6節
文字数 2,385文字
半ばアクベンスから無理矢理追い返されたスピカ達。
仕方なく13区を離れたが一直線には帰らず、報告の為デネボラの店に寄っていた。
「そっか、やっぱり……」
「デネボラ店長もこうなるってわかってたみたいね?」
「流石に半分も減るとは思わなかったけど……
私13区に住んで長いから、ああいうのウケちゃいそうってわかったの。」
13区に住む者は底辺の人間。
アルファルドの言葉だが、実は誰よりもそれを認めているのは他ならぬ13区の者なのだ。
だから強さへの憧れが一際大きいのに加え、弱い事への嫌悪が病的にまで激しい。
自分を強く見せたいという欲求が抑えられず、不相応なブランド物で着飾ったり、他者を罵ってマウントを取るのを止められない。
アルファルドのした事は、13区民の趣向を的確に刺激していたのだ。
「で、でもきっと大丈夫!
あんなセミナー、何の役にも立たないってすぐ気付くでしょ!ウン!」
「あんまナメへん方がエエぞ。」
「(・・?)」
突然背後の席から何者かが会話に混じって来た。
振り返ったスピカは、その人物の顔を見て驚きの声を上げた。
「あなたは……!?
えっと……ホテルに居た悪い奴!」
「ケバルライや。憶えててくれや……
オイ姉ちゃん、コーヒーおかわりや。あとチョコパンケーキもくれ。」
「は、は〜い!」
ギャング組織オフィウクス商会のナンバー2、ケバル。
偶然居合わせたとは思えない。
店内に一気に緊張が走る!
「そんな気ぃ張らんでエエって。
アンタを今ここで殺るのは簡単や。
だがその後の報復まで考えると、そう簡単に手は出せんからな。」
とは言われても警戒を解く訳にはいかない。スピカはいつでも仲間を呼べる様にアミュレットを手に握る。
そんなスピカとは反対にリラックスモードで運ばれて来たコーヒーを飲むケバル。
柄にもなく甘い物が好きなのか、パンケーキも一緒に頬張る。
「(◉ω◉) ジュルリ…」
「コラッ!恥ずかしいから人の料理をジッと見ないで下さい!!
で、何の用?」
「メンドくさい輩に絡まれた様やな?」
「何か知ってるみたいね。
まさかストロンガーセミナーってあなたが元締めじゃ!?」
「止めてくれや。
そんなみっともないシノギせんわ。」
「みっともないって……
悪事にカッコ良いもカッコ悪いもないでしょ。」
「それがあんねん。
カッコエエのはやっぱ暗殺業やな。あとは傭兵業とかか。
詐欺業は人気最下位や。」
裏社会で憧れられるのは当然稼げる仕事。
そしてもうひとつが長生きできない職種。太く短くが華とされている。
詐欺業はそのどちらでもない。
上手くやっても精々数億程度しか稼げない。命を張る事もない。
ショボイ奴が、ショボイ奴をターゲットに、ショボイ稼ぎを出す。
能無しがやる仕事だとバカにされている。
と、ケバルは裏社会の世相を解説する。
「ウチは裏の大手やから、そんなメンツが立たん事はやらへん。
……かったが、時代は変わるもんや。」
「は?」
「メンツなんて気にせんクズが出て来た。
末弟のマルフィク。今回のアンタらの相手や。」
「σ(・_・;) ワタシタチ?」
スピカとビエラは過去に二度、オフィウクス商会の商売の邪魔をしている。
子供のビエラはともかく、大人のスピカは完全にアウト。商会に排除対象としてロックオンされてしまった。
また今現在、現会長の高齢化に伴い次期会長を決めなければという風潮が増している。
これが合わさった結果、始まったのがスピカへの”報復レース”。
会長の5人の子供で誰が初めにスピカに落とし前を付けられるか、会長の座を賭けて競う事になった。
そして今、最初の1人が動き出した。
それがマルフィク=オフィウクスだ。
「それってつまり……
13区であんな事が起きたのは、私のせい……!?」
「そういうことや。」
「私への報復なら、何で私を狙わないのッ!!」
「俺に言うな。
……でもま、アイツの考えてそうな事は分かる。」
セコイ仕事をしているだけあってマルフィクは非常にビビリだ。
スピカが過去ケバルと対峙し、その過程で巨大ホテルを一棟半壊させた事は彼も知っている。
そんな危険な相手に直接手を出す勇気なんてない。
だからマルフィクはスピカの周りを攻める事にした。
最も弱く、最も壊し易く、そして最もスピカと関わりが深いもの。
目を付けたのが星教会。スピカの所属組織である。
本人を狙うのが怖いから、その関係者を狙う。
例え裏の人間であっても卑怯者、根性無しと罵られる最低な行為。
だがそれを気にしないのがマルフィクという男なのだ。
「弱い奴ってのは1人で立てん奴のことや。常に寄り掛かれる”誰か”を求めとる。
マルフィクはその”誰か”を演じて手懐けるのが上手い。
仲間内では『弱者の王』とか呼ばれとるな。」
「なにその強いのか弱いのか分かんない二つ名……」
「( ¯⌓¯ ) ダセェ…」
「お前らは強い奴と喧嘩するのは得意みたいやが、弱い奴相手はどうやろな?
ほな、頑張ってくれ。勝てるよう祈っとるで。」
軽食を終えたケバルはドンと10万の札束をテーブルに置いた。
美味かった分のチップと、今聞いた事を忘れて貰う分の口止め料だと言って。
店を出て行こうとする彼をスピカは呼び止めた。
1つ、訊いておかなければならない事があったからだ。
それはスピカが店に入った時には、既に彼が席に着いていた事。1杯目のコーヒーを飲み始めていたので、10分は前から来ていたのだろう。
単に後を付けていただけなら、そんなに早く先回りはできない。
ここに来ることを知っていたという事だ。
「なんで私がここに来るって知ってたの?
行くって決めたの今朝のことなんだけど。」
「俺に質問すんな。
それに、教える訳ないやろ。」
悪戯な笑みを見せながらケバルは店を後にした。