4節

文字数 1,521文字

 声は聞こえるが姿は見えない。でも確実にスピカ達を何処からか見ている。
 スピカは声を張り魔女に話し掛ける。

「近くの農園の代表として来ました!
 姿を見せて話をさせて下さい!」

 スピカの問いかけに対して大きな笑い声が返ってくる。話をする気などないという意思表示だと受け取って間違いない。
 それならばこちらから勝手に会いに行くだけ。臆せずエントランス中央の一番大きなドアを開く。

 が、その先はいくつもの巨大な岩で埋め尽くされているだけだった。
 こんな足の踏み場も無い場所に居る訳ない。諦めて回れ右した時、背後からガタッと物音がした。

 もしかして誰か居るのだろうか?もっとよく調べてみよう。
 入り口を塞ぐ岩を乗り越えよう足を乗せる。すると突然、岩が一斉に激しく震え出す。

「なにこれ……!?
 勝手に動いてる!?」

 岩はまるで意志を持っているかのように1人でに動き出し、組み合わさって人型を形造った。窮屈そうにドアを潜りエントランスに出て来ると2本足で直立する。



 大きい。4メートルは優に超えている。
 その余りの大きさは1階にいながら頭が2階の天井に付きそうな程だ。

「ハハ……
 こんな大きい人形が動く訳ないし、どうせまた幻覚でしょ!
 ですよね、ビエラ様?」

 ビエラを見るとアホ毛をプルプルと震えさせながら、目を見開いて硬直していた。
 ビエラにも同じ物が見えている。つまりこれは……幻覚ではない!

「はえ〜、魔女ってこんなこともできるんですねぇ〜

 …………

 逃げるッ!!」

 近くにあった別のドアを開け、そこに逃げ込む。
 小さな窓が一つあるだけの小部屋。物置部屋だろうか。

 あの大きさならこの小さなドアは絶対に通れない。これで一先ずは安心……
 とはいかず、人形は長い腕を伸ばし侵入してきた!

 慌てて部屋の一番奥まで逃げ、壁に出来るだけ引っ付く。
 人形の手が眼前まで迫って来たが、ギリギリ部屋の一番奥までは手が届いていない。
 だが岩人形は簡単には諦めず、目一杯入り口に体を押し付ける。その圧力で部屋全体が軋む。これでは壁を壊して入って来るのも時間の問題だ。

 ビエラは大丈夫か!?
 そう思ってビエラを見ると、余りの恐怖に今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 泣く。という事は……
 また”アレ”が起きる!?

(やった!これで勝てる!
 相手は人形、構わずやっつけちゃって下さい!!)

 射した希望に笑みが零れるスピカ。
 だがこの時、ビエラは思い出した。以前転んで泣きそうになった時、スピカが言っていた言葉を。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「いいですかビエラ様。
 今の時代、女でも強くなきゃ生きていけません。
 いえ、寧ろ女だからこそ弱いと思われちゃダメなんです!

 だから簡単に涙を見せちゃいけませんよ!!」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ビエラは鼻水を啜り、溢れそうだった涙を拭った。そして……

「(・`ω´・ )キリッ!!」
「た、耐えた!偉いッ!!
 ……いや偉くない!今は泣いて良いんですよ!」

 その時、遂に入り口の壁が崩れた!
 人形が四つん這いになりながら入ってくる!

「仕方ない……ッ!!
 ビエラ様!あの窓から外に出すので逃げて下さいッ!!」

 スピカはビエラを抱え上げ、押し込む様にして窓から外に放り出す。
 その直後、スピカは人形に掴まれ片手で軽々と持ち上げられる。人形は口元にスピカを近付けながら大きく口を開く。

 食べられるかと思いきや人形は口の前で手を止めた。すると口からガスの様なものを吹き出した。
 いきなりの事に息を止めるのが間に合わず、スピカはそれを直に吸い込んでしまう。直後、強烈な睡魔に襲われる。

(お願いビエラ様……
 どうか無事でいて………)

 そう願いながらスピカは意識を失った。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

名前:スピカ=ウィルゴ

性別:女

年齢:27

身長:162センチ

この物語の主人公。

基本は優しい心の持ち主だが平和主義者というわけではなく、必要とあれば荒事も辞さない。

有り過ぎる行動力と小賢しい悪知恵が働く以外はごくごく普通の一般人。

名前:ビエラ

性別:女

年齢:?(見た目は7歳くらい)

身長:117センチ

準主人公。

何故か一切声を出すことが出来ない。その代わりなのか感情に合わせて動きを変える、アホ毛の様なもの(触覚?)が頭頂部から生えている。

性格は奔放で好奇心旺盛。なのにビビり。

名前:アクルックス=クルス

性別:男

年齢:30

身長:188センチ

第2章のキーパーソン。

大柄で逞しい体躯を持ち、素行には大人の落ち着きがある。愛娘が一人いて、名前は”ミモザ”。

彼と知り合ったことをきっかけに、スピカ達はとある猟奇事件に巻き込まれる。(2章へ続く)

名前:アークトゥルス=ボーティス

性別:女

年齢:18歳

身長:155センチ

第3章のキーパーソン。

やや素直さに欠けるが根は真面目で勤勉。このお話では貴重な十代女子。

農夫達からの依頼で農作物を荒らす魔女の解決に乗り出したスピカ。その正体がなんと彼女だった。(3章へ続く)

名前:アルタイル=アクィラ

性別:男

年齢:51歳

身長:175センチ

第4章のキーパーソン。

宇宙や世界の真理を探究する高明な学者。『三賢人』と呼ばれる3人の天才の一人。

彼がビエラに関する情報を持っていると聞いたスピカは、彼の働く学術院を訪れるが…(4章へ続く)

名前:カノープス=カリーナ

性別:女

年齢:28歳

身長:161センチ

第5章~第6章のキーパーソン。

おっぱい担当兼、物語の核心に絡む角の生えた美女。しっかり者だが若干天然が入っている。

ビエラと関係があるかもしれない謎の飛来物の調査に来たスピカ一行。そこで偶然彼女と出くわす。(5章へ続く)

名前:リゲル=オリオン

性別:男

年齢:28歳

身長:176センチ

第7章のキーパーソン。

女と見紛うレベルの超美形。それでいて中身も聖人君子の出木杉君タイプ。

仕事でとある人物の護衛の任についていた彼は、その過程で思いがけず"裏の人間"と邂逅する。(7章へ続く)

名前:デネブ=シグナス

性別:男

年齢:50歳

身長:168センチ

第8章のキーパーソン。

数々の名品を生み出してきた機工技師。アルタイルと並ぶ『三賢人』の一人。

彼、強いては彼が代表を務める工房の力が必要になったスピカ。しかしその工房はある男に乗っ取られていた。(8章へ続く)

名前:花圃の魔女(本名不明)

性別:女

年齢:23歳

身長:159センチ

第9章のキーパーソン。

アークトゥルスの元仲間。手下を従えて群れるのが好きなお局気質の女性。

平和に暮らしていたアークの元に突然現れた彼女は、魔女である者は決して逃れられない"悲運"を告げる。(9章へ続く)

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み