2節
文字数 2,505文字
「何で連れて来んだよ!
交番に預けろよ!」
「この近くに交番は無いんだ。
団長の私が持ち場を離れる訳にもいかないし、しばらく一緒に来て貰うしかない。」
「放っとけば誰か他の奴が助けるだろ!
こんなにいるんだから!」
「最近この辺は治安が悪いって言っただろ。
そんな場所に放置なんてできない!」
ここに居る仲間の誰かが交番まで連れて行ってくれれば、それが1番良いのだが……
リゲルがそう提案した瞬間、仲間達は一斉に目を逸らす。
よく見れば彼らは二十歳前後の若い男ばかり。しかもリゲルを除き全員チャラい。
女性の扱いは慣れてそうだが、子供の扱いが得意そうな者など見当たらない。
団員達が互いにお前が行けと押し付け合っていると料理店の扉が開いた。キタルファ達が昼食を終えて出て来たのだ。
彼らは車に乗り込むと次の場所へ向かえとリゲル達に指示する。
どうやらビエラのことを議論している時間は無い様だ。仕方なくドゥーべが運転する車にリゲルと一緒に乗せる事になった。
移動中、まだ不安そうな表情のビエラにリゲルは優しく話しかける。
「安心してくれ。さっきも言ったが私達、星騎士団はこの国の人を護るのが使命だ。
1000年も前から存在する歴史と実績ある組織なんだ!」
「ォ━━(#゚Д゚#)━━!!」
「”かつては”だけどな。
今は金でコキ使われる、ただの便利屋だ。」
「確かに資金繰りが厳しいのは事実だが……それでも志は変わってない!」
美形のリゲルにそれっぽい事を言われてビエラは少し安心した様子。少しは信頼してくれた様なので改めて親の名前や住所を訊く。
が、何故かビエラは困った顔を浮かべるだけ。身振り手振りで何かを伝えようとしているが、それだけでは意図が分からない。
「その子、もしかして喋れないんじゃないか?」
「多分そうだな……
ドゥーべ、紙とペンを持ってないか?」
「俺がメモ帳常備してるタイプだと思うか?」
「私も持って来なかったな……」
そこら辺でパッと買って来たいところだが移動中も警護は継続中だ。ちょっとだけでも警護対象から離れるのはマズイだろう。任務が終わるまでは控えるしかない。
リゲルがそんな事を考えていると、突然ビエラが彼の方に向かって手を伸ばし始めた。その手はリゲルが腰に差しているピストルに向かっていた。
気付いたリゲルは慌ててピストルをビエラから隠す。
「おっと!
危ないから触っちゃダメだよ。」
「( ´・ω・`) ショボーン」
「危ない?嘘つけよ。
射程20メートルしかない麻酔銃だぞ。」
「それでも充分危ないだろ!
……そうだ!こっちの剣なら触って良いよ。斬れない様に刃を潰してあるから。」
「斬れない剣って……
改めて口にすると虚しいわ……」
この国は非武装を公約している。武力とみなされる強力な装備は保有する事はできない。
とは言っても、あまりにショボい。こんな装備で「人を護るのが使命だ」なんてお笑い草。まるで子供のごっこ遊びだ。
ドゥーべは自虐混じりで冷笑する。
「マジでヤバい奴が出たら、こんな武器でどうやって戦うんだか……」
「何言ってるんだ!
南の森の”例の場所”に出た悪魔を追い払ったのはドゥーべだろ?
もっと自信を持てって!」
「あれは多分、向こうが子連れだったから戦いたくなかっただけだ。
そう言えば……
その時のガキとコイツ、似てる様な……」
そんなグチを溢していると前を走っていた車が止まった。次の目的地に着いた様だ。
そこはとある衣類店。この店も非常に広く男性服、女性服、子供服、果てはペット服に至るまで多種多様な服が出品されている。
しかし前の料理店と同じく店内には客が誰も居ない。にも関わらず30人程の店員が店の前でお出迎え。
ここも完全に貸し切っているという事だろう。
「いらっしゃいませ!!」
キタルファ達が車を降りた瞬間、全店員が一斉に声を揃えて挨拶。同時に綺麗な45度のお辞儀をする。
皆若く垢抜けた美女揃い。これにはメイドを侍らせる王様気分で客人達はご満悦だ。
「ハッハッハ!壮観ですな!
流石はキタルファさんがオーナーを務める店。よく躾けていらっしゃる!」
「相当人件費に投資していらっしゃるのでは?」
「いやいや、ウチの労働者達は皆仕事熱心でね。
最低賃金で残業から休日出勤まで進んでしてくれるのですよ。」
「何と!?羨ましい!!
何か秘密が?」
「簡単な事です。
出版社にいくらか掴ませて、『ここが今一番人気の職場』だとか持ち上げる記事を書かせるんです。
すると勝手に人が集まって来る。そうなれば主導権はこっちのものです。」
多くの希望者が集まればそれだけ選考が厳しくなる。そして厳しい選考を潜り抜けた採用者は、”苦労して入った”という過程ができるから簡単には辞めない。
それでももし休みが無い事や残業代が出ない事に不満を漏らす奴にはこう言えば良い。『一番人気の職をクビになって、冴えない三流職に堕ちたいなら好きにしろ。』と。
殆どが『一番人気』のフレーズに惹かれて来た人間だ。人からどう見られるかを気にしてる奴は、この一言で面白い様に従順に従う。
キタルファは自慢げにそう話す。
「人気職で働けてる事を意識させる、所謂”やりがい搾取”という奴ですな!
いやぁ〜、実に賢い!」
「ハッハッハ!!
『人気』だ『憧れ』だとかのワードがバk……おっと失礼。若い人は大好きですからね。」
この裏話が後ろで聞こえていたリゲルとドゥーべは思わず顔をしかめる。
こんな奴らの下で働いている彼女達が哀れに見えて来る。
「ま、アレの護衛させられてる俺らも大差ねぇか。
な?団長?」
「……喋ってないで持ち場に着くぞ!」
ここでもリゲル達騎士団は外で待機だ。大人数で建物の入り口を封鎖する様に立つ。
しかし誰も彼も雑談したり、壁にもたれ掛かったりとダレ切っている。店の店員とは雲泥の差だ。
警護対象が鼻に付く金持ち連中となれば理解出来なくもないが……
リゲルが流石に注意しようとした時、突如店内から怒号が響いた。