これまで、五井家で、若い女性は、菊池リン以外いなかった…それが、思いがけず、出現した…それで、南家は、本家側と血縁関係ができた…そういうことです…」

 私は、伸明の説明を聞きながら、嘆息した…

 伸明の説明は、わかる…

 しかしながら、この令和の時代になんと時代がかったことといえば、いいのか…

 血縁関係の有無で、敵か味方か、分けるなんて…

 まるで、コメディだ…

 私は、思った…

 私が、黙っていると、

 「…どうしました?…」

 と、伸明が訊いた…

 私は、一瞬、どう言おうか、迷ったが、

 「…なんだが、随分、時代がかってますね…」

 と、言った…

 「…時代がかってる?…」

 「…まるで、戦国時代とか、江戸時代みたいですね…」

 私の言葉に、伸明は、目を丸くした…

 それから、小さく、

 「…江戸時代…」

 と、呟いた…

 「…たしかに、そうかもしれない…」

 小さく、頷いた…

 「…外のひと…五井を知らない、ひとから見れば、その通りかもしれない…」

 「…」

 「…でも、これが、五井の現実です…血の継承…これが、一番大事です…」

 伸明が、力説する…

 私は、それを聞きながら、おかしいと思った…

 たしかに、血の継承は、大事だが、それをいえば、この伸明は、先代当主の建造の血を引いてない…

 弟の秀樹は、建造の実子だったが、建造に嫌われた…

 あまりにも、欲が深いからだ…

 あまりにも、欲が深すぎると、周囲の人間に嫌われる…

 その結果、集団をまとめられない…

 私利私欲が強すぎる人間は、リーダーとして、不適格…

 他人の利益よりも、常に自分の利益を優先するからだ…

 それでは、ひとを率いることは、できない…

 人から、信頼されないからだ…

 だから、伸明が、血の継承を一番にあげる理由は、わかるが、心の底から、納得はできない…

 血を優先すれば、伸明は、五井家当主になれなかったからだ…

 が、

 伸明は、昭子の実子…

 だから、少なくても、五井東家の血は引いている…

 だから、他人ではない…

 それを思えば、伸明の言葉もわからないではない…

 そういうことだ…

 しかしながら、この令和の時代でも、血の継承が、一番大事とは?

 時代劇さながらだが、そうはいいながらも、やはり、それが一番なのかなとも思った…

 どうしても、人間は、血の繋がりから、逃れることはできない…

 やはり、血の繋がりがあれば、安心するからだ…

 血の繋がった兄弟姉妹や、親子は、他人に比べ、信頼できるからだ…

 最近は、毒親が、クローズアップされたが、普通は、いない…

 だから、クローズアップするのだ…

 私は、思った…

 「…寿さんには、今回、色々、迷惑をかけました…」

 …迷惑?…

 意外な言葉だ…

 一体、私が、どんな迷惑をしたのだろう?

 それとも、この迷惑と言う言葉は、単なる社交辞令と言うか…

 そんな程度の意味だろうか?

 私が、漠然と、考えていると、

 「…社交辞令じゃ、ありませんよ…」

 と、ニヤリと、伸明が、笑った…

 「…エッ? 違う?…」

 呆然とした…

 それなら、一体、私に、どんな迷惑をかけたのだろう…

 「…諏訪野マミ…菊池冬馬…あの二人が、寿さんに、ボクと、別れて欲しいと、頼みに行ったでしょ?…」

 知っていた?

 驚いた…

 が、

 まさか、

 「…ハイ…」

 と、言うことは、できないので、

 「…」

 と、黙っていた…

 「…ご迷惑をかけました…」

 伸明が、私に頭を下げた…

 「…あの二人は、先走り過ぎです…」

 「…どういう意味ですか?…」

 「…佐藤ナナ…彼女が、五井南家出身だと、わかったことで、すごく単純に、ボクと、彼女が、結婚すればいいと、思った…」

 「…」

 「…だけど、当然、ボクの意見もあるし、佐藤ナナさんの意見もある…だから、すぐに結婚というわけにも、いかない…」

 「…」

 「…でも、五井南家との関係からも、彼女には、目に見える、なんらかの形で、五井本家に関わって欲しい…」

 「…」

 「…その結果、彼女を養女として、迎えることにしました…」

 「…」

 そういうことか…

 私は、思った…

 結局は、佐藤ナナの扱い…

 血脈というと、大げさだが、五井一族を維持するために、必要なものなのだろう…

 五井一族を維持するために、必要不可欠なものなのだろう…

 だから、どうしても、いったんは、五井南家の血を引く、佐藤ナナを、五井本家の人間にする必要がある…

 だから、本当は、この伸明と結婚するのが、ベストだが、それができないのなら、なにか、別の方法を探ることになる…

 それが、養女という形なのだろう…

 五井本家に養女として、入ることで、佐藤ナナは、正式に、五井本家の人間となる…

 そして、五井南家は、本家側に正式につくことになる…

 そういうことだ…

 めでたし…

 めでたし…

 皮肉にも、そう思った…

 そう、思ったとき、ふと、以前、菊池リンが、

 「…食えない女…」

 と、私のことを、罵ったことを、思い出した…

 ふいに、私の脳裏に、フラッシュバックした…

 もしかしたら、なにか、関係があるのだろうか?

 佐藤ナナの存在と、関係があるのだろうか?

 ふと、思った…

 だから、眼前の諏訪野伸明に、

 「…菊池さん…菊池リンさんのことですが…」

 と、私が、話しかけると、明らかに、伸明の顔色が変わった…

 明らかに、その場の空気が変わった…

 一体、なぜ?

 私は、思った…

 一体、なぜ、この場で、菊池リンの名前を出したことで、こんなにも、空気が、変わったのだろう…

 私は、考える…

 「…彼女がなにか?…」

 伸明が、硬い声で、聞いた…

 私は、伸明の反応に、戸惑ったが、

 「…いえ、ふいに、菊池さんのことを、思い出したので…」

 と、言い訳した…

 すると、伸明は、予想外に、肩を落として、落ち込んだ…

 「…リンちゃん…彼女は、変わってしまった…」

 予想外の言葉が、伸明の口から出た…

 「…変わった? …どうして?…」

 「…佐藤ナナ…彼女の存在です…」

 「…どういうことですか?…」

 「…佐藤ナナ…彼女の存在が明らかになるまで、リンちゃんは、五井の主要な一族では、数少ない、若い未婚の女性でした…だから、当然、一族から、大事にされ、愛された…彼女が、一族の誰と結婚するかも、一族の間で、話題になりました…リンちゃんは、五井一族のアイドルだったんです…」

 「…アイドル?…」

 そういえば、以前、伸明の父、建造が、今と同じことを言ったことを、思い出した…

 …菊池リンは、一族のアイドルだと…

 菊池リンは、人懐っこく、愛くるしく、可愛らしい…

 また、アイドル並みのルックスを持っている…

 しかも、頼りない…

 だから、余計に、周囲の者は、彼女の面倒を見たくなる…

 ある意味、国民の妹とでも、呼べる存在…

 愛くるしくて、頼りない…

 誰もが、面倒を見たがる要素を兼ね備えている…

 しかも、彼女は、五井一族で、唯一無二の存在だった…

 並ぶべきものが、いなかった…

 五井一族に、同じように、未婚で、若い女性が、いなかったからだ…

 それが、今、佐藤ナナが、現れた…

 つまり、菊池リンは、五井一族で、唯一無二な存在ではなくなったということだ…

 当然、五井一族での立ち位置が変わる…

 自分と同じような存在が現れたのだ…

 と、ここまで、考えて、ふと、気付いた…

 以前、菊池リンが、

 「…食えない女!…」

 と、私を罵ったことの理由を、だ…

 もしかしたら、私を疑っているのかも?

 ふと、思った…

 五井南家の佐藤ナナが、私の担当看護師として、身近にいる…

 菊池リンが、佐藤ナナを、あらかじめ、五井南家の血を引く女と、知っていれば、私が、なにか、知っていると思っても、おかしくはない…

 ふと、そんな考えが、脳裏に浮かんだ…

                
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