12節

文字数 2,347文字

 ぼんやりと光っていただけのガラス玉が、突如直視できないほどの光を放った。
 その光が収まった時、ガラス玉の中の様子は一変していた。
 木々は消し飛び、砂埃と燃える木の煙が一面に充満している。

 遂にその瞬間がやって来たようだ。
 何も見落とす事が無いよう、2人はガラス玉との距離を詰め貼り付く様に中を覗き込む。

 煙が夜風に吹き飛ばされ徐々に薄くなっていく。
 露わになった大穴の中心にあった物。それを見てアークは思わず声を上げた。

「骨……ッ!?」

 そこにあったのは何かの生物の頭蓋骨だった。
 大きさは2〜3メートルはあるだろうか。頭だけでこのサイズはかなり大きい。
 トカゲの頭の様な形をしているが、口にはトカゲに似つかわしくない鋭い牙がビッシリと並んでいる。
 頭頂部には2本の巨大な角も生えている。どことなくカノーの角に似ている気がするが……?

 アークはチラリとカノーの様子を伺う。

「あれは……もしかして……!?」

 カノーも同様に驚いていたが、何か心当たりがありそうなリアクションだ。
 すぐにでも話を聞きたいところだが、確認すべき事はこれで終わりじゃない。
 この後、この骨は何処かに消える。それを見届けなければ。



 しばらく待っていると、誰かが現れた。
 小柄な女性だ。その姿を見た瞬間カノーが叫ぶ。

「ミア!?
 やっぱりあそこに居たのね!」

 この女性が行方不明の次女、ミアプラキドゥス=カリーナ。
 やはり彼女は大穴を訪れていた。しかも誰よりも早く。
 という事は骨を持ち去ったのはミアということだろうか?暫し彼女の動向を見守る。

 不思議そうに骨を観察していたミアだったが、何者かの気配を感じた様で突然背後を振り返った。
 ミアが向く方向から別の人物が現れる。こちらもやはり顔がボヤけていてどんな人物か判別し難いが、体型からして男だろう。

 何かミアと話しをしている。内容は分からない。残念ながらサイコメトリーで音の再現はできないのだ。荒い映像では口の動きを読んで推測する事もできそうにない。
 ただ、ミアと謎の男は距離を大きめに取っている。知り合いという感じではなさそうだ。

 しばらく対話していると、両者の目線が同時に穴の外へ向いた。なんと3人目が現れたのだ。
 この3人目の男も先にいた2人とは面識がない様で、距離を保ったまま何か話しかけている。

 3人は話し合いの末結論が出たのか、全員が互いに頷く動作を見せた。
 その後、2番目に現れた方の男が懐からバッジの様な物を3つ取り出し、2つを他の2人に手渡し、残りの1つを骨に取り付けた。
 すると直後、3人と頭蓋骨が同時にパッと姿を消してしまった。

 大穴から誰も居なくなった。少し時間を早めて進めてみる。
 6時間程経過した頃、大穴にまた別の人物が現れる。今度は集団だ。今日襲って来た大穴の見張りと同じ様な装備をしている。コスモスの人間と見て間違い無いだろう。

 という事はこの瞬間から大穴の調査が始まり、24時間見張りが置かれる事になった。
 見張りがいる中、先に消えた3人がまた現れる可能性は無いとみていいだろう。
 カノーはサイコメトリーを解除し、ガラス玉から映像が消えた。



「カノー。映ってた女は行方不明の妹で間違い無いのか?」
「ええ。
 顔はボヤけて見えませんでしたが、背格好や服装はミヤと同じでした。間違いありません。」

 大穴の第一発見者はミア。
 カノーによるとミアは頻繁にコスモスへ遊びに出掛けており、あの夜も同じだったらしい。街に居たのなら森に何か落ちたのを目撃していても不思議ではない。

「あの子は新しい物や珍しい物にすぐ飛びつく性格なので、気になって見に行ったという可能性が高そうです。」
「悪魔の足なら誰よりも早く着けて当然か。」

 ミアが大穴を発見して間もなく、今度は謎の男が立て続けに2人現れた。この2人については全くの謎だ。
 ただ現れたのは大穴ができてから1時間も経っていない頃だ。ミアと同じ様に何か落ちたのを目撃して、すぐに落下地点へ向かったのだとしても人間にしては到着が早過ぎる。最後にパッと消えた不思議な現象も魔法ではないだろうか。
 だとしたら悪魔の誰かか……?

「決め付けるのは早計だと思います。
 3人と大きな頭蓋骨をまとめて移動させたのなら、相当の魔力を消耗したはずです。
 そんなに大きな魔力の流れがあったならアスピが気付く筈です。あの子の魔力知覚は飛び抜けていますから。」

 ならばあれは魔法じゃないということか?しかし人間が瞬間移動(テレポート)の技術を開発した、なんて話は夢物語でしか聞いた事が無い。
 悪魔でも人間でもないとしたら一体何者なのか……?

「……男2人については、今は追求できそうにないな。
 その疑問は一旦置いておくとして……」

 アークはカノーの顔を見ながら問い掛ける。

「あの頭蓋骨は何なんだ?
 心当たりがありそうだったが、何か知ってるのか?」
「気付きませんでしたか?
 遂に”再臨の時”が来たという事です。」

「……再臨?」
「ご家族からお聞きになっていないのですか?」

 マズい。何を言っているのかさっぱりわからない。
 どうやら悪魔なら知っていて当然の事の様だが……

 アークは正体がバレない様に慎重に言葉を選びつつ訊き返す。

「実はワシ、幼い頃の記憶が無いんだ。
 だからその”再臨の時”について教えてくれないか?」
「まぁ!?そうだったんですか!?
 一体どうして……」

「ウゥッ!!
 思い出そうとすると……あ、頭が……ッ!!」
「無理をしてはいけません!!
 お可哀想に。忘れてしまったのならお教えしますわ。」

(ヨシッ!もうカノーの扱い方は完璧にマスターしたな。)

 その話をするのなら丁度いい場所がある。
 そう言うカノーに付いてアークは部屋を後にした。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

名前:スピカ=ウィルゴ

性別:女

年齢:27

身長:162センチ

この物語の主人公。

基本は優しい心の持ち主だが平和主義者というわけではなく、必要とあれば荒事も辞さない。

有り過ぎる行動力と小賢しい悪知恵が働く以外はごくごく普通の一般人。

名前:ビエラ

性別:女

年齢:?(見た目は7歳くらい)

身長:117センチ

準主人公。

何故か一切声を出すことが出来ない。その代わりなのか感情に合わせて動きを変える、アホ毛の様なもの(触覚?)が頭頂部から生えている。

性格は奔放で好奇心旺盛。なのにビビり。

名前:アクルックス=クルス

性別:男

年齢:30

身長:188センチ

大柄で逞しい体躯を持ち、素行には大人の落ち着きがある。愛娘が一人いて、名前は”ミモザ”。

彼と知り合ったことをきっかけに、スピカ達はとある猟奇事件に巻き込まれる。(2章へ続く)

名前:アークトゥルス=ボーティス

性別:女

年齢:18歳

身長:155センチ

やや素直さに欠けるが根は真面目で勤勉。このお話では貴重な十代女子。

農夫達からの依頼で農作物を荒らす魔女の解決に乗り出したスピカ。その正体がなんと彼女だった。(3章へ続く)

名前:アルタイル=アクィラ

性別:男

年齢:51歳

身長:175センチ

宇宙や世界の真理を探究する高明な学者。『三賢人』と呼ばれる3人の天才の一人。

彼がビエラに関する情報を持っていると聞いたスピカは、彼の働く学術院を訪れるが…(4章へ続く)

名前:カノープス=カリーナ

性別:女

年齢:28歳

身長:161センチ

おっぱい担当兼、物語の核心に絡む角の生えた美女。しっかり者だが若干天然が入っている。

ビエラと関係があるかもしれない謎の飛来物の調査に来たスピカ一行。そこで偶然彼女と出くわす。(5章へ続く)

名前:リゲル=オリオン

性別:男

年齢:28歳

身長:176センチ

女と見紛うレベルの超美形。それでいて中身も聖人君子の出木杉君タイプ。

仕事でとある人物の護衛の任についていた彼は、その過程で思いがけず"裏の人間"と邂逅する。(7章へ続く)

名前:デネブ=シグナス

性別:男

年齢:50歳

身長:168センチ

数々の名品を生み出してきた機工技師。アルタイルと並ぶ『三賢人』の一人。

彼、強いては彼が代表を務める工房の力が必要になったスピカ。しかしその工房はある男に乗っ取られていた。(8章へ続く)

名前:花圃の魔女(本名不明)

性別:女

年齢:23歳

身長:159センチ

アークトゥルスの元仲間。手下を従えて群れるのが好きなお局気質の女性。

平和に暮らしていたアークの元に突然現れた彼女は、魔女である者は決して逃れられない"悲運"を告げる。(9章へ続く)

名前:(左から)ミモザ=クルス、ポルックス=ジェミニ、リギル=ケンタウルス

性別:女、男、男

年齢:7歳、10歳、10歳

身長:120センチ、139センチ、148センチ

ビエラの友達。いずれも喋れず身元不明なビエラを変に思わず、分け隔て無く受け入れる豊かな心を持つ。

公園である小動物を拾ったビエラは3人にどうするべきか相談する。それがキッカケとなり、子供達4人だけの小さな冒険が幕を上げる。(10章へ続く)

名前:デネボラ=レオ

性別:女

年齢:24歳

身長:166センチ

小さな喫茶店を経営する若き商売人。オシャレでギャルっぽい見た目だが、性格は実直で働き者。

先輩の手伝いで第13居住区にやって来たスピカ。そこでデネボラと偶然出会い話に華を咲かせていると、突如ある男が乱入して来て大混乱を巻き起こす。(11章へ続く)

名前:ミアプラキドゥス=カリーナ

性別:女

年齢:26歳

身長:148センチ

行方不明のカリーナ四姉妹の次女。子供の様に小柄で遊び人気質。

全国民が対象となる年に一度の健康診断。それが始まるとほぼ同時に、何故か行方不明者が続出し始めた。その事件にはどうやらミアが関係している様で……(12章へ続く)

名前:ベガ=リラ

性別:女

年齢:52歳

身長:155センチ

コスモス1の名医と言われる三賢人の1人。おっとりゆったりした立ち居振る舞いで、誰しも初めは癒し系の印象を受けるが、その本性は……

ずっと探していたベガを遂に見つけたスピカ。しかし彼女はコスモスの地下に隠された、恐ろしい闇に深く関わっていた。(13章へ続く)

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み