8節
文字数 2,426文字
一先ず互いに無事を確かめ合う。
「リギル、大丈夫?」
「平気平気!
イテテ……」
「ビエラちゃんも大丈夫?」
「d(*゚▽゜)」
「ビエラちゃんカッコよかったよ!!」
「(≧∪≦*) テヘヘ…///」
「ミモ子も凄ぇじゃん!
あんな大声出せるなんて知らなかったぜ!」
「パパに危なくなったらとにかく叫べって教えられてるから!」
無事が確認できたところで、これからどうするか考える。
一応辺りを見渡してみるが当然全く知らない場所だ。
「でも8区のどっかなんだよな?」
「それなんだけど、たぶんここ”13区”だと思う……」
「エ゛ッ!?マジッ!?」
「13区がどうしたの?」
第13居住区はコスモス内の最安居住地だ。
商売に失敗した人や失業した人。或いは親と縁を切った家出少年少女が行き着く。
故にここには世の中や社会への不平不満を強く持つ者が多く、負の情念が色濃く渦巻いている。
どこの街にも1つはある、半グレや不良の溜まり場というやつだ。
さっきの様なカツアゲグループが活動しているのだから、ここは13区でほぼ間違いないだろう。
さらに悪い事に13区は街の南西部にある。目指す8区は南東なので東西が逆。
気は進まないが、バスに乗って一旦商業区に戻るしかない。
「来た道を戻って大通りに出よう。
大通り沿いを進めば、その内バス停が見つかる筈だ。」
「そうだな。」
「待って!
ビエラちゃん、何してるの?行くよ?」
ビエラは男達が置いて行った車の中で何かゴソゴソしていた。
ミモザの呼び掛けに応えて出て来ると、その手には鞄が握られていた。
「その鞄……
ポルックス君が払ったお金、そのカバンにしまうの見たよ!」
「そっか!
金返して貰おうって事だな?」
「(。_。) ウン」
目的地と全然違う場所に連れて来られたのだ。全額返して貰って当然。
早速カバンを開けてみると、中には数百万という予想外の大金が詰まっていた。
よく見るとお金と一緒に1枚の紙切れも入っている。それには汚い字でこう書かれている。
[今夜21:00
アガリを持ってホテルへ集合
☆絶対遅れるな!!]
「21時にどっかのホテルに集まるみたいだな。
でも”アガリ”って何だ?」
「”売上”って意味だよ。
たぶんこのお金の事じゃないかな?
きっと僕らにやった様な手口で脅し取ったお金だろうね。
額から見て被害者は1人や2人じゃないよ、きっと……」
「ふ〜ん……
って、ちょっと待てよ!
それがここにあるって事は……!?」
アイツらがこのお金を取りに戻ってくる!!
お金を置いて来た事に気付くのに、そう時間はかからない筈。急いでここを離れなければ!!
早く行こう!と呼び掛けるリギル。
だが、ビエラだけがその場から動こうとしなかった。
どうしたのか?と尋ねると、ビエラは車を叩きながら何かを訴え始める。
「(#`Д´)凸 ファッキュー‼︎」
「もしかして……
あの人達に仕返ししようって言ってるの?」
「はぁ!?
ダメダメッ!!ダメに決まってんじゃん!?」
やられたらやり返したい。それは誰でも抱く感情だろう。
だが復讐は次の復讐を生むだけ。無益で無意味な行為。
一般的な道徳や、多くの物語でそう語られている。
気持ちは分かるが面倒になりそうな事はやめよう。
警察に通報して、後は全部任せておけばいい。
そう説得するリギルに対してポルックスが口を開いた。
「……やろう!」
「ほら、ポルもこう言って……
って、エエッ!?」
奴らは集団で圧を掛けることで一種の洗脳を行っている。
自分の方が悪い。他の人に知られるとマズい。お金で穏便に解決した方がいい。
そう思い込ませる事で、警察に通報されるのを防いでいるのだ。
そして万が一通報されてもいい様に、ターゲットには子供達の様な弱く権力の無い者を選んでいる。
そう言った人間の声は世間に届き難い。まさに今日、商業区で学んだばかりだ。
おまけに実際にお金を取られたわけではなく、他に目撃者もいない。
そんな状態で通報したところで子供の戯言。或いは大袈裟に言ってるだけと思われ、きっと警察は真面目に取り合ってくれないだろう。
「だったら、僕達でアイツらを懲らしめようよ!」
「ポル……そんなキャラだっけ……?」
ポルックスが変わったのは少し前。
スコルピウス学術院に体験入学した時だ。
あの時ポルックスは教授に無視されるという最低の扱いを受けた。ここで学びたいという純粋な気持ちを踏み躙られた。
それに対してポルックスは何もできず、ただ震えて涙を堪えていた。
仕方ない事なんだ。怒ってはダメなんだ。と、自分を戒めすらした。
だがリギルは違った。ポルックスが受けた不当な扱いに対して怒り、問題の教授を殴り飛ばした。
それがキッカケで大事となり色々苦労する事になったものの、最終的には学術院側に過ちを認めさせ謝らせる結果へと繋がった。
ポルックスにとって、あの日の出来事は大きな学びとなっていた。
「誰かに傷つけられたら、ちゃんと怒らなきゃ!
怒ったなら反撃しなきゃダメなんだ!!」
「いや……まぁ、うん……
(オレ的にはやり過ぎだったなって反省してんだけど……)」
「私もそう思う!
パパ言ってた。『殴られたら殴り返すのが礼儀だ』って!!」
「ミモ子まで!?
つか娘に何教えてんだ、あの浮気神父……」
3対1で自分の方が少数派。
こうなると反論するのが面倒臭くなるのがリギルだ。
だが仕返しするとして、具体的にどうするのか?
向こうは大人で、しかもこっちよりも数が多い。
不意打ちしたとしても絶対に敵わないが……
「力で敵わない相手に、何度も勝ってる人を僕達は知ってる。」
「スピカ司祭を見習えってか?」
「スピカ司祭ならどうするかな?」
「……(๑º ㅿº) ソウダ!」
ビエラが何かを閃いた。
メモ帳とペンを取り出し、それを仲間に伝える。
4人は頭を寄せ合い、ビエラの案をベースに作戦会議を始めた。