12節
文字数 2,012文字
囮作戦は振り出しに戻ったどころか継続不可能の完全なる失敗。
あまつさえ300万もの大金を騙し取られた。
今言う事じゃないと分かりつつ、堪らずデネボラは謝罪する。
「私のせいだ!私が出しゃばり過ぎたから……!!
お金は弁償する!お店を畳めばギリギリ……」
「上手くいかなかった時、真っ先に”誰が悪いか”を考えるのは負け犬の思考よ。
それより”何が悪かったか”を考えて、次の作戦を立てましょ。」
そう冷静に諭すスピカ。
しかし、ここから反撃の手立てなどあるのだろうか?
何が悪かったか?という視点で考えれば、”囮を使う”という初手が既にミスだったと言える。
マルフィクのカモを見極める鑑定眼は本物だ。フリでは決して騙せない。
囮役がデネボラでなくても恐らく同じ結果になっただろう。
ヤツを油断させられるのは”本物の弱者”だけ。
社会の隅に追いやられ、未来の展望も無く、不平不満だけを募らせている。
かと言って現状を変える方法を自ら考えようとしない。だから耳障りの良い事を囁く悪魔に簡単に騙され、言いなりになってしまう。
「そんな人間なら上手く行ったかも……」
「でも、そういう人こそマルフィクに取り込まれちゃうよね……」
そう。そんな人間がスピカ側付く事など決して無い。
囮作戦は初めから破綻していたのだ。
しかし、他にマルフィクの居場所を掴む方法なんて……
まるで2人の頭の中を体現する様に、息の詰まる閉塞感がホテルの一室を包む。
そんな時だった。
[コンコン!]
誰かが入り口のドアをノックする。
まさかとは思うがマルフィクの刺客か?
スピカは警戒しながら、ドアの向こう側に問い掛ける。
「誰……?」
「アクベンスです。」
「アクベンス司祭長!?」
「大事な話があります。
ドアを開けて頂きたい。」
何故彼がここに?
信じられずドアの覗き窓から外を確認するが、確かに彼で間違い無い。
スピカは部屋のドアを開ける。
前に立っていたアクベンスは脇に意識の無い何者かを抱えていた。見覚えがある気がするが……
誰だったか思い出そうとしていると、背後から覗き込んだデネボラが声を上げる。
「その人、アルファルドじゃん!!」
「え!?どういう事!?」
「説明しましょう。
中に入ってもよろしいか?」
部屋に入ったアクベンスは意識の無いアルファルドをベッドに寝かせる。
その際、頭にコブがあるの事に気付く。一体何が……?
「此奴は近くの別の部屋に隠れておったのです。」
「そうか!
タイミング良く電話が掛かって来たのは、コイツが私達が来た事を連絡したからね!」
「あなた達の監視の任を終え、部屋を出て来たところを捕らえました。
コブがあるのは大人しくさせる為に少々乱暴した為です。
すぐに目を覚ます筈なので、今の内に縛っておきましょう。」
アクベンスは備品のタオルを使い、アルファルドの両腕を背中で縛る。
随分手慣れているが、理由は今は訊かない方が良いだろう。
そんな事より重要な事があるのだから。
「色々事情は理解してるみたいですね?
どうしてですか?」
「今日の朝、私宛に匿名の手紙がありました。そこに概ねのことが書かれておったのです。
あなた達が何をしていて、どのような状況にあるのか。
そして、アルファルドがここにいることも。」
手紙にはスピカ達がマルフィクに騙されている事も書かれていた。
が、既にお金を手渡した後なので今更伝えても遅い。
ならばせめてアルファルドだけでも捕まえようと、今まで黙っていたのだ。
「誰だろう、手紙出したのって??」
「さぁ……
でも私達に手を貸してくれてるっぽいわね。
こんなチャンスを用意してくれたんだもん。」
「チャンス?」
「さっき話したでしょ?
マルフィクを油断させられるのは”本物の弱者”だけだって。
多分、手紙を送った奴はこう言ってるのよ。
『彼(アルファルド)を使え』って。」
アルファルドは部屋を出たところをアクベンスに捕まったと言っていた。
何故アルファルドは部屋を出たのか?
まだスピカ達が近くに居るのだ。しばらくは部屋から出ない方がいいに決まっている。
そうしなかったのは、急いで行きたい場所があったという事だ。
ではそれは何処か?
ヒントはさっきのマルフィクの言葉の中にある。
「『これから就任パーティをやる』
アイツはそう言ってた。
多分彼はそのパーティに行こうとしたのよ。」
「じゃあ、本当のパーティの場所を知ってる!?」
「可能性はあるわ。
だから彼に案内させる。マルフィクの居場所まで!!」
アルファルドならマルフィクも警戒せずに懐まで通すはず。
彼を説得して、こちら側に引き入れる。これがラストチャンスだ!
しかしアルファルドはマルフィクに完全に洗脳されている。
それは今までの彼の言動から察する事ができる。
そんな男を味方にする事など、果たしてできるのだろうか……