13節

文字数 1,948文字

「ウぅ……ッ!
 ハッ!?お前らは!?
 アクベンスの豚野郎ッ!よくもやりやがったなッ!!」

 アルファルドが目を覚ました。
 スピカは早速、説得を試みる。

「あなた、これからマルフィクのパーティに行く気だったでしょ?
 私達も連れて行ってくれない?」

「はぁ!?
 ……ははぁ〜ん、オレを拉致ったのはその為か。
 イイぜ、案内してやる。
 だからさっさと解放しろや!」

 あっさりと目的地まで案内する事を了承したアルファルド。
 しかし、そんな簡単な話では無い事をスピカはわかっていた。

「そんな適当な返事じゃダメよ。
 どうせ直接パーティ会場には行かず、一旦別の場所で仲間と落ち合うんでしょ?
 その時、こっちの存在をチクられたら終わりだもの。」
「チッ!気付いてたか……」

 用心深いマルフィクの事だ。
 誰であっても直接自分の元に呼ぶ様な不用心な事はしないだろう。

 恐らく一度別の場所に招待客を集め、そこでなりすましや不審な者が紛れていないかチェック。
 その後会場に誘導する際にも、わざと遠回りするなどして尾行する者が居ないかチェック。
 最低限これぐらいはすると予想できる。

 これらの警戒網に引っかからずマルフィクに辿り着くには、心からの協力が不可欠だ。

「へへッ、オレに協力して欲しいなら出すもん出せよ!
 あ、無理か?
 300万取られたばっかだもんな!ハハハッ!!」

 この態度、協力する気は微塵も無さそうだ。
 とは言え、彼が最後の頼みの綱。一応話を合わせてみる。

「いくら出せば協力してくれるの?」
「え?そうだな……
 そうだ!今履いてるこの靴を見ろッ!」

 この靴は超高級ブランドの150万の品だ!と得意げに見せつけてくるアルファルド。
 これは元はマルフィクの物で、それを信頼するアルファルドにならという事で、特別価格の50万で譲ってくれたと言う。

 マルフィクは100万も平気でまけてくれるぐらい器が大きい。
 だからそれと同額か、それ以上の見返りが無ければ協力するメリットは無い。
 と、拉致られてる身分とは思えない大胆な要求をしてきた。

 するとデネボラがこんな質問をする。

「ねぇ、その靴譲ってもらったのっていつ?」
「は?1ヶ月前ぐらいだ。」

「たった1ヶ月でそのヘタリ具合って事は、元々状態が良くなかったんじゃない?」
「そ、そんな事は……!?」

「普通、目立つ傷が1個でもあったら10分1以下まで価値落ちるよね?」
「うん……
 って言うか、見た感じ全然手入れしてなかったっぽいから、そもそも値段付かないかも……
「な、なに!?」

 高級品に縁の無さそうなお前にそんな事がわかる訳ない!適当言うな!
 そう喚くアルファルドだったが、デネボラは中古品店で鑑定員のヘルプをした事があると返す。
 そんなに前の話ではないので、感覚も鈍っていないと自信を持って言い切る。

「じゃ、じゃあこの腕時計はどうだ!
 こっちは新品で貰ったんだ!本来200万の物を70万で……」

「偽物だよ、それ。」
「え……」

「初心者鑑定士の私が遠目から見ても分かる粗悪品だから、値段は……
 8000ぐらい?」
「はっ、せん……!?」

「ふ〜ん……
 じゃ、1万ぐらい払えば協力してくれるって事でいい?」
「そ、それは……!」

 マルフィクはさぞ面白かっただろう。
 無価値同然の品に数十万を払い、嬉々としてそれを身に纏っているのだから。
 下手なコントより全然面白い。
 スピカは寝ぼけた相手を叩き起こす為、やや強めにそうイジる。

 これで目が覚めただろう。マルフィクへの怒りでいっぱいのはず。
 今ならこちら側に引き込める。そう思い再度協力を願い出たが、アルファルドが返した答えは……

「ウソだ……」
「え?」

「オレを騙そうとしたってムダだ!!
 マルフィクさんはオレをブラザーって呼んでくれた……!
 お前は強者になれるって認めてくれた……!
 オレを信じくれたマルフィクさんを、オレは信じるッ!!」

 正直、アルファルドの事は良く思っていない。
 マルフィクの言いなりになっているだけとは言え、スピカのお金を盗った1人には違いないのだ。怒りや憎しみを覚えずにはいられない。
 しかし、今はそれらよりも大きく心に宿る感情がある。

 “憐れみ”
 スピカはそれを最も強く感じていた。

「ごめんなさい。
 あなたに手を貸せというのは可哀想過ぎたわ。」
「可哀想だと……!?
 どういう意味だ、ああッ!?」

「誰かさんが言ってた。『弱い奴は1人で立てない奴だ』って。
 あなたを見て腑に落ちたわ。」
「オレが……弱い……ッ!?
 金も権力も無い底辺が舐めてんじゃねぇッ!!」

「安心して。
 クソを舐める趣味なんてないから。」
「んだとコラァッ!!」

 やはり説得は無理か……
 諦めかけた時、アクベンスが待ったをかける。

「私に話をさせて頂きたい。」

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登場人物紹介

名前:スピカ=ウィルゴ

性別:女

年齢:27

身長:162センチ

この物語の主人公。

基本は優しい心の持ち主だが平和主義者というわけではなく、必要とあれば荒事も辞さない。

有り過ぎる行動力と小賢しい悪知恵が働く以外はごくごく普通の一般人。

名前:ビエラ

性別:女

年齢:?(見た目は7歳くらい)

身長:117センチ

準主人公。

何故か一切声を出すことが出来ない。その代わりなのか感情に合わせて動きを変える、アホ毛の様なもの(触覚?)が頭頂部から生えている。

性格は奔放で好奇心旺盛。なのにビビり。

名前:アクルックス=クルス

性別:男

年齢:30

身長:188センチ

大柄で逞しい体躯を持ち、素行には大人の落ち着きがある。愛娘が一人いて、名前は”ミモザ”。

彼と知り合ったことをきっかけに、スピカ達はとある猟奇事件に巻き込まれる。(2章へ続く)

名前:アークトゥルス=ボーティス

性別:女

年齢:18歳

身長:155センチ

やや素直さに欠けるが根は真面目で勤勉。このお話では貴重な十代女子。

農夫達からの依頼で農作物を荒らす魔女の解決に乗り出したスピカ。その正体がなんと彼女だった。(3章へ続く)

名前:アルタイル=アクィラ

性別:男

年齢:51歳

身長:175センチ

宇宙や世界の真理を探究する高明な学者。『三賢人』と呼ばれる3人の天才の一人。

彼がビエラに関する情報を持っていると聞いたスピカは、彼の働く学術院を訪れるが…(4章へ続く)

名前:カノープス=カリーナ

性別:女

年齢:28歳

身長:161センチ

おっぱい担当兼、物語の核心に絡む角の生えた美女。しっかり者だが若干天然が入っている。

ビエラと関係があるかもしれない謎の飛来物の調査に来たスピカ一行。そこで偶然彼女と出くわす。(5章へ続く)

名前:リゲル=オリオン

性別:男

年齢:28歳

身長:176センチ

女と見紛うレベルの超美形。それでいて中身も聖人君子の出木杉君タイプ。

仕事でとある人物の護衛の任についていた彼は、その過程で思いがけず"裏の人間"と邂逅する。(7章へ続く)

名前:デネブ=シグナス

性別:男

年齢:50歳

身長:168センチ

数々の名品を生み出してきた機工技師。アルタイルと並ぶ『三賢人』の一人。

彼、強いては彼が代表を務める工房の力が必要になったスピカ。しかしその工房はある男に乗っ取られていた。(8章へ続く)

名前:花圃の魔女(本名不明)

性別:女

年齢:23歳

身長:159センチ

アークトゥルスの元仲間。手下を従えて群れるのが好きなお局気質の女性。

平和に暮らしていたアークの元に突然現れた彼女は、魔女である者は決して逃れられない"悲運"を告げる。(9章へ続く)

名前:(左から)ミモザ=クルス、ポルックス=ジェミニ、リギル=ケンタウルス

性別:女、男、男

年齢:7歳、10歳、10歳

身長:120センチ、139センチ、148センチ

ビエラの友達。いずれも喋れず身元不明なビエラを変に思わず、分け隔て無く受け入れる豊かな心を持つ。

公園である小動物を拾ったビエラは3人にどうするべきか相談する。それがキッカケとなり、子供達4人だけの小さな冒険が幕を上げる。(10章へ続く)

名前:デネボラ=レオ

性別:女

年齢:24歳

身長:166センチ

小さな喫茶店を経営する若き商売人。オシャレでギャルっぽい見た目だが、性格は実直で働き者。

先輩の手伝いで第13居住区にやって来たスピカ。そこでデネボラと偶然出会い話に華を咲かせていると、突如ある男が乱入して来て大混乱を巻き起こす。(11章へ続く)

名前:ミアプラキドゥス=カリーナ

性別:女

年齢:26歳

身長:148センチ

行方不明のカリーナ四姉妹の次女。子供の様に小柄で遊び人気質。

全国民が対象となる年に一度の健康診断。それが始まるとほぼ同時に、何故か行方不明者が続出し始めた。その事件にはどうやらミアが関係している様で……(12章へ続く)

名前:ベガ=リラ

性別:女

年齢:52歳

身長:155センチ

コスモス1の名医と言われる三賢人の1人。おっとりゆったりした立ち居振る舞いで、誰しも初めは癒し系の印象を受けるが、その本性は……

ずっと探していたベガを遂に見つけたスピカ。しかし彼女はコスモスの地下に隠された、恐ろしい闇に深く関わっていた。(13章へ続く)

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