第15話
文字数 1,972文字
出来上がった工作機械のカタログの百冊あまりに、掲載されるべき絵が掲載されず、白紙のままのページが見つかった。既に製本されている事もあり、そこの部分の絵だけがシールにプリントされて、それを白紙のページに貼る作業だ。
ただシールを貼るだけの作業とは言っても、きちんと真っすぐ貼らなければならない。
真っすぐ貼る為の目安の印が入っているので、そこに角を合わせれば真っすぐ貼れるようになっているが慎重さが必要になる。
「ここに角と角を合わせて貼れば、ちゃんと真っすぐ貼れるからね」と、やって見せてから任せたのだが。
生島は総じて仕事が遅い。時間がかかるだろう事は予想していた。
百冊もあるし、シールと言ってもA5ほどの大きさだから慎重にならざるを得ない。時間を要すのも当然だろう。だから頼んだ後は、特に気にする事もなく自分の仕事に没頭していた。
いつも通りに起床できたものの、時間が経つほどに眠気がでてきて頭がボンヤリしがちだった。
それを意志の力で跳ねのけるようにして仕事に励んだが、いつも程、集中できない。だから目の前の男が、自分に声を掛けているらしい事にすぐに気づいた。
「なんか、ちょっと違和感、感じるんですけど…」
向かいの席の清原の声に顔を上げると、清原が訝しそうな顔で顎を生島の方へ向けた。
「なんなんでしょうね…。よく分からないんですけど、ちょっと変な感じ…?」
言われて柊子も生島の方へ視線をやる。
一生懸命に頑張っているようで、何が変なのか分からない。柊子は首を傾げた。
「…えっと、カタログですかね。違和感は。できあがって置いてあるヤツが、何て言うか…、変?」
清原の言葉に、柊子は直接確かめる事にした。
席を立って生島のそばに寄る。
「どう?順調にいってる?」
「はい、何とか…。ちゃんと貼れてると思います」
カタログの白紙のページの角に合わせて、一生懸命に貼っている。
完璧に真っすぐか、と問えば完璧とは言い難く、神経質な人なら歪みを指摘するかもしれないが許容範囲内だと柊子は思った。
(うーん、どこが変なんだろう?)
ふと、貼り終えて積んであるカタログの方へ目をやった時、えっ!?と思った。
これだ、違和感は。
表紙が上下逆に置いてあるのだ。
「生島さん、ストップ!!作業、ストップ!手を止めて」
今まさに貼ろうとしていた生島を慌てて止めた。
生島は手を止めて、不思議そうに柊子を見上げる。
柊子は恐る恐る貼り終えたカタログを手に取って中を確認し、脱力した。
(ああ~、やだもう…)
まだ貼っていないカタログは十冊くらいだから、約九十冊も、上下逆さまに貼ってしまったと言う事だ。
泣きたくなった。そして、眠気もすっ飛んだ。
なんで貼る前に確認しないんだろう。
そして、貼った後で表紙が上下が逆になっている事に、なんで疑問を感じないんだろう。
どうしてもっと早くに気づかないんだろう。
そう思っても今更どうにもならない。
それが分かっているからこそ、絶望的な気持ちになる。
白紙部分に絵を入れて、再印刷して製本する時間が無いからこそ、こんな奥の手みたいな作業をしている。
これは商品なのだ。
例え一ページとは言え、上下逆さまなページがあって良いわけがない。
「なんで…、貼る前にちゃんと確認しないの?」
言ってもしょうがない事と分かっていても、言わずにはいられなかった。
「貼った後、表紙を閉じて上下が違うって、なんで気づかないの?」
怒鳴りたい衝動だけは、なんとか抑えた。
「すみません…」
生島は首を垂れて沈んだ顔だ。
いつも失敗してもなんのそので、ヘラヘラしている彼女だったが、さすがに今回はまずかったと思ったようだ。
「柊子さん、ここは主任に報告しましょうよ。それしかないでしょう」
そばにやってきた清原に言われ、柊子は立ち上がった。
少し席の離れた柿原主任の元へ行くと、柿原は彼女たちの様子に全く気付いていないようで自分の仕事に集中していた。
「主任…」
重たい気持ちで遠慮がちに声を掛ける。
「ん…、ああ…、どうした?」
「あ、の…、カタログのシール貼りなんですけど…」
「できたのか」
「いえ、それがその…、生島さんが絵を上下逆に貼ってしまって…」
「ええー?なんなんだよ、アイツは。全く。シール貼りすら満足にできないのかっ。仕方ないな。まぁ、貼り直せばいいさ」
「え?そんな事ができるんですか?」
小さなシールならまだしも、大きな面積だ。売り物なのに大丈夫なのかと柊子の心は不安で満たされている。
「ノリを溶かして跡も残らない液体があるんだよ。それを使えば綺麗に剥がせるから、また新しいシールを貼ればいいさ。それで、何冊失敗したんだ?」
「それが、九十冊くらいで…」
「なんだってぇ!?」
穏やかでにこやかだった柿原の顔が、急に怒りに満ちた顔に変化した。
ただシールを貼るだけの作業とは言っても、きちんと真っすぐ貼らなければならない。
真っすぐ貼る為の目安の印が入っているので、そこに角を合わせれば真っすぐ貼れるようになっているが慎重さが必要になる。
「ここに角と角を合わせて貼れば、ちゃんと真っすぐ貼れるからね」と、やって見せてから任せたのだが。
生島は総じて仕事が遅い。時間がかかるだろう事は予想していた。
百冊もあるし、シールと言ってもA5ほどの大きさだから慎重にならざるを得ない。時間を要すのも当然だろう。だから頼んだ後は、特に気にする事もなく自分の仕事に没頭していた。
いつも通りに起床できたものの、時間が経つほどに眠気がでてきて頭がボンヤリしがちだった。
それを意志の力で跳ねのけるようにして仕事に励んだが、いつも程、集中できない。だから目の前の男が、自分に声を掛けているらしい事にすぐに気づいた。
「なんか、ちょっと違和感、感じるんですけど…」
向かいの席の清原の声に顔を上げると、清原が訝しそうな顔で顎を生島の方へ向けた。
「なんなんでしょうね…。よく分からないんですけど、ちょっと変な感じ…?」
言われて柊子も生島の方へ視線をやる。
一生懸命に頑張っているようで、何が変なのか分からない。柊子は首を傾げた。
「…えっと、カタログですかね。違和感は。できあがって置いてあるヤツが、何て言うか…、変?」
清原の言葉に、柊子は直接確かめる事にした。
席を立って生島のそばに寄る。
「どう?順調にいってる?」
「はい、何とか…。ちゃんと貼れてると思います」
カタログの白紙のページの角に合わせて、一生懸命に貼っている。
完璧に真っすぐか、と問えば完璧とは言い難く、神経質な人なら歪みを指摘するかもしれないが許容範囲内だと柊子は思った。
(うーん、どこが変なんだろう?)
ふと、貼り終えて積んであるカタログの方へ目をやった時、えっ!?と思った。
これだ、違和感は。
表紙が上下逆に置いてあるのだ。
「生島さん、ストップ!!作業、ストップ!手を止めて」
今まさに貼ろうとしていた生島を慌てて止めた。
生島は手を止めて、不思議そうに柊子を見上げる。
柊子は恐る恐る貼り終えたカタログを手に取って中を確認し、脱力した。
(ああ~、やだもう…)
まだ貼っていないカタログは十冊くらいだから、約九十冊も、上下逆さまに貼ってしまったと言う事だ。
泣きたくなった。そして、眠気もすっ飛んだ。
なんで貼る前に確認しないんだろう。
そして、貼った後で表紙が上下が逆になっている事に、なんで疑問を感じないんだろう。
どうしてもっと早くに気づかないんだろう。
そう思っても今更どうにもならない。
それが分かっているからこそ、絶望的な気持ちになる。
白紙部分に絵を入れて、再印刷して製本する時間が無いからこそ、こんな奥の手みたいな作業をしている。
これは商品なのだ。
例え一ページとは言え、上下逆さまなページがあって良いわけがない。
「なんで…、貼る前にちゃんと確認しないの?」
言ってもしょうがない事と分かっていても、言わずにはいられなかった。
「貼った後、表紙を閉じて上下が違うって、なんで気づかないの?」
怒鳴りたい衝動だけは、なんとか抑えた。
「すみません…」
生島は首を垂れて沈んだ顔だ。
いつも失敗してもなんのそので、ヘラヘラしている彼女だったが、さすがに今回はまずかったと思ったようだ。
「柊子さん、ここは主任に報告しましょうよ。それしかないでしょう」
そばにやってきた清原に言われ、柊子は立ち上がった。
少し席の離れた柿原主任の元へ行くと、柿原は彼女たちの様子に全く気付いていないようで自分の仕事に集中していた。
「主任…」
重たい気持ちで遠慮がちに声を掛ける。
「ん…、ああ…、どうした?」
「あ、の…、カタログのシール貼りなんですけど…」
「できたのか」
「いえ、それがその…、生島さんが絵を上下逆に貼ってしまって…」
「ええー?なんなんだよ、アイツは。全く。シール貼りすら満足にできないのかっ。仕方ないな。まぁ、貼り直せばいいさ」
「え?そんな事ができるんですか?」
小さなシールならまだしも、大きな面積だ。売り物なのに大丈夫なのかと柊子の心は不安で満たされている。
「ノリを溶かして跡も残らない液体があるんだよ。それを使えば綺麗に剥がせるから、また新しいシールを貼ればいいさ。それで、何冊失敗したんだ?」
「それが、九十冊くらいで…」
「なんだってぇ!?」
穏やかでにこやかだった柿原の顔が、急に怒りに満ちた顔に変化した。