6節
文字数 2,461文字
「どうです、サビクさん?ウチの新作は。
お気に入りは見つかりましたか?」
「ふん……
どれもなかなかエエのう……」
煌びやかで広大な、このホテルでナンバーワンのスイートルーム。その中央で5人の美女がまるで商品の様に、セクシーな下着姿で立たされている。
新作下着の品評、という名目で舐め回す様に視姦する大男サビク。女性の肩や腰、髪や顔をベタベタと触り手繰る。
サビクが1人の女性に狙いを定めた。
引き攣る女性の顔をまるで楽しむかのように見つめながら、その薄汚い指を身体のラインに沿わせながらゆっくりと肩から下へと降ろして行く。
その指が遂に秘部へと至ろうとした時、女性は耐え切れず悲鳴を上げながら男の頬を叩いてしまった。
サビクは恐怖で硬直する女性を見てニヤけ顔を晒す。
ちょうどその時だった。
「兄貴、持って来ました!」
ホテル前に停めている車へアタッシュケースを撮りに行っていた2人が部屋に戻って来た。
ケースが机の上に置かれるとサビクが早速中身を取り出す。
ケースの中に入っていたのは小さなガラス瓶。中に無色の液体が入っている。
そしてもうひとつ。注射器だ。
身を寄せ合って震える女性達にサビクは説明する。
「安心せぇ、毒やない。
寧ろ、気持ち良ぉなれるエエ薬や。
これ打つとイッた時の感覚がず〜っと続いてな、全身ビクビクしっぱなしになるねん。
ま、多少の副作用はあるが、若けりゃ死にやせん。」
薬液を仕込んだ注射器を片手に、サビクは自分をビンタした女性に迫りその腕を強引に掴む。
「これ打った女は最高やねん。痙攣する動きがエエ塩梅の刺激になってのぉ。
今日はお前に付き合うてもらおうか!」
「ヒィ……ッッ!!?」
「他はお前らで食べてエエぞ!」
「ぃヨッシャー!!」「ゴチになりやすッ!!」
悲鳴を上げ逃げ惑う女性達を男共が次々捕まえて行く。
狂気の宴が始まろうとした、その時だった。
[バンッ!!!]
部屋の扉が勢い良く開け放たれた。
現れたのは目を鋭く尖らせるリゲルだった。
「お前は警護の!?
誰が入って来て良いと言ったッ!!さっさと出て行け!」
「無駄っぽいで、キタルファはん。
あの顔、全部分かった上で来たみたいや。」
サビクがリゲルの前に立つ。並ぶと2人の体格差が余計によく分かる。
頭1つ分以上背の低いリゲルを見下しながらサビクが圧を掛ける。
「警察は呼んだ。大人しくしろ。
……とでも言う気か、兄ちゃん?
生憎やが警察には知り合いがぎょうさんおってな。ちょいと頼めば目ぇ瞑ってもらうぐらい簡単……」
「そんなもの必要無い。
大人しく彼女達を解放しないなら、私が相手になる。」
「なんやて?
……ハハハッ!コイツはホンマもんのアホや!!」
男達が一斉に高笑いする。
たった1人で乗り込んで来て何ができると言うのか?多勢に無勢である事以前に、サビク1人にすらまるで歯が立ちそうにないクセに。
「相手になるってのはあれか?お前が代わりにオモチャになるいう意味か?
エエやろ!
綺麗な顔しとるし、久しぶりに男で遊んでみとうなったわ!」
サビクの大きな手がリゲルの胸ぐらに向かって伸びる。
が、リゲルは目にも止まらぬ早業でその腕を捻った!
あらぬ方向に曲げられた関節に走る激痛。サビクは思わず片膝を突く。
振り解こうとするが力が上手く入らない。大木の様に太いサビクの腕が、リゲルの細腕にいとも簡単に押さえ付けられている。
「見た目で私を侮ってるなら考え直した方がいい。
力や体格差を覆す戦い方なんて今の時代幾らでもある。
こんな風に……」
ゴキッ!という音と共にサビクが叫び声を上げた。
リゲルが手を離すと、太腕が力無くダラリと床に垂れる。
「腕を折るのは大変だが、関節を外すだけなら大した力は要らない。」
「き さ まァ……ッ!!
何しとんじゃグズ共!コイツをいてもうたれッ!!」
子分達が一斉に懐のナイフを手に取る。しかし、その刃が抜かれるよりも早くリゲルは腰のピストルを構え引き金を引く。
麻酔針が刺さり1人が昏倒。動揺で僅かに動きが止まった隙を突き、今度は剣で後頭部に一撃。更に1人を片付ける。
しかし残った2人が挟み撃ちで迫る!
リゲルは近くにあったイスを蹴り飛ばし1人を足止め。もう一方の攻撃は躱すと同時に足を引っ掛け転倒させる。
倒れている間にピストルに弾を込め直し2発目。3人目を沈黙。
突っ込んで来た最後の1人を軽くいなし、剣でナイフを弾いてから床に押さえつけ3発目を発泡。
あっという間に4人全員を無力化した。
「調子に乗んなやァァーーッ!!」
サビクが片腕でテーブルを持ち上げ投げ付けて来た。
紙一重でそれを避けるリゲル。しかし、避けた瞬間を狙いサビクが巨体で体当たりする。
車並みの衝撃で壁に叩き付けられるリゲル。
痛みに耐え立ち上がろうとしたところを、サビクに首を掴まれ身体ごと持ち上げられる。
「締め殺したらぁ!」
「グゥ……ッッ!!」
どんでもない怪力。片手にも関わらずいくらもがいてもビクともしない。
剣もピストルも体当たりされた時に手放してしまった。万事休すか!?
いや!リゲルはテーブルと共に飛んで来たある物を咄嗟に拾っていた。
それをサビクの腕に突き刺す!
「注射器(ポンプ)!?コイツいつの間に!?」
中の薬の効果はさっき自分で説明していた通り。サビクは慌ててリゲルを手離し注射器を口で咥えて引き抜く。
その隙にリゲルはすかさず背後を取り、ガッチリ首をロックして締め上げる!
形勢逆転!気道を潰し呼吸を断つ!
しかし苦しみながらもサビクは大暴れ。背中のリゲルを自分ごと何度も壁に叩き付ける!
リゲルも離すまいと必死にしがみ付く!
互いに死力を振り絞った攻防の末、遂に……!!
「グギギィッ……、ガハッ……!!」
泡を吹きながらサビクの巨体が地に伏した。
数、体格、装備。あらゆる面での不利を覆し、リゲルは見事勝利を収めたのだった。
「ハァ……ハァ………
これでも騎士団長なんだ……
舐めるなよ!!」