10節

文字数 2,188文字

 1時間近く掛けてようやく片付けを終えた男達。
 しかしそれで即解放してもらえる訳も無く、なぜこんな事をしたのか聴取されるのだった。

「お金を探してた?
 お前達なぁ……
 落ちてる金を探す暇があるなら、ちゃんと働きなさい!」
「違ぇよッ!!
 ちゃんと俺達の金だ!!300万以上入ってるカバンだよ!!」

 なぜそんな大金を?持ち歩く金額としては多過ぎる。
 それに、とても金持ちには見えない見た目だが……

 警官の勘が何かを告げたか。質問でさらに深掘りされて行く。

「何で失くしたの?」
「ガキ共に隠されたんだよ!!」

「ガキって誰?どういう関係?」
「この車で運んでやったきゃ……ウグゥ!?」

 リーダーが仲間の口を咄嗟に塞ぐ。

 当たり前だがタクシー業にも許可が必要だ。
 許可など取れるはずもないボロ車を使ってるのだから、当然彼らは無許可操業。
 正直にビエラ達との関係を話してしまっては、それがバレてしまう。
 そうなれば警官は彼らに対し、更に疑惑を強めるだろう。

「ただの親戚のガキです。
 車に乗せて遊ばせてたら、イタズラで置いてた金を隠された。それだけです。
 見栄張りましたが、本当は数万程度なので気にしないで下さい。」
「……本当に?
 たかが数万の為に、あんなに散らかしてまで必死に探してたのか?」

「そうっす。」
「ほぅ……(怪訝の目)」

 明らかに納得してない様子の警官。しかしこれ以上問い詰めてもシラを切られるだけ。
 怪しいというだけで長時間の拘束も出来ないと判断する。

「身内間のトラブルだと言うなら介入はしない。
 ただし、失くした金を探してやる事もできない。盗難とは言えないからな。
 もしまだ探すと言うのなら迷惑な探し方はせず、隠した子供達にお願いして場所を教えて貰いなさい。」

 警官はそう注意し立ち去った。

 居なくなったのを確認した直後、リーダーは抑えていた感情を爆発させた。
 思い切り車の窓を殴り付け、ガラスにヒビが入る。

「ガキに訊けだ……?
 それが出来たら苦労しねぇんだよッ!!」

 破片が刺さり血塗れになる拳。
 しかし怒りで痛みなど感じないのか、リーダーは再び窓を殴ろうとする。

 もう一度殴ったら今度は完全に割れる。大きな音を立ててまた通報されたら大変だ。
 仲間が4人掛かりでリーダーを抑えつける。

「お、落ち着いてくれ……ッ!?
 アガリは諦めて、手持ちの金を可能なだけ掻き集めよう!!」
「そ、そうっすよ!
 2、30万ぐらいなら集められます!
 それで1日だけ待って貰いましょうよ!!」

 5人は急いで金を工面する為、走って大通りへと向かう。
 しかし路地裏を抜けた先で彼らは一様に足を止めた。
 その目線の先に居たのは……

「ウワッ!くっせぇ〜!!」
「ここまで上手くいくとはね。」
「少しは反省した、お兄さん達?」
「(`・∧・´) フンッ!」

 ビエラ達だ。彼女達はずっとバレないようにコッソリ男達の様子を窺っていたのだ。

「このガキ共ッ!!
 ノコノコ出てきやがってッ!!」
「止めろッ!!
 ここは大通りだ。人目に付き過ぎる!
 手荒なことしたら即しょっ引かれるぞ!!」

 一矢報いたいところだが今は金集めが優先。ビエラ達を無視して行こうとする男達。
 その時ポルックスの放った一言が彼らの足を再び止めさせた。

「お金の場所、教えて上げてもいいよ?」
「何……!?」

「ただし!今ここで謝れッ!!
 僕達を騙した事。脅かした事。リギルを殴った事。
 全部だッ!!」

「コイツら……ッ!?
 あれだけ嫌がらせしておいて、まだ仕返しし足りないってのか!?」
「凶悪過ぎだろッ!?
 どんな育てられ方してんだ!?」

「大袈裟だよ。ね?」
「オレらが見本にした人が相手だったら、もっと酷いぜ。」
「(。_。) ウム」
 
 謝るのが嫌なら別にいい。
 頑張って自力で見つければ?

 そう言い残し立ち去ろうとした時だった。
 ビエラ達の行手にリーダーの男が立ち塞がった。

 まさかブチギレて、人前であることなんてお構い無しに暴力を振る気では!?
 みんなを庇う様にリギルは一歩前に出て身構える!

 しかし男が取った行動は、そんな予想とは全く違う意外なものだった。

「すまなかったッ!!」
「(゜ロ゜) !?

「頼むッ!!
 あの金は絶対今日必要なんだッ!!
 今日アレを持って行かないと……終わっちまう……ッ!!」

 なんと男は公衆の面前で土下座をした。
 謝れとは言ったものの、そこまですると思っていなかった4人は動揺してしまう。

 何事かと通り掛かりの人が注目する。男の惨めな姿を嘲笑する者まで集まって来る。

「何だアイツ?子供相手に土下座してんぜ!」
「ププッ!ダッセェ〜!!」
「負け犬中の負け犬じゃん!
 おもしれぇ〜!ハハハッ!!」

 人が人を蔑み、愉悦する陰鬱な光景。それも関係のない奴が。
 醜悪だ。吐き気がする程気持ちが悪い。

 しかしこの状況を招いたのは他でも無い自分達。
 その事実に4人の心がギュッと締め付けられる。

「もう教えていいよな、ポル?2人も?」

「あ、ああ……」
「うん……」
「(。•́ - •̀。) シュン」

 お金を隠した場所をメモに記し男達に渡す。
 急いで金を取りに行く男達の後ろ姿を横目に、ビエラ達はその場を後にする。

 作戦は大成功!文句無しの完全勝利!
 やり返したいという心の闇は見事に晴れた!

 ……筈なのに、4人の心は思っていた程軽くはならないのだった。
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登場人物紹介

名前:スピカ=ウィルゴ

性別:女

年齢:27

身長:162センチ

この物語の主人公。

基本は優しい心の持ち主だが平和主義者というわけではなく、必要とあれば荒事も辞さない。

有り過ぎる行動力と小賢しい悪知恵が働く以外はごくごく普通の一般人。

名前:ビエラ

性別:女

年齢:?(見た目は7歳くらい)

身長:117センチ

準主人公。

何故か一切声を出すことが出来ない。その代わりなのか感情に合わせて動きを変える、アホ毛の様なもの(触覚?)が頭頂部から生えている。

性格は奔放で好奇心旺盛。なのにビビり。

名前:アクルックス=クルス

性別:男

年齢:30

身長:188センチ

大柄で逞しい体躯を持ち、素行には大人の落ち着きがある。愛娘が一人いて、名前は”ミモザ”。

彼と知り合ったことをきっかけに、スピカ達はとある猟奇事件に巻き込まれる。(2章へ続く)

名前:アークトゥルス=ボーティス

性別:女

年齢:18歳

身長:155センチ

やや素直さに欠けるが根は真面目で勤勉。このお話では貴重な十代女子。

農夫達からの依頼で農作物を荒らす魔女の解決に乗り出したスピカ。その正体がなんと彼女だった。(3章へ続く)

名前:アルタイル=アクィラ

性別:男

年齢:51歳

身長:175センチ

宇宙や世界の真理を探究する高明な学者。『三賢人』と呼ばれる3人の天才の一人。

彼がビエラに関する情報を持っていると聞いたスピカは、彼の働く学術院を訪れるが…(4章へ続く)

名前:カノープス=カリーナ

性別:女

年齢:28歳

身長:161センチ

おっぱい担当兼、物語の核心に絡む角の生えた美女。しっかり者だが若干天然が入っている。

ビエラと関係があるかもしれない謎の飛来物の調査に来たスピカ一行。そこで偶然彼女と出くわす。(5章へ続く)

名前:リゲル=オリオン

性別:男

年齢:28歳

身長:176センチ

女と見紛うレベルの超美形。それでいて中身も聖人君子の出木杉君タイプ。

仕事でとある人物の護衛の任についていた彼は、その過程で思いがけず"裏の人間"と邂逅する。(7章へ続く)

名前:デネブ=シグナス

性別:男

年齢:50歳

身長:168センチ

数々の名品を生み出してきた機工技師。アルタイルと並ぶ『三賢人』の一人。

彼、強いては彼が代表を務める工房の力が必要になったスピカ。しかしその工房はある男に乗っ取られていた。(8章へ続く)

名前:花圃の魔女(本名不明)

性別:女

年齢:23歳

身長:159センチ

アークトゥルスの元仲間。手下を従えて群れるのが好きなお局気質の女性。

平和に暮らしていたアークの元に突然現れた彼女は、魔女である者は決して逃れられない"悲運"を告げる。(9章へ続く)

名前:(左から)ミモザ=クルス、ポルックス=ジェミニ、リギル=ケンタウルス

性別:女、男、男

年齢:7歳、10歳、10歳

身長:120センチ、139センチ、148センチ

ビエラの友達。いずれも喋れず身元不明なビエラを変に思わず、分け隔て無く受け入れる豊かな心を持つ。

公園である小動物を拾ったビエラは3人にどうするべきか相談する。それがキッカケとなり、子供達4人だけの小さな冒険が幕を上げる。(10章へ続く)

名前:デネボラ=レオ

性別:女

年齢:24歳

身長:166センチ

小さな喫茶店を経営する若き商売人。オシャレでギャルっぽい見た目だが、性格は実直で働き者。

先輩の手伝いで第13居住区にやって来たスピカ。そこでデネボラと偶然出会い話に華を咲かせていると、突如ある男が乱入して来て大混乱を巻き起こす。(11章へ続く)

名前:ミアプラキドゥス=カリーナ

性別:女

年齢:26歳

身長:148センチ

行方不明のカリーナ四姉妹の次女。子供の様に小柄で遊び人気質。

全国民が対象となる年に一度の健康診断。それが始まるとほぼ同時に、何故か行方不明者が続出し始めた。その事件にはどうやらミアが関係している様で……(12章へ続く)

名前:ベガ=リラ

性別:女

年齢:52歳

身長:155センチ

コスモス1の名医と言われる三賢人の1人。おっとりゆったりした立ち居振る舞いで、誰しも初めは癒し系の印象を受けるが、その本性は……

ずっと探していたベガを遂に見つけたスピカ。しかし彼女はコスモスの地下に隠された、恐ろしい闇に深く関わっていた。(13章へ続く)

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