第18話
文字数 1,571文字
「ねぇ…。目の下にクマができてない?大丈夫?」
休憩室で、中村広子に指摘された。
仲良くしているパートのおばさんだ。
「え?クマ?」
言われて慌ててミニミラーを出して確認すると、確かに目の下が薄っすらと黒っぽくなっている。朝メイクをしている時には気づかなかった。
「あ…」
ちょっとショックだ。
そう言えば朝の体操の後で、近くにいた同僚の木下に言われた。
「新婚さんだけに、毎晩大変そうだね」
下卑た笑みを含んだ顔で、全くもって発想がサイテーだと思ったが、そう言わせた原因はこの顔だったのか。
「新婚さんなのに、なんか幸せそうに見えないよね」
隣にいた樫原秋穂が口を挟んできた。
柊子の口から思わずため息が漏れる。確かに幸せとは言い難い。
「まぁ、こんなところで話す事でもないから、良かったら就業後にご飯でも行こうよ。…中村さんも良かったら…」
中村は主婦なので帰るのも早いし、家の事があるだろうと思ったが、「勿論」と返事がきた。
「私は上がるのが早いから、先に帰って家族のご飯の支度をしてから合流するね」
この人が一緒なのは有難い。気さくで優しい女性で、柊子にとっては自分の母親以上に頼れると思っている。
就業後、三人は駅の近くにあるお酒も美味しい食事処に入った。
「ちょっとは飲もうか」
秋穂がビールを頼んだので、柊子はハイボールを頼んだ。広子はチューハイだ。
「よく分からないけど、取りあえずカンパーイ」
久しぶりに飲むアルコールが体に沁みる。
引っ越してからアルコールの類はずっと飲んでいなかった。
「あ~、なんか久しぶりだなー。この解放された感じは」
柊子は料理に箸をつけながら、ぼやくように言った。
「結婚したんだもんね。主婦だよ、主婦!」
そう言う秋穂だって主婦だし、中村だって同じだ。
「主婦、主婦って連呼しなくても。秋ちゃんだって主婦じゃない」
「そうよ、主婦よ。だから分かるでしょ?その立場がいかに窮屈かって」
確かに、この二人と夜の食事や飲みに出かける事は少ない。
二人とも配偶者に理解があるようだが、それでも時々ある部署の飲み会に参加はするが、個人的な付き合いは少なかった。
理解があっても、気楽に出歩けないのかもしれない。
「そうね。秋穂ちゃんの所は、お子さんがまだ小さいから余計よね。うちは、娘はもう高校生だし、主人も帰りは遅い方だから比較的自由よ。バレーボールもやってるしね」
「今日は、練習は大丈夫だったんですか?」
「今日はお休みなの。だからラッキーだったわ」
中村はママさんバレーを長い事やっている。元々選手だったわけではなく、結婚してから近所の主婦に誘われて参加するようになったらしい。
いつもイキイキとしていて、生命力に溢れている印象だ。
夫は関白タイプで、上げ膳据え膳なんだそうだが、そういう夫を持っても苦にするどころか、楽しんでいるきらいがある。
秋穂の方は社内恋愛の末の結婚で、確か今年で五年目の筈だ。
夫の樫原の方は違う部署に異動になった。
二歳と四歳になる娘がいて、仕事をしながら子育てを楽しんでいる。子どもとの時間を多く持ちたいが為に準社員になったのだった。
生き方は人それぞれだから、当人が良ければ問題はない。
仕事をしながら家庭を大事にしている二人を見ていると尊敬の念が湧いてくるが、柊子はキャリア志向であるだけに、やっぱり結婚は向いて無さそうだと常々思っていたのだった。
「それでさ。なんでクマなんて作ってるの?この間の生島の件は災難だったよね。あの子にはほんと辟易とすると言うか、やんなるよね。でも、クマの原因はそれだけじゃないんでしょ?」
「うん、まぁ、ね…」
生島の件は本当に大打撃だった。だが、受けたダメージの強さは、やはりベースに慢性的なストレスがあったからだと思う。
そしてそのストレスの原因は貴景だろう。
休憩室で、中村広子に指摘された。
仲良くしているパートのおばさんだ。
「え?クマ?」
言われて慌ててミニミラーを出して確認すると、確かに目の下が薄っすらと黒っぽくなっている。朝メイクをしている時には気づかなかった。
「あ…」
ちょっとショックだ。
そう言えば朝の体操の後で、近くにいた同僚の木下に言われた。
「新婚さんだけに、毎晩大変そうだね」
下卑た笑みを含んだ顔で、全くもって発想がサイテーだと思ったが、そう言わせた原因はこの顔だったのか。
「新婚さんなのに、なんか幸せそうに見えないよね」
隣にいた樫原秋穂が口を挟んできた。
柊子の口から思わずため息が漏れる。確かに幸せとは言い難い。
「まぁ、こんなところで話す事でもないから、良かったら就業後にご飯でも行こうよ。…中村さんも良かったら…」
中村は主婦なので帰るのも早いし、家の事があるだろうと思ったが、「勿論」と返事がきた。
「私は上がるのが早いから、先に帰って家族のご飯の支度をしてから合流するね」
この人が一緒なのは有難い。気さくで優しい女性で、柊子にとっては自分の母親以上に頼れると思っている。
就業後、三人は駅の近くにあるお酒も美味しい食事処に入った。
「ちょっとは飲もうか」
秋穂がビールを頼んだので、柊子はハイボールを頼んだ。広子はチューハイだ。
「よく分からないけど、取りあえずカンパーイ」
久しぶりに飲むアルコールが体に沁みる。
引っ越してからアルコールの類はずっと飲んでいなかった。
「あ~、なんか久しぶりだなー。この解放された感じは」
柊子は料理に箸をつけながら、ぼやくように言った。
「結婚したんだもんね。主婦だよ、主婦!」
そう言う秋穂だって主婦だし、中村だって同じだ。
「主婦、主婦って連呼しなくても。秋ちゃんだって主婦じゃない」
「そうよ、主婦よ。だから分かるでしょ?その立場がいかに窮屈かって」
確かに、この二人と夜の食事や飲みに出かける事は少ない。
二人とも配偶者に理解があるようだが、それでも時々ある部署の飲み会に参加はするが、個人的な付き合いは少なかった。
理解があっても、気楽に出歩けないのかもしれない。
「そうね。秋穂ちゃんの所は、お子さんがまだ小さいから余計よね。うちは、娘はもう高校生だし、主人も帰りは遅い方だから比較的自由よ。バレーボールもやってるしね」
「今日は、練習は大丈夫だったんですか?」
「今日はお休みなの。だからラッキーだったわ」
中村はママさんバレーを長い事やっている。元々選手だったわけではなく、結婚してから近所の主婦に誘われて参加するようになったらしい。
いつもイキイキとしていて、生命力に溢れている印象だ。
夫は関白タイプで、上げ膳据え膳なんだそうだが、そういう夫を持っても苦にするどころか、楽しんでいるきらいがある。
秋穂の方は社内恋愛の末の結婚で、確か今年で五年目の筈だ。
夫の樫原の方は違う部署に異動になった。
二歳と四歳になる娘がいて、仕事をしながら子育てを楽しんでいる。子どもとの時間を多く持ちたいが為に準社員になったのだった。
生き方は人それぞれだから、当人が良ければ問題はない。
仕事をしながら家庭を大事にしている二人を見ていると尊敬の念が湧いてくるが、柊子はキャリア志向であるだけに、やっぱり結婚は向いて無さそうだと常々思っていたのだった。
「それでさ。なんでクマなんて作ってるの?この間の生島の件は災難だったよね。あの子にはほんと辟易とすると言うか、やんなるよね。でも、クマの原因はそれだけじゃないんでしょ?」
「うん、まぁ、ね…」
生島の件は本当に大打撃だった。だが、受けたダメージの強さは、やはりベースに慢性的なストレスがあったからだと思う。
そしてそのストレスの原因は貴景だろう。