第20話
文字数 1,064文字
「いやそれは…」
どう返したら良いのか分からないのだろう。二人とも気まずそうに顔をしかめている。
「なんだかなー、って思うでしょ?それに、自分の子でも無いのに、夜中に心配で駆けつけるなんてやっぱり理解できない。だから、どうして?って聞いたら『うるさい』って言われたの。そんな態度をとりながら、翌日は何も無かったように陽気で。そこへもってきての子どもの名前で、私もう、訳が分からないしモヤモヤするばっかりでよく眠れなくなっちゃって…」
どう考えても貴景の言動は理解できない。
「ねぇ…、だけどさ。よくよく考えるとね。恋愛結婚ならまだ、その心配も理解できるんだけどさ。柊子の場合は違うじゃん?お互いに干渉しないって話じゃなかった?」
秋穂の指摘にドキリとした。
「それは、確かにそうだけど、でも入籍したんだから家族だよね。全く干渉しないって言うわけにもいかないんじゃ…」
「どうして?」
問い返されて柊子は言葉に詰まった。
「お互いに、これまでのライフスタイルを崩さず、これまでと同じように生きたい、って所が同じだったから、結婚したんじゃないの?それなら、相手のする事をいちいち気にしてもしょうがないんじゃないのかな」
その通りだから返す言葉も見つからない。
「それって、さ。最近流行りの契約結婚?みたいだよね。結局のところ、そういう事なんでしょう。遠峰さんは、そのつもりなんだと思うよ。だから柊子がいちいち理由を尋ねて来るから、『うるさい』って言っちゃったんじゃない?」
そういう事なのか。
干渉されたくないのに干渉されたから『うるさい』と言われたのか。
そう指摘されてみれば、そういう事なんだと腑に落ちる。
「柊子ちゃんは、どうしてそんなにダンナさんの事が気になるの?」
優しげな声に中村の方へ視線をやると、少し心配げな表情を浮かべている。
「どうしてって…」
改めて理由を聞かれても、明確な答えが浮かんでこない。
「自分が思っていたのと、違った、…とか?」
――ああ、きっとそれだ。
柊子は軽く頷く。
「何て言うか、一般的な夫婦の形を求めてるわけじゃないの…。もっと穏やかで、お互いの仕事を尊重しながら、丁度良い距離感で暮らしていけるんだろう、って思ってた。一緒に過ごす時間を快く感じてたから、そのまま上手く関係を築いていけそうって…。それが、まさか、アシの女性とこんなに親密だとは思わなくて…」
ハイボールのジョッキの取っ手をギュッと握る。
氷の間を昇っていく気泡がやがて消えていくのを見て、自分のモヤモヤもこんな風に消えればいいのにと思った。