1節
文字数 1,716文字
「はいよ!ビエラちゃん!
メモに書いてあった物、コレで全部だよ。」
「(^―^) アリガト♪」
この日、ビエラはおつかいで外に出ていた。
それも”1人で”である。
ビエラを1人で街に出すのはいろんな意味で危険。そう思い、今までおつかいはおろか1人で外に出す事も一度として無かった。
しかしレグルスと共に生活をする様になってから数週間後、ずっとスピカと一緒のビエラを見て彼が提言した。
『一緒に居過ぎではないか』と。
まだまだ子供とは言えビエラぐらいの歳(7歳ぐらい)になれば、そろそろ1人で行動する事も覚えなければいけない。
と言う事で、手始めに近所へのおつかいを頼む事になった。
ビエラは喋れないというハンデこそあるが、そこを除けばかなり賢い方。
初めこそ心配で仕方なかったスピカだが、おつかいは道に迷うことも無く難なく果たされた。
問題無いと分かれば、誰だろうと利用する事に遠慮するスピカではない。以降、時折ビエラにおつかいを頼む様になったのだ。
「♪(・ω・`*))))) トコトコ」
今回も無事、頼まれた物を買い終えたビエラ。一直線にスピカの待つ教会へと向かう。
……かと思いきや、最短ルートを逸れ右へ左へと寄り道を始めた。
オモチャ屋を覗いたり、道端の花を観察したり、野良猫を追いかけたり。
何度かおつかいを経験して余裕が出たビエラの、スピカも知らない密かな遊びだ。
小さな冒険の途中、いつも遊んでいる公園に差し掛かる。
その時だった。
[キュルル……]
「( ºωº )‼︎」
微かに動物の鳴き音の様な音が聞こえた。だが普段聞く犬や猫、鳥などとは違う。初めて聞く音だ。
なんだろう?足を止め、暫し耳を澄ましてみる。
[キュル……キュルルルル……]
公園の方から聞こえる。
一度気になったら好奇心が強いビエラには無視する事などできない。 不定期に聞こえる音を辿って公園の中を捜索する。
音が最も大きく聞こえる位置を見つけた。
目の前にあるのは植え込みに生えた1本の木。そこでまた耳を済ます。
[キュルル……ッ!]
上だ!
ビエラはジッと頭上を見つめる。
枝と枝の隙間、風にそよぐ葉の中で何かが動いた!
そう気付いた瞬間だった……!?
[ブワ……ッ!!]
「Σ(๑0ω0๑)ッ‼︎?」
上空から何かが顔面向かって飛び掛かって来た!
咄嗟のことで逃げることもできないまま、それは顔に張り付いた。
ビエラは驚き後退る脚を絡ませて尻餅をつく。
モフモフと毛が生えた何か。
前が見えないビエラにはそれしかわからない。
正体不明の何かを素手で掴むなんて怖過ぎる!
ならば振り払うしかない。力一杯頭を左右に振り乱す。
すると、遠心力に負けたそれが顔から剥がれた。
視界が開放され、ビエラが初めてその正体を視界に捉える。
地面に転げ落ちたのはリスの様な小動物だった。
体長は尻尾を含めても20センチ程度。
見えなかったさっきまでは恐ろしかったが、正体がわかればなんて事はない。怖いどころか、とても愛らしいではないか。
不思議と逃げない小動物。恐れが興味に変わったビエラは、ゆっくりと手を伸ばす。
指先で頭を撫でようとしたその時、小動物はピョンと跳ねビエラの手に飛び乗った。
「(*゚Д゚*) キャワワ‼︎」
小動物は器用にビエラの腕を伝い肩へ移動。そして肩から頭に飛び移る。
爪が若干痛いものの、懐っこく擦り寄って来るのが可愛くて全然気にならない。
ビエラが完全に惚けていた、その時だった。
[カプッッ‼︎]
「(๏Д⊙`) ウギャーーーッッ!?!?」
なんと小動物はビエラ最大の弱点(というか敏感な所)であるアホ毛に噛み付いた!
噛み付いたと言っても甘噛み。それほど痛くない。痛くは無いが……
イヤッ!!アホ毛に引っ付かれるのはッ!!
耳の中に虫が入って来るぐらい、ビエラにとっては気持ち悪いッ!!
パニックに陥るビエラ。
頭に手をやるが、すばしっこい上視界の外なので全然捕まらない。
ブンブンと頭を振っても、今度はガッシリ4本脚でアホ毛に捕まっているので全然落ちない!
助けて……ッッ!!!
その一心でビエラは一目散に駆け出した。