第51話
文字数 7,796文字
「…それで、今日、私と会いたいと言ったのは…」
私は、ようやく、本筋に戻ったというか…
なぜ、諏訪野伸明が、今日、私に会いたいと言ってきたのか、そのわけを聞いた…
伸明が、
「…それは、やはり、寿さんに、周囲の意見を鵜呑みにしてもらいたくないからです…」
と、言った…
「…さっきも、言いましたが、諏訪野マミさんと、冬馬が、ボクとの結婚を寿さんから、辞退してもらいたいと、迫ったと聞いたので、それは、困ると…」
「…」
「…ボクは、なにも、変わっていない…それは、母も、です…」
「…お母様も…」
「…ハイ…」
「…」
「…ですから、寿さんにも、これまでと同じく、ボクと結婚を前提に付き合ってると、思ってください…」
私は、伸明のその言葉に、思わず、
「…信じて、いいんですね?…」
と、言ってしまった(笑)…
確認を取ったと言うか…
言質(げんち)を得たかったのだ…
「…もちろんです…」
伸明は、断言する…
「…わかりました…諏訪野さんを信じます…」
私は、言った…
私の言葉に、眼前の伸明は、ホッとしたようだった…
「…良かった…これで、安心した…」
伸明が、告げた…
「…もしかして、寿さんから、ボクとの交際を止めたいと言われるかと、思って…」
伸明が、照れ臭そうに、笑う…
「…ホントに、良かった…」
伸明が繰り返す。
私は、そんな伸明を見て、嬉しくなった…
いや、
私だけではない…
どんな人間も、今の私と同じように、誰かに、好きだと言われて、いやな気持になる人間は、いない…
皆無…
誰もいない…
相手が、よほど、嫌な人間でない限り、自分を好きだと、言って、くれれば、大抵は、嬉しいものだ…
結婚したい…
あるいは、
セックスしたい…
そんな露骨な要求をしてこない限り、ただ、好きだと言われて、悪い気持がする人間は、いない…
これは、男女とも、大半が、同じだろう…
ただ、こちらが、相手に、好意をそれほど持てず、その相手が度を越した要求でも、してくれば、話は別だ…
そういうことだろう…
単純に、自分を好きだと言ってくれる、人間を嫌いになることは、ない…
それは、誰もが、自分を好きだと言ってくれる人間は、決して、多くはない…
その裏返しでもある…
私は、考える…
ただ、やはり、こんな大金持ちで、しかも、ルックスのいい、伸明に、こんなことを、言われるのは、不思議だった…
伸明ほど、お金持ちで、ルックスが、良ければ、他に、女は、星の数ほど、いたはずだ…
なのに、どうして?
疑問だった…
だから、
「…伸明さんは、失礼ですが、どうして、その歳まで、結婚されなかったんですか?…」
直球で、聞いた…
私の質問に、伸明が、唖然とした…
が、
すぐに、
「…そういう、寿さんは、どうして、今まで、結婚されなかったんですか? そんなに、美人なのに…」
と、返した…
今度は、私が、唖然とする番だった…
伸明は、そんな私の表情を見て、笑った…
楽しんでいる様子だった…
「…私は、どうしてと、言われても…」
返答に、詰まった…
どうして、この歳まで、結婚しなかったのか?
と、問われても、すぐに、答えを出せない…
この歳まで、普通に、恋愛をしてきた…
恋愛の相手は、藤原ナオキだけではない…
だが、
なぜ、結婚しなかったのか?
ストレートに、問われると、答えが出ない…
しいて、言えば、縁がなかった…
この言葉に、尽きるように、思える…
若き日に、結婚したかった相手は、共に、まだ、若すぎたとか…
男が、正社員に就いてなかったとか…
給与が安すぎて、結婚ができないとか…
…これと思う相手に出会えなかったとか…
ひと、それぞれ、さまざまな理由がある…
そういうことだ…
そして、それらをすべて、ひっくるめて、
…縁がなかった…
という言葉に、なるのだろう…
私は、考える…
「…私は…」
と、あえて、伸明の質問に、答えようとすると、伸明が、
「…今の質問は、昔、知人に言われたことです…」
と、笑った…
「…知人ですか?…」
「…ハイ…」
「…」
「…昔、寿さんじゃないけれど、知り合った美人の女性を見て、どうして、あんな美人なのに、結婚してないんだろ? と、知人になにげなく、聞いたことがあります…」
「…」
「…すると、その知人が言いました…だったら、そういう諏訪野は、どうして、結婚してないんだ? ルックスも、良く、金持ちのオマエが?…と、返されました…」
「…」
「…つまり、そういうことです…」
伸明が笑った…
「…ひとには、どうして? と、聞けるが、同じ質問を、自分にされたら、答えられない…」
伸明が、笑う…
「…誰もが、同じです…」
その通り…
伸明の言う通りだろう…
言葉もなかった…
「…自分の場合も縁がなかったというのが、本当のところです…たとえ、告白はしなくても、このひとと、結婚出来ればと、思う女性は、何人かいました…」
「…」
「…ただ、今振り返っても、そんなふうに、思った女性は、みんな素敵な方でした…ルックスが良く、性格も良く、頭もいい…そんなすべてを持って生まれた女性もいれば、明るく、誰からも愛される女性もいた…そして、共通するのは、ただひとつ…なんだか、わかりますか?…」
私は、伸明の質問に、しばし、頭を悩ませたが、
「…わかりません…」
と、正直に、答えた…
「…答えは、ただひとつ、その女性をボクが好きだといえば、誰もが、納得することです…」
「…納得?…」
「…みんなキレイだったり、頭が良かったり、面白かったりしてますが、共通するのは、性格の良さです…」
「…性格の良さ? …ですか?…」
「…どんなに、美人だったり、頭が良かったりしても、性格が良くない人間は、誰もが嫌でしょ?…」
伸明が、笑った…
「…そして、そんな人間を好きになった人間の人間性を疑う…たとえ、学生時代の友人だったり、幼馴染(おさななじみ)だったりしても、オマエ、そんな人間だったの? と、真顔で、問い詰めたくなる…そういうことです…」
伸明の言う通り…
よくわかる…
昔から、知っている人間でも、異性の好みはわからない…
真面目な女のコが、実は、ヤンキーが好きだったり…
やはり、真面目な男が、派手な女が好きだったり…
ひとは、見かけによらないものだ…
実は、このどんな異性が、好きなのか? という、ことが、実に意外な結果をもたらすというか…
見当もつかないことが、ある…
ひとの好みは、ひとそれぞれ…
見た目と、まるで、違うことが、わかる…
そういうことだ…
極端な話、兄弟姉妹でも、異性の好みは、わからないものだ…
好きなアイドルがわかれば、
…ああ、ああいうタイプが好みなんだ?…
ということは、わかるが、実際に、付き合うタイプは、似ても似つかないことは、結構ある(笑)…
身近に、そんなタイプはいないし、アレコレ文句を言っていては、誰とも付き合えないからだ…
そういうことだ(笑)…
あえて、きつい言葉で、いえば、理想と現実は、違う…
そういうことだろう…
そして、あまりにも、その差があり過ぎると、周囲の失笑を買う…
そういうことだろう…
まったくの平凡な女が、これでもかと、いうぐらい、分不相応な高望みの発言をいつもしていて、偶然、街でバッタリ再会したとき、慌てて、顔を伏せて、歩いたのに、出くわしたことがある…
連れて歩いている、男が、普段自分が、言っていたのと、まるで、違う…
まったくの平凡な男だったからだ…
だが、その女を知る自分から、見れば、まさにお似合いのカップルだった…
似た者同士だった…
その女は、ヤンキー系で、男もまた一目見て、ヤンキー上がりのガテン系だった…
だから、似合う…
合っている…
にもかかわらず、女が普段口にしているのは、医者や弁護士のような、高学歴な、所詮は、手が届かない高値の花の男だった…
なにより、その女に、そんな高学歴なハイスペックな男たちと、出会う機会がない…
話したことも、ないに違いない…
にもかかわらず、出会えば、なんとかなると、本気で、思っていた…
まさに、バカの極み(爆笑)…
誰もが、自己評価が高いのは、わかるが、そこまで、自分の力が、わからない人間は、後にも先にも、見たことがなかった…
お目にかかったことが、なかった…
稀有な人間だった…
世の中には、これほど、自分の力がわからない人間がいる…
思いあがった人間がいる…
その典型だった…
私が、そんなことを、考えていると、
「…寿さん…」
と、伸明が、声をかけた…
「…なんでしょうか?…」
「…これから、まだまだゴタゴタは、続きます…まだ全然、終わってません…」
「…どういうことですか?…」
「…冬馬の父、菊池重方(しげかた)叔父のことです…」
「…重方(しげかた)叔父?…」
すっかり、忘れていた(苦笑)…
そういえば、冬馬の父、重方(しげかた)は、五井家を追放された…
現職の国会議員であり、自民党の大場派に属していた、菊池重方(しげかた)…
しかしながら、大場派から、独立して、自分の派閥を作ろうとして、失敗した…
ありていに、いえば、梯子をはずされたのだ…
自分についてくると思った人間が、皆、そっぽを向いた…
実は、大場派の領袖、大場小太郎は、菊池重方(しげかた)の、独立を、今か今かと、狙っていた…
すでに、菊池重方(しげかた)が、かなり前から、大場派から独立して、自分の派閥を立ち上げる動きを、掴んでいた…
そして、そのときのために、あらかじめ、伸明の母、昭子にも、会って、話をつけていた…
菊池重方(しげかた)の力の源泉は、五井家…
五井家の財力に他ならない…
だから、重方(しげかた)が、独立を仄めかしたときに、五井は、重方(しげかた)を支持するのか、否か、あらかじめ、昭子に、その意向を聞いていた…
すべては、昭子次第であることを、見抜いていたからだ…
なにより、大場派の領袖、大場小太郎は、以前から、昭子と面識があった…
これは、ある意味、当たり前だった…
五井家の前の当主の妻であった、諏訪野昭子は、財界の著名人…
大場小太郎も有名政治家…
著名人同士、交流がある…
そういうことだ…
だから、昭子に会い、重方(しげかた)が、自分の派閥からの独立を宣言したときに、五井家として、どう対応するのか、尋ねた…
その結果は、
…五井家は、重方(しげかた)を、支援しない…
というものだった…
金銭的な支持はしないということだった…
重方(しげかた)の周りに集まる人間は、皆、五井の金が目当て…
金銭的な支援を目的に集まっている…
だから、金銭的な支持を得られないとわかれば、潮が引くように、人が離れてゆく…
当たり前のことだ…
昭子から、重方(しげかた)を支援しないと聞いた大場小太郎は、安心した…
だから、重方(しげかた)を、放っておいた…
五井家あっての、菊池重方(しげかた)…
五井家の支援が得られなければ、なにもできないからだ…
結局、それがわからなかった重方(しげかた)は、大場派からの独立を宣言して、失敗した…
が、
その後、どうなったかは、わからない…
国会議員であることは、わかっているが、その動静が聞こえてこない…
だから、さっぱり、今どうしているか、わからない…
いや、
そもそも、重方(しげかた)の存在を、失礼ながら、忘れていた…
今の今まで、そんなこともあったなと、忘れていた…
今、伸明の言葉で、重方(しげかた)を、思い出したぐらいだ…
そんなことを、思い出していると、
「…叔父は、案外、執念深いんです…」
「…執念深い?…」
「…だから、今回の屈辱を忘れていません…」
「…屈辱?…それは、わかりますけれども、重方(しげかた)さんは、ご自分の派閥作りに失敗して…」
後は、言わなかった…
さすがに、これ以上は、言えない…
誹謗中傷に当たるとまでは、言えないが、菊池重方(しげかた)は、伸明の叔父…
その叔父の悪口を言われては、伸明とて、いい気持ちはしないからだ…
「…寿さんのおっしゃる通りです…」
「…」
「…でも、火種は、くすぶったまま…まだ鎮火してません…」
「…鎮火してない? …どういう意味ですか?…」
「…変な話、重方(しげかた)叔父が、国会議員を落選したりすれば、良かったんですが、今も国会議員のまま…ただ、自分の派閥の立ち上げに失敗しただけです…」
「…」
「…だから、消火ではない…完全に、火は消えてない…仮に、水をかけても、まだプスプスと音がして、火がくすぶり、残っている…」
「…」
「…重方(しげかた)叔父は、まだ、完全に、終わってないということです…」
「…」
「…だから、ボクは、それも気がかりで…」
伸明が、告げる…
たしかに、そう言われれば、わかる…
完全に力を失えば、重方(しげかた)が、終わったことが、わかるが、そうではない…
依然として、肩書は、国会議員のまま…
だから、力は、失っていない…
小なりといえども、もっているというべきか…
私は、思った…
「…実際は、なにもできないかもしれない…」
伸明が続ける…
これまでと、真逆なことを、言った…
「…でも、気になる…」
伸明が、苦笑する…
「…そして、それが、五井家の当主になることだと、最近気づきました…」
「…どういうことですか?…」
「…どんな小さな騒動でも、なにか、起これば、それが、気になるし、それが気にならなければ、ならない…」
「…」
「…重方(しげかた)叔父の件が、いい例ですが、あんなことがあれば、重方(しげかた)叔父が、またなにか、やらかさないかと、注意して、気にする…」
「…」
「…なにが、起こっても、気にして、心に留めておき、対処しなければ、ならない…それが、いずれ、大きな騒動になるかもしれないと、肝に銘じておかなければ、ならない…」
「…」
「…そうしておけば、騒動が起こったときにも、キチンと対処できる…それが、わかりました…」
伸明が、笑った…
そして、それが、五井家の当主になることなのだろうと、思った…
どんな小さなことでも、見逃さず、気にする…
それが、将来、もしかしたら、大変なことになるかもしれないからだ…
それが、もしかしたら、五井を破滅させる引き金になるかもしれないからだ…
そう考えれば、あらゆることに、目を配り、対応しなければ、ならなくなる…
その結果、大変な疲労に襲われることになるだろう…
常にプレッシャーに見舞われる…
そういうことだ…
そして、そういう立場にいる人間に、必要なのは、癒しか、分担のどちらか…
そういう人間に必要な妻の条件は、癒しか、分担のどっちかだ…
癒しというのは、疲れた夫を癒す力を持つもの…
その点では、菊池リンは、適任だ…
愛くるしくて、いっしょにいれば、癒される…
これは、佐藤ナナも同じ…
一方、分担というのは、パートナー…
夫婦という形に限らず、同じ立場で、考えることができる人間だ…
会社でいえば、共同経営者…
自分と同じ、仕事ができる…
自分の代わりができる…
そういうことだ…
だから、伸明にとっては、伸明の代わりに、五井家を仕切れる人間が、必要となる…
その点では、とても、菊池リンでは、無理…
伸明を癒すことはできても、伸明の代わりはできない…
それを見越して、昭子は、私を推したのか?
ふと、思った…
思い上がりかもしれないが、そう思った…
そう考えれば、昭子の考えも納得できる…
いや、
私は、癌…
あと、何年生きれるか、わからない…
だから、もしかしたら、ショートリリーフとして、私を伸明の妻にしたいのでは?
と、思った…
仮に、例えば、将来、菊池リンを、伸明の妻にしたいと、思っても、今のままでは、無理…
だから、年数が経つのを、待つ…
菊池リンが、成長するのを、待つ…
菊池リンが、癒しのみならず、当主としての伸明のパートナーが務めるまで、成長を待つ…
その間のツナギとして、私を選んだのではないか?
ふと、思った…
そう考えれば、すべて納得できる…
余命いくばくもない私を伸明の妻に選んだ理由がわかる…
いつまで、生きるか、わからない、私を選んだ理由がわかる…
そういうことだ…
そう考えれば、一番、納得できる…
伸明の母、昭子が、どうして、私を選んだのか?
納得できる…
そんなことを、考えていると、伸明が、
「…どうしました?…」
と、聞いてきた…
「…エッ?…」
「…いや、今、寿さんが、なにか、考え事をしているから…」
「…」
私は、伸明の言葉に、一瞬、言おうか、どうか、悩んだが、
「…伸明さんのお母様が、どうして、私を選んだのか? 不思議だったので…」
と、言った…
「…不思議?…」
伸明は、戸惑ったようだ…
「…私のように、もう若くもなく、おまけに、病気持ち…そんな女を、伸明さんと、結婚させてもいいなんて…」
私が、遠慮がちに言うと、伸明は、考え込んだ…
しばし、難しい顔で、悩んでいた…
それから、ゆっくりと、口を開いた…
「…それは、たぶん、自分の経験かも…」
「…経験? …どういう意味ですか?…」
「…寿さんも、ご存知のように、ボクは、五井家の先代当主、建造の実子ではない…」
「…」
「…つまり、血が繋がってない…要するに、母は、建造とは、別の男と恋愛していたわけです…」
「…」
「…だから、奔放というと、語弊があるが、母自身は、五井の掟というか…五井家の人間は、五井家の人間と、結婚しなければ、ならないというのが、嫌なんです…」
仰天の言葉だった…
「…もっとも、これは、母の妹の和子叔母様も同じ…だから、和子叔母さまも、以前、ボクと、孫の菊池リンちゃんが、結婚すればいいと、周囲の声があったとき、好きにすればいいと、言いました…本人の意思に任すと…」
「…」
「…だから、本当は、母たちもまた、五井井の血の掟というか…結婚は、一族内でするように、という暗黙の了解が嫌なんです…でも、立場上、それを明確に否定することもできない…」
「…」
「…だから、迷ってるというか…ボクは、リンちゃんは、好きだが、歳の差もあるし、正直、結婚して、うまくいくかどうかは、わからない…」
「…」
「…それを考えれば、寿さんと結婚したほうが、うまくいく…」
「…」
「…それに、リンちゃんでは、ときめかない…」
伸明が、苦笑する…
「…リンちゃんとは、ほぼ二十歳違う…ボクは、リンちゃんが、赤ん坊のころから、知っている…」
「…」
「…そんなリンちゃんと結婚しろと言われても、戸惑うだけ…これは、リンちゃんから、見ても、同じでしょ?…」
伸明が、笑った…
たしかに、これは、笑えると言うと、失礼だが、よく、わかる…
今では、男が、女よりも、二十歳、歳が上というのは、稀に世間であるが、それでも、それは、見知らぬ他人同士…
同じ一族で、子供の頃から、相手を見知っていたわけではない…
伸明にとっては、従妹の子…
それが、菊池リンだ…
まだ、従妹同士ならば、歳が、近いはずだから、結婚も考えられるが、従妹の子供というと、普通は、結婚相手として、考えられない…
また、そんな例を、世間でも、聞いたことがない…
そういうことだ(苦笑)…
だから、それを思えば、最初から、伸明の中で、菊池リンとの結婚は、なかったのかもしれない…
周囲の人間…五井一族の中では、あり、だとしても、諏訪野伸明、菊池リン、双方の当事者同士の中では、なかったのかもしれない…
私は、思った…
私は、ようやく、本筋に戻ったというか…
なぜ、諏訪野伸明が、今日、私に会いたいと言ってきたのか、そのわけを聞いた…
伸明が、
「…それは、やはり、寿さんに、周囲の意見を鵜呑みにしてもらいたくないからです…」
と、言った…
「…さっきも、言いましたが、諏訪野マミさんと、冬馬が、ボクとの結婚を寿さんから、辞退してもらいたいと、迫ったと聞いたので、それは、困ると…」
「…」
「…ボクは、なにも、変わっていない…それは、母も、です…」
「…お母様も…」
「…ハイ…」
「…」
「…ですから、寿さんにも、これまでと同じく、ボクと結婚を前提に付き合ってると、思ってください…」
私は、伸明のその言葉に、思わず、
「…信じて、いいんですね?…」
と、言ってしまった(笑)…
確認を取ったと言うか…
言質(げんち)を得たかったのだ…
「…もちろんです…」
伸明は、断言する…
「…わかりました…諏訪野さんを信じます…」
私は、言った…
私の言葉に、眼前の伸明は、ホッとしたようだった…
「…良かった…これで、安心した…」
伸明が、告げた…
「…もしかして、寿さんから、ボクとの交際を止めたいと言われるかと、思って…」
伸明が、照れ臭そうに、笑う…
「…ホントに、良かった…」
伸明が繰り返す。
私は、そんな伸明を見て、嬉しくなった…
いや、
私だけではない…
どんな人間も、今の私と同じように、誰かに、好きだと言われて、いやな気持になる人間は、いない…
皆無…
誰もいない…
相手が、よほど、嫌な人間でない限り、自分を好きだと、言って、くれれば、大抵は、嬉しいものだ…
結婚したい…
あるいは、
セックスしたい…
そんな露骨な要求をしてこない限り、ただ、好きだと言われて、悪い気持がする人間は、いない…
これは、男女とも、大半が、同じだろう…
ただ、こちらが、相手に、好意をそれほど持てず、その相手が度を越した要求でも、してくれば、話は別だ…
そういうことだろう…
単純に、自分を好きだと言ってくれる、人間を嫌いになることは、ない…
それは、誰もが、自分を好きだと言ってくれる人間は、決して、多くはない…
その裏返しでもある…
私は、考える…
ただ、やはり、こんな大金持ちで、しかも、ルックスのいい、伸明に、こんなことを、言われるのは、不思議だった…
伸明ほど、お金持ちで、ルックスが、良ければ、他に、女は、星の数ほど、いたはずだ…
なのに、どうして?
疑問だった…
だから、
「…伸明さんは、失礼ですが、どうして、その歳まで、結婚されなかったんですか?…」
直球で、聞いた…
私の質問に、伸明が、唖然とした…
が、
すぐに、
「…そういう、寿さんは、どうして、今まで、結婚されなかったんですか? そんなに、美人なのに…」
と、返した…
今度は、私が、唖然とする番だった…
伸明は、そんな私の表情を見て、笑った…
楽しんでいる様子だった…
「…私は、どうしてと、言われても…」
返答に、詰まった…
どうして、この歳まで、結婚しなかったのか?
と、問われても、すぐに、答えを出せない…
この歳まで、普通に、恋愛をしてきた…
恋愛の相手は、藤原ナオキだけではない…
だが、
なぜ、結婚しなかったのか?
ストレートに、問われると、答えが出ない…
しいて、言えば、縁がなかった…
この言葉に、尽きるように、思える…
若き日に、結婚したかった相手は、共に、まだ、若すぎたとか…
男が、正社員に就いてなかったとか…
給与が安すぎて、結婚ができないとか…
…これと思う相手に出会えなかったとか…
ひと、それぞれ、さまざまな理由がある…
そういうことだ…
そして、それらをすべて、ひっくるめて、
…縁がなかった…
という言葉に、なるのだろう…
私は、考える…
「…私は…」
と、あえて、伸明の質問に、答えようとすると、伸明が、
「…今の質問は、昔、知人に言われたことです…」
と、笑った…
「…知人ですか?…」
「…ハイ…」
「…」
「…昔、寿さんじゃないけれど、知り合った美人の女性を見て、どうして、あんな美人なのに、結婚してないんだろ? と、知人になにげなく、聞いたことがあります…」
「…」
「…すると、その知人が言いました…だったら、そういう諏訪野は、どうして、結婚してないんだ? ルックスも、良く、金持ちのオマエが?…と、返されました…」
「…」
「…つまり、そういうことです…」
伸明が笑った…
「…ひとには、どうして? と、聞けるが、同じ質問を、自分にされたら、答えられない…」
伸明が、笑う…
「…誰もが、同じです…」
その通り…
伸明の言う通りだろう…
言葉もなかった…
「…自分の場合も縁がなかったというのが、本当のところです…たとえ、告白はしなくても、このひとと、結婚出来ればと、思う女性は、何人かいました…」
「…」
「…ただ、今振り返っても、そんなふうに、思った女性は、みんな素敵な方でした…ルックスが良く、性格も良く、頭もいい…そんなすべてを持って生まれた女性もいれば、明るく、誰からも愛される女性もいた…そして、共通するのは、ただひとつ…なんだか、わかりますか?…」
私は、伸明の質問に、しばし、頭を悩ませたが、
「…わかりません…」
と、正直に、答えた…
「…答えは、ただひとつ、その女性をボクが好きだといえば、誰もが、納得することです…」
「…納得?…」
「…みんなキレイだったり、頭が良かったり、面白かったりしてますが、共通するのは、性格の良さです…」
「…性格の良さ? …ですか?…」
「…どんなに、美人だったり、頭が良かったりしても、性格が良くない人間は、誰もが嫌でしょ?…」
伸明が、笑った…
「…そして、そんな人間を好きになった人間の人間性を疑う…たとえ、学生時代の友人だったり、幼馴染(おさななじみ)だったりしても、オマエ、そんな人間だったの? と、真顔で、問い詰めたくなる…そういうことです…」
伸明の言う通り…
よくわかる…
昔から、知っている人間でも、異性の好みはわからない…
真面目な女のコが、実は、ヤンキーが好きだったり…
やはり、真面目な男が、派手な女が好きだったり…
ひとは、見かけによらないものだ…
実は、このどんな異性が、好きなのか? という、ことが、実に意外な結果をもたらすというか…
見当もつかないことが、ある…
ひとの好みは、ひとそれぞれ…
見た目と、まるで、違うことが、わかる…
そういうことだ…
極端な話、兄弟姉妹でも、異性の好みは、わからないものだ…
好きなアイドルがわかれば、
…ああ、ああいうタイプが好みなんだ?…
ということは、わかるが、実際に、付き合うタイプは、似ても似つかないことは、結構ある(笑)…
身近に、そんなタイプはいないし、アレコレ文句を言っていては、誰とも付き合えないからだ…
そういうことだ(笑)…
あえて、きつい言葉で、いえば、理想と現実は、違う…
そういうことだろう…
そして、あまりにも、その差があり過ぎると、周囲の失笑を買う…
そういうことだろう…
まったくの平凡な女が、これでもかと、いうぐらい、分不相応な高望みの発言をいつもしていて、偶然、街でバッタリ再会したとき、慌てて、顔を伏せて、歩いたのに、出くわしたことがある…
連れて歩いている、男が、普段自分が、言っていたのと、まるで、違う…
まったくの平凡な男だったからだ…
だが、その女を知る自分から、見れば、まさにお似合いのカップルだった…
似た者同士だった…
その女は、ヤンキー系で、男もまた一目見て、ヤンキー上がりのガテン系だった…
だから、似合う…
合っている…
にもかかわらず、女が普段口にしているのは、医者や弁護士のような、高学歴な、所詮は、手が届かない高値の花の男だった…
なにより、その女に、そんな高学歴なハイスペックな男たちと、出会う機会がない…
話したことも、ないに違いない…
にもかかわらず、出会えば、なんとかなると、本気で、思っていた…
まさに、バカの極み(爆笑)…
誰もが、自己評価が高いのは、わかるが、そこまで、自分の力が、わからない人間は、後にも先にも、見たことがなかった…
お目にかかったことが、なかった…
稀有な人間だった…
世の中には、これほど、自分の力がわからない人間がいる…
思いあがった人間がいる…
その典型だった…
私が、そんなことを、考えていると、
「…寿さん…」
と、伸明が、声をかけた…
「…なんでしょうか?…」
「…これから、まだまだゴタゴタは、続きます…まだ全然、終わってません…」
「…どういうことですか?…」
「…冬馬の父、菊池重方(しげかた)叔父のことです…」
「…重方(しげかた)叔父?…」
すっかり、忘れていた(苦笑)…
そういえば、冬馬の父、重方(しげかた)は、五井家を追放された…
現職の国会議員であり、自民党の大場派に属していた、菊池重方(しげかた)…
しかしながら、大場派から、独立して、自分の派閥を作ろうとして、失敗した…
ありていに、いえば、梯子をはずされたのだ…
自分についてくると思った人間が、皆、そっぽを向いた…
実は、大場派の領袖、大場小太郎は、菊池重方(しげかた)の、独立を、今か今かと、狙っていた…
すでに、菊池重方(しげかた)が、かなり前から、大場派から独立して、自分の派閥を立ち上げる動きを、掴んでいた…
そして、そのときのために、あらかじめ、伸明の母、昭子にも、会って、話をつけていた…
菊池重方(しげかた)の力の源泉は、五井家…
五井家の財力に他ならない…
だから、重方(しげかた)が、独立を仄めかしたときに、五井は、重方(しげかた)を支持するのか、否か、あらかじめ、昭子に、その意向を聞いていた…
すべては、昭子次第であることを、見抜いていたからだ…
なにより、大場派の領袖、大場小太郎は、以前から、昭子と面識があった…
これは、ある意味、当たり前だった…
五井家の前の当主の妻であった、諏訪野昭子は、財界の著名人…
大場小太郎も有名政治家…
著名人同士、交流がある…
そういうことだ…
だから、昭子に会い、重方(しげかた)が、自分の派閥からの独立を宣言したときに、五井家として、どう対応するのか、尋ねた…
その結果は、
…五井家は、重方(しげかた)を、支援しない…
というものだった…
金銭的な支持はしないということだった…
重方(しげかた)の周りに集まる人間は、皆、五井の金が目当て…
金銭的な支援を目的に集まっている…
だから、金銭的な支持を得られないとわかれば、潮が引くように、人が離れてゆく…
当たり前のことだ…
昭子から、重方(しげかた)を支援しないと聞いた大場小太郎は、安心した…
だから、重方(しげかた)を、放っておいた…
五井家あっての、菊池重方(しげかた)…
五井家の支援が得られなければ、なにもできないからだ…
結局、それがわからなかった重方(しげかた)は、大場派からの独立を宣言して、失敗した…
が、
その後、どうなったかは、わからない…
国会議員であることは、わかっているが、その動静が聞こえてこない…
だから、さっぱり、今どうしているか、わからない…
いや、
そもそも、重方(しげかた)の存在を、失礼ながら、忘れていた…
今の今まで、そんなこともあったなと、忘れていた…
今、伸明の言葉で、重方(しげかた)を、思い出したぐらいだ…
そんなことを、思い出していると、
「…叔父は、案外、執念深いんです…」
「…執念深い?…」
「…だから、今回の屈辱を忘れていません…」
「…屈辱?…それは、わかりますけれども、重方(しげかた)さんは、ご自分の派閥作りに失敗して…」
後は、言わなかった…
さすがに、これ以上は、言えない…
誹謗中傷に当たるとまでは、言えないが、菊池重方(しげかた)は、伸明の叔父…
その叔父の悪口を言われては、伸明とて、いい気持ちはしないからだ…
「…寿さんのおっしゃる通りです…」
「…」
「…でも、火種は、くすぶったまま…まだ鎮火してません…」
「…鎮火してない? …どういう意味ですか?…」
「…変な話、重方(しげかた)叔父が、国会議員を落選したりすれば、良かったんですが、今も国会議員のまま…ただ、自分の派閥の立ち上げに失敗しただけです…」
「…」
「…だから、消火ではない…完全に、火は消えてない…仮に、水をかけても、まだプスプスと音がして、火がくすぶり、残っている…」
「…」
「…重方(しげかた)叔父は、まだ、完全に、終わってないということです…」
「…」
「…だから、ボクは、それも気がかりで…」
伸明が、告げる…
たしかに、そう言われれば、わかる…
完全に力を失えば、重方(しげかた)が、終わったことが、わかるが、そうではない…
依然として、肩書は、国会議員のまま…
だから、力は、失っていない…
小なりといえども、もっているというべきか…
私は、思った…
「…実際は、なにもできないかもしれない…」
伸明が続ける…
これまでと、真逆なことを、言った…
「…でも、気になる…」
伸明が、苦笑する…
「…そして、それが、五井家の当主になることだと、最近気づきました…」
「…どういうことですか?…」
「…どんな小さな騒動でも、なにか、起これば、それが、気になるし、それが気にならなければ、ならない…」
「…」
「…重方(しげかた)叔父の件が、いい例ですが、あんなことがあれば、重方(しげかた)叔父が、またなにか、やらかさないかと、注意して、気にする…」
「…」
「…なにが、起こっても、気にして、心に留めておき、対処しなければ、ならない…それが、いずれ、大きな騒動になるかもしれないと、肝に銘じておかなければ、ならない…」
「…」
「…そうしておけば、騒動が起こったときにも、キチンと対処できる…それが、わかりました…」
伸明が、笑った…
そして、それが、五井家の当主になることなのだろうと、思った…
どんな小さなことでも、見逃さず、気にする…
それが、将来、もしかしたら、大変なことになるかもしれないからだ…
それが、もしかしたら、五井を破滅させる引き金になるかもしれないからだ…
そう考えれば、あらゆることに、目を配り、対応しなければ、ならなくなる…
その結果、大変な疲労に襲われることになるだろう…
常にプレッシャーに見舞われる…
そういうことだ…
そして、そういう立場にいる人間に、必要なのは、癒しか、分担のどちらか…
そういう人間に必要な妻の条件は、癒しか、分担のどっちかだ…
癒しというのは、疲れた夫を癒す力を持つもの…
その点では、菊池リンは、適任だ…
愛くるしくて、いっしょにいれば、癒される…
これは、佐藤ナナも同じ…
一方、分担というのは、パートナー…
夫婦という形に限らず、同じ立場で、考えることができる人間だ…
会社でいえば、共同経営者…
自分と同じ、仕事ができる…
自分の代わりができる…
そういうことだ…
だから、伸明にとっては、伸明の代わりに、五井家を仕切れる人間が、必要となる…
その点では、とても、菊池リンでは、無理…
伸明を癒すことはできても、伸明の代わりはできない…
それを見越して、昭子は、私を推したのか?
ふと、思った…
思い上がりかもしれないが、そう思った…
そう考えれば、昭子の考えも納得できる…
いや、
私は、癌…
あと、何年生きれるか、わからない…
だから、もしかしたら、ショートリリーフとして、私を伸明の妻にしたいのでは?
と、思った…
仮に、例えば、将来、菊池リンを、伸明の妻にしたいと、思っても、今のままでは、無理…
だから、年数が経つのを、待つ…
菊池リンが、成長するのを、待つ…
菊池リンが、癒しのみならず、当主としての伸明のパートナーが務めるまで、成長を待つ…
その間のツナギとして、私を選んだのではないか?
ふと、思った…
そう考えれば、すべて納得できる…
余命いくばくもない私を伸明の妻に選んだ理由がわかる…
いつまで、生きるか、わからない、私を選んだ理由がわかる…
そういうことだ…
そう考えれば、一番、納得できる…
伸明の母、昭子が、どうして、私を選んだのか?
納得できる…
そんなことを、考えていると、伸明が、
「…どうしました?…」
と、聞いてきた…
「…エッ?…」
「…いや、今、寿さんが、なにか、考え事をしているから…」
「…」
私は、伸明の言葉に、一瞬、言おうか、どうか、悩んだが、
「…伸明さんのお母様が、どうして、私を選んだのか? 不思議だったので…」
と、言った…
「…不思議?…」
伸明は、戸惑ったようだ…
「…私のように、もう若くもなく、おまけに、病気持ち…そんな女を、伸明さんと、結婚させてもいいなんて…」
私が、遠慮がちに言うと、伸明は、考え込んだ…
しばし、難しい顔で、悩んでいた…
それから、ゆっくりと、口を開いた…
「…それは、たぶん、自分の経験かも…」
「…経験? …どういう意味ですか?…」
「…寿さんも、ご存知のように、ボクは、五井家の先代当主、建造の実子ではない…」
「…」
「…つまり、血が繋がってない…要するに、母は、建造とは、別の男と恋愛していたわけです…」
「…」
「…だから、奔放というと、語弊があるが、母自身は、五井の掟というか…五井家の人間は、五井家の人間と、結婚しなければ、ならないというのが、嫌なんです…」
仰天の言葉だった…
「…もっとも、これは、母の妹の和子叔母様も同じ…だから、和子叔母さまも、以前、ボクと、孫の菊池リンちゃんが、結婚すればいいと、周囲の声があったとき、好きにすればいいと、言いました…本人の意思に任すと…」
「…」
「…だから、本当は、母たちもまた、五井井の血の掟というか…結婚は、一族内でするように、という暗黙の了解が嫌なんです…でも、立場上、それを明確に否定することもできない…」
「…」
「…だから、迷ってるというか…ボクは、リンちゃんは、好きだが、歳の差もあるし、正直、結婚して、うまくいくかどうかは、わからない…」
「…」
「…それを考えれば、寿さんと結婚したほうが、うまくいく…」
「…」
「…それに、リンちゃんでは、ときめかない…」
伸明が、苦笑する…
「…リンちゃんとは、ほぼ二十歳違う…ボクは、リンちゃんが、赤ん坊のころから、知っている…」
「…」
「…そんなリンちゃんと結婚しろと言われても、戸惑うだけ…これは、リンちゃんから、見ても、同じでしょ?…」
伸明が、笑った…
たしかに、これは、笑えると言うと、失礼だが、よく、わかる…
今では、男が、女よりも、二十歳、歳が上というのは、稀に世間であるが、それでも、それは、見知らぬ他人同士…
同じ一族で、子供の頃から、相手を見知っていたわけではない…
伸明にとっては、従妹の子…
それが、菊池リンだ…
まだ、従妹同士ならば、歳が、近いはずだから、結婚も考えられるが、従妹の子供というと、普通は、結婚相手として、考えられない…
また、そんな例を、世間でも、聞いたことがない…
そういうことだ(苦笑)…
だから、それを思えば、最初から、伸明の中で、菊池リンとの結婚は、なかったのかもしれない…
周囲の人間…五井一族の中では、あり、だとしても、諏訪野伸明、菊池リン、双方の当事者同士の中では、なかったのかもしれない…
私は、思った…