第3話
文字数 1,392文字
テレビのコメンテーターや、教育番組のゲストとして出演しているのを時々見かける。
見た目も受け答えもスマートで、容姿も整っているからか女性に人気があるようだ。勿論、その作品も人気が高い。
耽美的な浪漫シリーズが特に人気で、読書家の柊子も彼の作品は殆ど読了済みだ。
現在、三十五歳だと言う。もうそんな年齢なんだ、と驚いた。年齢より若く見える。
整った顔立ちに品のある物腰。柔らかい笑みを含んだような表情。
有名な人気イケメン作家を目の前にして少しの間、硬直した柊子だったが、やがてその不躾な視線にハッと我に返り、不愉快な気配が心の中を漂いだした。
紹介者の店長が、遠峰の事をあれこれと喋っているその隣で、当人は柊子の事を舐め回すように観察していた。そんな相手と目を合わすのが躊躇われ、柊子はピントを合わせないようにしてボンヤリとした視界の中でやり過ごしていたが、何とも居たたまれない気分だ。
唯一の救いは椅子だ。あの椅子でなければ、何かしらの理由をつけて早々に退散していたかもしれない。
美しい水辺で遠峰が立ち止まった。綺麗な背中がくるりと翻り、柔らかな微笑を湛えたような優しげな顔がこちらを向いた。
ドキリと胸が高鳴った。こんな整った顔だちと遭遇する事は儘 ない。
だが――。
顔だちも佇まいも上品なのに、その視線が柊子の頭頂からつま先までをジロジロと舐め回し始めた。
何度も何度も視線が上下する。
(一体、なんなの?この人は)
相手の姿が気になるのは理解できる。それはこちらも同じだ。だが、相手に失礼にならないよう、それとなく視線を飛ばすものではないのか。
一回や二回程度でも、上から下までジロジロ見られるのは愉快ではない。それが何度も何度も全身に視線を這わされると、不愉快を通り越して不気味で気持ちが悪くなってくる。
もしかして、今日の服装や髪型が場にそぐわないと思っているのか…。
そんな思いが湧いてきて、柊子は池に映った自分の姿を確認したが別段おかしいようには思えなかった。
「どうしたんですか?池に何か面白い生き物でも見えましたか?」
訳が分からず頭を僅かに傾げた時に、遠峰が問いかけてきた。
「え?いいえ…」
遠峰を振り返ると、その視線は相変わらず上下に動いている。
「あのっ!」
たまらなくなった。言わずにはいられないほど心が波立っている。
「どうしてそんなにジロジロ見るんですか?」
口調も表情も僅かに批難めいてしまっていた。
「あ、えっ?そんなつもりはなかったんですが、つい気になって…」
柊子の様子に戸惑っているようだ。だが戸惑っているのはこちらの方だと柊子は少し強気になる。
「つい気になって、って、何がですか?そんなにジロジロ見るほど気になる事って、なんなんでしょう」
「あー、えーと……」
遠峰は視線を池の水面へ移すと、口元をキュッと結んで考えるような表情になった。柊子はそんな彼を黙って見つめる。今度は柊子の番だ。仕返しするように、全身を眺めまわした。
こうして見ると、矢張りイイ男だ。
細面でスッキリと切れ長の眼に、濃さも太さも長さも形も申し分なく整った眉。鼻すじが通った高めの鼻は横から見ると更に美しさが増す。口元も上品だ。顔もスタイルも佇まいも、全てが柊子の好みだった。
こんなに魅力的な三十代の人気作家が、なぜ見合いなのだろう。
ふと、そんな疑問が湧き上がってきた。
見た目も受け答えもスマートで、容姿も整っているからか女性に人気があるようだ。勿論、その作品も人気が高い。
耽美的な浪漫シリーズが特に人気で、読書家の柊子も彼の作品は殆ど読了済みだ。
現在、三十五歳だと言う。もうそんな年齢なんだ、と驚いた。年齢より若く見える。
整った顔立ちに品のある物腰。柔らかい笑みを含んだような表情。
有名な人気イケメン作家を目の前にして少しの間、硬直した柊子だったが、やがてその不躾な視線にハッと我に返り、不愉快な気配が心の中を漂いだした。
紹介者の店長が、遠峰の事をあれこれと喋っているその隣で、当人は柊子の事を舐め回すように観察していた。そんな相手と目を合わすのが躊躇われ、柊子はピントを合わせないようにしてボンヤリとした視界の中でやり過ごしていたが、何とも居たたまれない気分だ。
唯一の救いは椅子だ。あの椅子でなければ、何かしらの理由をつけて早々に退散していたかもしれない。
美しい水辺で遠峰が立ち止まった。綺麗な背中がくるりと翻り、柔らかな微笑を湛えたような優しげな顔がこちらを向いた。
ドキリと胸が高鳴った。こんな整った顔だちと遭遇する事は
だが――。
顔だちも佇まいも上品なのに、その視線が柊子の頭頂からつま先までをジロジロと舐め回し始めた。
何度も何度も視線が上下する。
(一体、なんなの?この人は)
相手の姿が気になるのは理解できる。それはこちらも同じだ。だが、相手に失礼にならないよう、それとなく視線を飛ばすものではないのか。
一回や二回程度でも、上から下までジロジロ見られるのは愉快ではない。それが何度も何度も全身に視線を這わされると、不愉快を通り越して不気味で気持ちが悪くなってくる。
もしかして、今日の服装や髪型が場にそぐわないと思っているのか…。
そんな思いが湧いてきて、柊子は池に映った自分の姿を確認したが別段おかしいようには思えなかった。
「どうしたんですか?池に何か面白い生き物でも見えましたか?」
訳が分からず頭を僅かに傾げた時に、遠峰が問いかけてきた。
「え?いいえ…」
遠峰を振り返ると、その視線は相変わらず上下に動いている。
「あのっ!」
たまらなくなった。言わずにはいられないほど心が波立っている。
「どうしてそんなにジロジロ見るんですか?」
口調も表情も僅かに批難めいてしまっていた。
「あ、えっ?そんなつもりはなかったんですが、つい気になって…」
柊子の様子に戸惑っているようだ。だが戸惑っているのはこちらの方だと柊子は少し強気になる。
「つい気になって、って、何がですか?そんなにジロジロ見るほど気になる事って、なんなんでしょう」
「あー、えーと……」
遠峰は視線を池の水面へ移すと、口元をキュッと結んで考えるような表情になった。柊子はそんな彼を黙って見つめる。今度は柊子の番だ。仕返しするように、全身を眺めまわした。
こうして見ると、矢張りイイ男だ。
細面でスッキリと切れ長の眼に、濃さも太さも長さも形も申し分なく整った眉。鼻すじが通った高めの鼻は横から見ると更に美しさが増す。口元も上品だ。顔もスタイルも佇まいも、全てが柊子の好みだった。
こんなに魅力的な三十代の人気作家が、なぜ見合いなのだろう。
ふと、そんな疑問が湧き上がってきた。