10節
文字数 2,709文字
セミナーを終えビルの外に出たデネボラ。外では万が一の為に待機していたスピカとビエラが待っていた。
合流後、揃ってデネボラの店に移動する。
そこでデネボラから報告を受けたスピカは、そのあまりの悪趣味さに絶句した。
初めに贅沢を体験させ、誰もが持つ醜く卑しい心を刺激する。
そして、肥大化し抑えきれなくなった欲望で悶える者に囁く。満たされたければ奪い取れと。
ストロンガーセミナーが生み出すのは強者などではない。
抵抗する力の無い者を狙い、騙し搾取する。悪の世界の中でも下の下の存在。
詐欺師養成所だったのだ!
「言ってる事も巧みね。
心の弱いところ、みぞおちを突くような言葉選びは、やり手と認めるしかないわ。」
「だけど、アルファルドが自分で考えて喋ってる感じはしなかった……
台本通りっていうか、受け売りの言葉を真似してるだけって感じ?」
「実際その通りでしょうね。
司祭長から聞いた印象だと、弁が立つタイプに思えなかったし。」
恐らくアルファルドもかつて同じ様な講義を受けたのだろう。
そして完全に倫理観を壊され、今は講師側に立って壊す側になっている。
詐欺師がねずみ算式に増えているという訳だ。
アルファルドの様な下っ端を捕える事は簡単。
だがそれでは意味が無い。敵が増える速度の方が圧倒的に上だからだ。
この流れを止めるにはやはり全ての元凶、ストロンガーセミナーの根幹に居る男。マルフィクを倒さなければ!!
「でも囮作戦は失敗ね……
他人からお金を騙し取るなんて、いくらフリでもできないもの。
何か別の作戦を考えないと……」
「その必要はないよ……
私も売ったから、100万ゴールドで……」
「(゜ロ゜) ナンデスト⁉︎」
なんとデネボラは、あの実技講習をクリアしていた。
それも他の受講者よりも遥かに大金である、100万ゴールドもの大金で偽薬を売ったのだ!
「流石に100万も出せないって相手は怒ってたけど、煽てたりして機嫌取ったら上手く行ったよ。
接客の仕事を沢山してきたお陰……なんて言ったら、接客業の人に失礼か?
アハハ……」
「アハハじゃないわよ!
何でそんな事……!?」
「こんなセミナー、1日も早く潰さなきゃって思ったの!
奪われる人もそうだけど、奪ってる側の人も可哀想過ぎる……
だって、みんな目がおかしかったもん……」
ここで自分が諦めたらマルフィクから遠ざかってしまう。
そうなれば、それだけ解決が遅れ被害者も加害者も増える。
最も早く解決する方法が囮作戦だとしたら……
誰かが手を汚さなければならないのなら……
やるしかないと思った。デネボラはその覚悟ができる人間だ。
「安心してよ!
お金は後でバレない様にちゃんと返したから!」
「そう……
あれ?でも売上金の半分はセミナーに取られたのよね?
その分はどうしたの?」
「小切手で渡した。私の貯金から引き出せるやつ。
正直50万の出費はイタいけど……」
「そこまでして……
でもどうして100万も?他の人と同じ30万でよかったのに。」
「実はあの時、ある要求を出したの。」
〜〜〜〜〜
「アルファルドさん、やる前に1つ約束して下さい。」
「あ?」
「もし30万以上のお金で売れたら、私に紹介して下さい。
マルフィクさんって人を。」
「なに!?」
「私、チマチマ稼ぎたくないんです。
マルフィクさんに会えれば、もっと手軽にもっと稼げる方法を教えて貰えるんでしょ?
アルファルドさんがそうだったみたいに。」
「…………
わかった。話ぐらいは通してやる。
但しそこまでいうなら、最低でも100万で売って見せろ!!」
〜〜〜〜〜
この時の約束通り、デネボラは100万で偽薬を売った。
今頃、アルファルドがマルフィクに報告しているはずだ。デネボラの存在を。
早ければ今日中にでも……
[ジリリリッ……!!]
店の電話が鳴った!連絡先としてアルファルドに番号を教えた電話が!
フ〜と息を吐いて準備を整えたデネボラは、静かに受話器を取り上げた。
「もしもし。」
[オレだ。アルファルドだ。
例の件、マルフィクさんに伝えたぞ。]
「どうですか?会ってくれますか?」
[喜べ!お前の事を教えたら、随分興味を持ってたぜ!
それで、お前を明日の”勝ち組パーティ”に招待するってよ!」
勝ち組パーティとはセミナーの優秀な受講者だけが集まる月に一度の集会。
主催者はマルフィクで誰を招待するかも奴自身が決める。
当然パーティにはマルフィクも参加する。奴に直接会える唯一と言っていい機会だ。
[普通は1日しか受講してない奴が来ていいパーティじゃないんだが、今回だけ特別だ。
ただしタダでは参加できない。参加料は払え。]
「いくらですか?」
[300万だ。]
「さ、300……!?」
[急なブッキングだから余裕が無い。
17時まではセミナー会場で待っててやるから、それまでに金を持って来い。]
「そんな!?急に言われても……!?」
[言っておくがマルフィクさんは時間にメチャクチャ厳しい!
少しでも遅れれば、この話は無しだ!!」
アルファルドは用件を言い終えると、デネボラの返事を待たずに電話切った。
彼女から電話の内容を聴いたスピカは思わず驚愕する。
「参加料300万って、どんなパーティよ!?」
「電話掛け直してみる!
いきなり300万なんて用意できないもん!」
再び電話に手を掛けたデネボラだったが、スピカが待ったと制止する。
ここで下手にゴネれば、せっかくのチャンスを棒に振ってしまいかねないからだ。
しかし300万なんて大金、デネボラには払えないのも事実。
今16時過ぎ。期限まで後1時間も無い。
ここまで来て手詰まりか……!?
いや!まだ手はあるッ!
スピカは決意を言葉に変える!!
「私が出すわ!
デネボラ店長だって自腹切ったんだから、私にだってやらせて!」
「でも……出せるの?」
「バカにしないで!!
これでも大人なんだから、いざと言う時の為の貯金はあるわ!
(ほぼ全財産だけど……)」
お金は使って初めて価値がある!
今使わなければ、いつ使うと言うのか!?
そんな言葉を自分に言い聞かすスピカ。
震える手で、今まで書いた事がない300万の小切手を用意する。
それをデネボラに託す。
小切手とスピカの覚悟を受け取ったデネボラは、アルファルドの元に駆け戻った。
30分後、デネボラが帰って来た。
その手には1枚のパーティ招待状が握られていた。
いよいよ敵の本丸、マルフィクとの対面だ!
スピカは今まで以上の気迫で、必ず捕まえると決心する!
「絶対取り返すッ!私のお金ッ!!」
「(゚Д゚|||) コ,コワイ…」