15節

文字数 1,951文字

「うるせぇ……
 ウルセェんだよッ!!

 何が感謝だッ!!
 んなもんで欲しい物が買えんのか!
 上手い飯が食えんのか!
 デカい家に住めんのか!

 何の役にも立たなかったんだよ……ッ!!
 そんなゴミの為に、やっと手に入れた物全部捨てるなんてできるかッ!!」

 ダメだ……
 アルファルドの事を一番良く知っているアクベンスですら、目を覚まさせる事ができない。
 マルフィクの洗脳はそこまで根深いのか……!?

「ヌオオォォーーッ!!
 私は見捨てんぞッ!目を覚ますまで何度でもこの拳を振るうまでッ!!」

 乱心したアクベンスをスピカが立ちはだかり止める。
 デネボラも背後から引っ張って協力。何とか座り直させる。

 落ち着かせた後、スピカはアルファルドを真っ直ぐ見ながら問う。

「知ってる?
 この人暴力振るった後、その罰だって言って自分で頭を石に打ち付けるのよ。」
「フン!イカれてるのはそのせいか。」

「放っといたら、本当に何度でもあなたを殴るでしょうね。
 後で自分の頭をカチ割る事になっても。
 イイの?司祭長との縁を切って。
 あなたの為に傷付いてくれる人なんて、もう二度と現れないわよ。」
「知らねぇよ……」

 アルファルドの反応が薄い。明らかに覇気が無い。
 ああ言っていたが、アクベンスの言葉が全く届いてなかった訳ではないようだ。
 それを感じ取ったスピカは一か八かの掛けに出る。

「最後のチャンスを上げるわ。」

 何をするのかと思えば、なんとアルファルドの拘束を解いてしまった!
 唐突な行動に呆気に取られている彼に、スピカは自分のアミュレットを差し出す。

「これを持ってパーティ会場に言って。
 私達は追わないから普通に行けるはず。」
「どういう事だ……?」

「会場に着いたらこれを持ちながら場所を念じて。
 それでこちらに伝わるわ。」
「話聞いてたのかよ!?
 オレはマルフィクさんを裏切る気なんて……!」

「だったら念じなければいいわ。
 でも、さっきも言った通りこれが最後よ!

 そのアミュレットを捨てれば、あなたは一生今の生き方を続ける事になる。
 誰からも感謝されない、怨みを買い続ける生き方をね。
 本当にそれでイイのか、よく考えるのね。」

 スピカは扉を開けて、1人で行く様に促す。

 部屋を出て行く直前、アルファルドは一度だけ振り返って泣き崩れるアクベンスを見た。
 それは心残り故の行動か。
 はたまた決別の意思の現れか……



——マルフィク主催、パーティ会場。

 とあるホテルの地下。
 爆音で音楽が流されている密室で、狂喜乱舞する100人規模の集団。
 その中で一際ハイテンションなマルフィクが、ある男を見つけ声を掛ける。

「ヨォ〜〜ッ!!
 ようやく来たなッ!ブラザーッ!!」

 乱雑に肩を組んだ相手はアルファルドだ。
 ここまで何事もなく来れたと言う事は、スピカは本当に彼を尾行しなかったという事。
 彼に全てを託して解放したのだ。

「えらい遅かったが、なんかあったんか?」
「いえ……特に……」

「特に無いなら遅刻すんな、ボケッ!!
 ……まぁ特別に許したろ。今晩はサイコーに気分がエエからな!!
 感謝せぇよ!ギャハハッ!!」
「ありがとうございます……」

 感謝の言葉を口にするアルファルド。
 その時、アクベンスの言葉が頭を過ぎる。

『感謝とは他者の幸福を祈る事だ。』

 自分自身に問う。
 目の前のこの男の幸福を願う気持ちが、少しでも自分にあるのか。

 アルファルドはジッとマルフィクの顔を見つめる。

「ん?何や?
 まだなんかあんのか?」
「……オレ、言われた通りにしました。
 あなたの役に立ちました。
 だから……何か言う事は……」

「はぁ?
 ……オオッ!?そやったそやった!
 約束通りお前の参加料は、あの女から巻き上げた分で免除や!
 他人の金で呑む酒は格別やぞ!楽しめよッ!!」
「…………
 ……はい。」

 アルファルドが期待した言葉はそんなものじゃない。
 待っていたのはたった一言でもイイ、あの言葉……

 再びアクベンスの言葉が甦る。

『お主自身が誰からも感謝されておらんからだッ!』

 マルフィクの元を離れ、片隅へと移動したアルファルド。
 そっとポケットに手を入れ、中の物を握った。


…………


 招待客全員から参加料を徴収し終えたマルフィク。
 勘定も終わったし、盛り上げる為にスピーチでもしてやろう!と席を立った時だった。

「お会いできて光栄だわ、マルフィクさん。」

「あん?」
(まだ挨拶しとらんヤツがおったんか?
 このオレが金を徴収し忘れるなんて、流石に浮かれ過ぎやな。)

 そう思いながら振り返ったマルフィク。
 視界に声の主を捉えた直後、酔って高揚していた赤ら顔から一気に血の気が引く!!

「この世で一番滑稽な奴は誰か知ってるぅ?
 それは、勝ったと思い込んで呑気にパーティ開いてるバカ男だよッ!!」
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登場人物紹介

名前:スピカ=ウィルゴ

性別:女

年齢:27

身長:162センチ

この物語の主人公。

基本は優しい心の持ち主だが平和主義者というわけではなく、必要とあれば荒事も辞さない。

有り過ぎる行動力と小賢しい悪知恵が働く以外はごくごく普通の一般人。

名前:ビエラ

性別:女

年齢:?(見た目は7歳くらい)

身長:117センチ

準主人公。

何故か一切声を出すことが出来ない。その代わりなのか感情に合わせて動きを変える、アホ毛の様なもの(触覚?)が頭頂部から生えている。

性格は奔放で好奇心旺盛。なのにビビり。

名前:アクルックス=クルス

性別:男

年齢:30

身長:188センチ

大柄で逞しい体躯を持ち、素行には大人の落ち着きがある。愛娘が一人いて、名前は”ミモザ”。

彼と知り合ったことをきっかけに、スピカ達はとある猟奇事件に巻き込まれる。(2章へ続く)

名前:アークトゥルス=ボーティス

性別:女

年齢:18歳

身長:155センチ

やや素直さに欠けるが根は真面目で勤勉。このお話では貴重な十代女子。

農夫達からの依頼で農作物を荒らす魔女の解決に乗り出したスピカ。その正体がなんと彼女だった。(3章へ続く)

名前:アルタイル=アクィラ

性別:男

年齢:51歳

身長:175センチ

宇宙や世界の真理を探究する高明な学者。『三賢人』と呼ばれる3人の天才の一人。

彼がビエラに関する情報を持っていると聞いたスピカは、彼の働く学術院を訪れるが…(4章へ続く)

名前:カノープス=カリーナ

性別:女

年齢:28歳

身長:161センチ

おっぱい担当兼、物語の核心に絡む角の生えた美女。しっかり者だが若干天然が入っている。

ビエラと関係があるかもしれない謎の飛来物の調査に来たスピカ一行。そこで偶然彼女と出くわす。(5章へ続く)

名前:リゲル=オリオン

性別:男

年齢:28歳

身長:176センチ

女と見紛うレベルの超美形。それでいて中身も聖人君子の出木杉君タイプ。

仕事でとある人物の護衛の任についていた彼は、その過程で思いがけず"裏の人間"と邂逅する。(7章へ続く)

名前:デネブ=シグナス

性別:男

年齢:50歳

身長:168センチ

数々の名品を生み出してきた機工技師。アルタイルと並ぶ『三賢人』の一人。

彼、強いては彼が代表を務める工房の力が必要になったスピカ。しかしその工房はある男に乗っ取られていた。(8章へ続く)

名前:花圃の魔女(本名不明)

性別:女

年齢:23歳

身長:159センチ

アークトゥルスの元仲間。手下を従えて群れるのが好きなお局気質の女性。

平和に暮らしていたアークの元に突然現れた彼女は、魔女である者は決して逃れられない"悲運"を告げる。(9章へ続く)

名前:(左から)ミモザ=クルス、ポルックス=ジェミニ、リギル=ケンタウルス

性別:女、男、男

年齢:7歳、10歳、10歳

身長:120センチ、139センチ、148センチ

ビエラの友達。いずれも喋れず身元不明なビエラを変に思わず、分け隔て無く受け入れる豊かな心を持つ。

公園である小動物を拾ったビエラは3人にどうするべきか相談する。それがキッカケとなり、子供達4人だけの小さな冒険が幕を上げる。(10章へ続く)

名前:デネボラ=レオ

性別:女

年齢:24歳

身長:166センチ

小さな喫茶店を経営する若き商売人。オシャレでギャルっぽい見た目だが、性格は実直で働き者。

先輩の手伝いで第13居住区にやって来たスピカ。そこでデネボラと偶然出会い話に華を咲かせていると、突如ある男が乱入して来て大混乱を巻き起こす。(11章へ続く)

名前:ミアプラキドゥス=カリーナ

性別:女

年齢:26歳

身長:148センチ

行方不明のカリーナ四姉妹の次女。子供の様に小柄で遊び人気質。

全国民が対象となる年に一度の健康診断。それが始まるとほぼ同時に、何故か行方不明者が続出し始めた。その事件にはどうやらミアが関係している様で……(12章へ続く)

名前:ベガ=リラ

性別:女

年齢:52歳

身長:155センチ

コスモス1の名医と言われる三賢人の1人。おっとりゆったりした立ち居振る舞いで、誰しも初めは癒し系の印象を受けるが、その本性は……

ずっと探していたベガを遂に見つけたスピカ。しかし彼女はコスモスの地下に隠された、恐ろしい闇に深く関わっていた。(13章へ続く)

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