12節
文字数 1,532文字
覗き混んだレンズの中に見えた物。それは丸い球体だった。
暗い空にボンヤリと赤く光って僅かに明滅している。
よく見ると中央部分が黒い影みたいになっている。
このシルエットは……人?球体の中に人型の何かが入ってる様に見える。
あれは一体……
「今見えている球体ですが、つい最近発見されたものなんです。」
球体が見つかったのは市長からの要請を受け、発光現象の原因調査をしていた時。空に異常が無いか観察していた時に発見された。
球体と地上との距離はおよそ3.5万㎞。大きさは直径およそ15m。
発光現象と関係あるかはまだ確証が無い。ただこの球体はあの日を境に忽然と現れ、以降昼も夜も関係なくずっとコスモスの頭上に位置している。
あれを発見してからアルタイルと一部の学者達は毎日欠かさず観察を続けている。
観測を始めてからずっと変化が無かったのに、1日だけ中に見える陰が動いた事があった。
こちらを真っ直ぐ向き指を指すようなポーズを取った時、手元がカメラのフラッシュの様に一瞬だけ白く発光した。その後すぐ元の姿勢に戻り再び動かなくなった。
その日こそ、隕石が落ちてきた日。吸血鬼アビィが撃退されたあの時だ。
「あなたを助けた隕石は、あの球体の中の存在が射出したもので間違いありません。
動き出した時間と隕石が落ちて来た時間はほぼ一致しますから。」
それはつまり、3.5万㎞も離れた場所からせいぜい1.6mぐらいしかない小さくて動く存在を狙って当てたという事。
それがどれだけあり得ない事かは子供でも分かる。
だが実際に起きた。スピカは目の前でそれを目撃している。
「もう1つの質問。
発光現象の方ですが、確かにあれは新機工の実験ではありません。」
あの日、隕石よりも大きい何かがこの国の南部にある森の中に落ちた。地震が起きたのはその時の衝撃だ。
しかし落下地点を調査隊が見つけた時には既に何も残っておらず、今もその行方を追っているという。
それが同じ様にあの球体から射出されたものであるかは分からない。
もしかすると生物ではないかという説も出ている。
(その生物ってもしかしてビエラ様なんじゃ……
でもビエラ様が落ちたのは私の教会。天井に穴が空いてたからそれは間違いない筈。
だとしたら南の森に落ちたのはビエラ様と関係ある何か……??)
次々と明かされる真実に混乱を禁じ得ないスピカ。
そんな彼女をアルタイルは睨みつける様な顔で問い掛ける。
「僕が知っている情報はこれが全てです。
次はあなたが知っている事を教えて頂けますか?」
遂に聞かれたく無い事をはっきり聞かれてしまった。答えようが無いスピカはただ無言になるしかない。
息が詰まる張り詰めた空気が続く。
暫しの沈黙の後、アルタイルはフッと表情を緩める。
「分かりました。
言えない理由があるのでしょう。もう訊きません。」
「いいんですか?」
「本当はダメですよ。アルデバラン記者との約束を破る事になる。
でも、あの人よりはあなたの方が信用できます。」
(アルデバランさんが胡散臭くて助かったぁ〜……)
だがやはりアルタイルはアルデバランと繋がっていた。
スピカがここに来るように仕向けて、アルタイルにわざと嘘をつくように指示した。そしてスピカがどっちを信じるか試した。
完全にスピカが何か知っていると勘付いてる。
「アルデバラン記者にはあなたは素直に僕の言う事を信じたと言っておきます。
色々迷惑をお掛けした事に対する僕からの償いです。
しかし彼は勘が良い。直ぐにあなたをマークから外す事はしないでしょう。」
「ですよね……」
当面の障害はアルデバラン。何か手を考えなければ。
このままではビエラの事に気付かれるのも時間の問題だろう。