1節
文字数 998文字
星教発祥の地として誕生したこの国には何の特産品も資源も財産も無かった。あるのはかつて共にあった神への信仰のみ。そんな質素な国だった。
しかしある3人の天才が同時期に現れた事をきっかけにこの国は大きく変貌する。
宇宙学の権威、アルタイル。
機工の匠、デネブ。
稀代の名医、ベガ。
『三賢人』と言われる彼らがもたらした数々の技術や知識は、今までの文明を遥かに凌駕した。
是非この天才達の師事を受けたい。そう考える優秀な人間が国内のみならず国外からも集まり始めた。
人が集まる事で躍進は更に加速。その目覚ましい発展にあやかりたいと近隣諸国からの資金や物資の支援も増えた。
人も物もお金も、何もかもが急速に周り始めた。
たった10年で8つしかなかった街区は今や22にまで増え、人口は4倍に膨れ上がった。
何も無かった宗教国が技術大国へと生まれ変わったのである。
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「というのがこの国の概要です。
分かりましたか、ビエラ様?」
朝ごはんを頬張るビエラに目をやるとニンジンだけを器用に除けていた。毎度の事らしくスピカはやれやれと呆れる。
例え神様でも食べ物を残すのはいけない。スピカは半分だけ食べて上げる事にし、自分とビエラで交互に余ったニンジンを食べる。口に含んだ後、急いで水で流し込む仕草が愛らしい。
ビエラが朝ごはんを食べ終えるのを見届けて、よしっと立ち上がる。
「さっ、お話ししていた通り今日は出掛けますよ。」
向かうのは街の北西にある星教区。スピカが聖職者としてのイロハを学んだ場所にして星教会の総本山だ。
スピカ達が住む第11居住区からはかなり離れている。あまり悠長にしていては約束した時間に間に合わないと、時計を確認しながらビエラを手早く着替えさせる。
星教区へ行く理由はもちろんビエラに関する事だ。
「ビエラ様の事を報告しないと。
神様が私達のために降臨されたって!」
この国が急成長する裏で急速に衰えているものもある。他ならぬ星教だ。
人々は祈りの時間を削って仕事に明け暮れ、子供には星書の代わりに学問書を読ませている。
このままでは星教は完全に忘れ去られ、歴史書でのみ語られるものになってしまう。それは何としても防がないと。
「じゃないと無職になる!
転職は無理!だって何の資格も持ってないから!!」
そんな本心を胸に秘め、スピカはビエラを連れて家を出た。