9節

文字数 1,987文字

——翌日、農園区の外れ——

「本当なのか!?その話!?」
「たぶんな……」

 カノーから聴いた1000年前の出来事。
 アークはそれを自分と同じ魔人であるアルクに伝えた。
 衝撃の事実に流石のアルクも驚きを隠せなかった。

「アビィが急に吸血し始めた理由も、鉄巨人の再臨が近いから力を溜めようとしていた、という事か……」
「三女の旦那ってお前だったんだな。
 浮気したっていう。」

「浮気じゃなくて、アレは……
 付き合いで仕方なかったというか……」
「へぇ〜(冷たい目)」

「そ、それはそうと!
 あれは何をしてるんだ?」

 アルクが指差す先にはスピカとビエラが居た。
 誰も居ない空き地にアークの人形が1体。それをビエラが険しい顔で睨んでいる。
 側から見れば人形とにらめっこしているようにしか見えないが、もちろん虚しい一人遊びをしている訳ではない。

「さぁ、ビエラ様!
 泣いて下さい!!」
「(つд⊂) エーン」

 ………

「やっぱダメか……」
「(•́ ω •̀)」

 ビエラが泣き出した時、空から降って来る隕石。
 凄まじい速度と破壊力があるアレを意図したタイミングで狙った対象を攻撃できるよう、2人は特訓をしていた。

 と言っても隕石を落とす技なんて過去も現在も、恐らく未来に至っても誰一人できない事。どうやって習得すればいいものか皆目見当が付かない。
 スピカは取り敢えず嘘泣きの練習をさせているが、今のところ何の成果も出ていない。

「う〜ん……
 今度は上目遣いでおねだりしてみますか。」
「誰に甘えるつもりだよ……」

「それはもちろん宇宙に居る巨人によ!」

 落ちて来る隕石は遥か頭上、空を超えた先の宇宙にいる謎の巨人が発射しているものだということは、以前アルタイルに教えてもらい分かっている。
 つまり正確には隕石を降らす技を覚えるというより、巨人をコントロールする術を覚えるといった方が正しい。

「宇宙の巨人ね……」

 何か言うのを躊躇っている様子のアーク。
 はっきりと口にはしなかったが、何を思っているのかは大体想像できる。
 1000年前にやって来た鉄巨人。それとビエラを守っている巨人は同一なのではと思っているのだろう。

「イコールじゃないとしても、何らかの関連があるのは間違い無……」
「だから!
 ビエラ様は大昔の鉄巨人とは無関係だって何度も言ったでしょ!」
「まぁまぁ、落ち着いてスピカ司祭。」

 言い争っていると、こちらに来る誰かに気付いたビエラがスピカの袖を引く。
 指差す先には意外な組み合わせの2人組が立っていた。

「アルタイル教授!?
 それに……アスピちゃん!?」



 スピカを捜してわざわざ遠い学術区からやって来たと言うアルタイル。結構歩いたようで汗だくで息を切らしている。
 一先ず地面に敷いたシートの上に腰を落ち着かせ、持って来ていたお茶を入れて一息入れてもらう。

「よくここに居るって分かりましたね?」
「彼女に案内して貰ったのですよ。」

 初めはスピカの教会を訪れたものの誰もおらず困っていると、同じ様にスピカに会いに来たアスピとばったり出くわした。
 その彼女が居場所に心当たりがあると言うので一緒にここまで連れて来て貰ったようだ。
 心当たりといってもスピカの場所を知っていた訳ではなく、一緒に居るであろうアークの魔力の気配を辿っただけ。
 今アークはビエラの特訓相手に人形を一体動かしている。その微量の魔力を感知したのだ。
 カノーからアスピは魔力を感知する感覚が鋭いとは聴いていたが、想像よりもずっと鋭敏な様だ。

「あの後大丈夫だった?
 カノーさんと喧嘩になったりとか……」
「そう心配してると思って会いに来たんです。
 安心して下さい。スピカさん達を逃がそうとした事はお咎め無しみたいですから。」

「君がアスピディスケか?」
「はい……
 あなたは……?」

 アスピが初対面のアルクの事を気にしているので、彼がアビィの夫だと伝える。

「この方がお義兄さんですか!?
 は、初めまして!」
「いきなりですまないがアビィは今どうしている?
 腕の方は大丈夫か?」

「あれ?会ってませんか?
 昨日は街の方に行ってたので、お義兄さんに会いに行ったとばかり……」

 コソコソ話していると、一息ついて余裕が出てきたアルタイルが何の話ですか?と尋ねてくる。
 流石に悪魔の家庭事情を話す訳にいかない。笑顔で誤魔化しつつ、アルタイルにも初対面のアルクとアークを紹介する。

「異国の神父さんに、農園区の魔女さんですか。バラエティ豊かですね!
 やはりスピカ司祭に頼むのが正解なようだ!」

 そう言ってアルタイルはスピカを捜していた理由を話し出す。

「実はずっと温めていた”ある計画”があるんですが、諸々の目処が立ったので遂に本格始動させる事になったんです。」
「ある計画?」

「『宇宙船開発計画』です!
 それも無人じゃない。人を生きたまま宇宙に運ぶ乗り物を創るのです!!」
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登場人物紹介

名前:スピカ=ウィルゴ

性別:女

年齢:27

身長:162センチ

この物語の主人公。

基本は優しい心の持ち主だが平和主義者というわけではなく、必要とあれば荒事も辞さない。

有り過ぎる行動力と小賢しい悪知恵が働く以外はごくごく普通の一般人。

名前:ビエラ

性別:女

年齢:?(見た目は7歳くらい)

身長:117センチ

準主人公。

何故か一切声を出すことが出来ない。その代わりなのか感情に合わせて動きを変える、アホ毛の様なもの(触覚?)が頭頂部から生えている。

性格は奔放で好奇心旺盛。なのにビビり。

名前:アクルックス=クルス

性別:男

年齢:30

身長:188センチ

第2章のキーパーソン。

大柄で逞しい体躯を持ち、素行には大人の落ち着きがある。愛娘が一人いて、名前は”ミモザ”。

彼と知り合ったことをきっかけに、スピカ達はとある猟奇事件に巻き込まれる。(2章へ続く)

名前:アークトゥルス=ボーティス

性別:女

年齢:18歳

身長:155センチ

第3章のキーパーソン。

やや素直さに欠けるが根は真面目で勤勉。このお話では貴重な十代女子。

農夫達からの依頼で農作物を荒らす魔女の解決に乗り出したスピカ。その正体がなんと彼女だった。(3章へ続く)

名前:アルタイル=アクィラ

性別:男

年齢:51歳

身長:175センチ

第4章のキーパーソン。

宇宙や世界の真理を探究する高明な学者。『三賢人』と呼ばれる3人の天才の一人。

彼がビエラに関する情報を持っていると聞いたスピカは、彼の働く学術院を訪れるが…(4章へ続く)

名前:カノープス=カリーナ

性別:女

年齢:28歳

身長:161センチ

第5章~第6章のキーパーソン。

おっぱい担当兼、物語の核心に絡む角の生えた美女。しっかり者だが若干天然が入っている。

ビエラと関係があるかもしれない謎の飛来物の調査に来たスピカ一行。そこで偶然彼女と出くわす。(5章へ続く)

名前:リゲル=オリオン

性別:男

年齢:28歳

身長:176センチ

第7章のキーパーソン。

女と見紛うレベルの超美形。それでいて中身も聖人君子の出木杉君タイプ。

仕事でとある人物の護衛の任についていた彼は、その過程で思いがけず"裏の人間"と邂逅する。(7章へ続く)

名前:デネブ=シグナス

性別:男

年齢:50歳

身長:168センチ

第8章のキーパーソン。

数々の名品を生み出してきた機工技師。アルタイルと並ぶ『三賢人』の一人。

彼、強いては彼が代表を務める工房の力が必要になったスピカ。しかしその工房はある男に乗っ取られていた。(8章へ続く)

名前:花圃の魔女(本名不明)

性別:女

年齢:23歳

身長:159センチ

第9章のキーパーソン。

アークトゥルスの元仲間。手下を従えて群れるのが好きなお局気質の女性。

平和に暮らしていたアークの元に突然現れた彼女は、魔女である者は決して逃れられない"悲運"を告げる。(9章へ続く)

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