18節
文字数 2,701文字
「お邪魔しま〜す!」
「いらっしゃい、スピカ司祭!
いつものブレンドでイイ?」
「ええ、お願い。」
今回の騒動で何度もデネボラの店に顔を出していたスピカ。
もうすっかり常連となり、お決まりの席でお決まりのコーヒーを頼む。
コーヒーを待つ間、店のちょっとした変化に気付く。
「今日ちょっとお客さん多い?」
「エヘヘ!新聞に取り上げられたからね!」
ストロンガーセミナーが壊滅した事は新聞の一面を飾った。
オフィウクス商会絡みのネタはNGだったのだが、百人規模の逮捕者が出た事件は流石にスルーできない。という判断が下されたのだ。
その記事の中で、何かとお騒がせの”奇蹟を呼ぶ女司祭(スピカ)”が、また絡んでいたと記載されていた。
そしてその女司祭の協力者として、とある喫茶店のマスター(デネボラ)についても触れられていた。その喫茶店が活動拠点となった事もだ。
すると、”噂の女司祭行きつけの店”と言う事で注目が集まり、足を運んで来る人が増えたのだ。
「スピカ司祭のお陰だよ〜!
でも同じ話題はいつまでも続かないから、今が正念場なんだ。
いい仕事してリピーター増やさなきゃ!」
「頑張ってね!応援してる!」
「ウン!頑張る!
……それで今日はどうしたの?お休み?」
「お金返そうと思って。
ほら、例の実技講習の時、お金返すのに自腹で50万出したでしょ?」
「ああ〜っ!忘れてた!!
聴いてるよ。アクベンス司祭長が中心になってお金返してるんだよね?」
「ええ。
私も今日取られた300万返してもらって、その帰りなの。」
今回の事件、被害者も加害者も相当数いる。
当然、後処理は困難を極めている。
誰が誰からいくらの金を奪ったのか?
今すぐ返せる金はいくらで、誰から優先して返すべきか?
それらの整理と今後の計画。それを誰かが中心になって進める必要があった。
その役に名乗り出たのがアクベンスだ。
騒動の中心地となったのは13区。そうなった原因の一端は自分にもある。
そう強く主張し早速動き出していた。
あれから1週間が経ち、優先度の高いものから返済が始まった。
その第一弾として、事件解決の立役者であるスピカとデネボラが選ばれたのだ。
「ただ、マルフィクの隠し金庫から回収できたお金じゃ全然足りないんだって。
随分贅沢してたみたいだから、殆ど使っちゃってたんでしょうね。
だから足りない分は真っ当な仕事で稼いで、少しずつでもちゃんと返させるって言ってたわ。」
「それも司祭長が管理するの?
大変……なんてレベルじゃなくない?」
「あの人なら1人でもやり切りそうだけど、星教会がバックアップする事になってるわ。
教会はあまり仕事無くて暇だから、ちょうど良いんじゃない?」
「そっか!
収束に向かってるみたいで良かった!」
「収束すればいいけど……
一度壊れた倫理観は簡単には直らないわ。
返済が嫌になって、また同じ事するバカが出て来そうなんだよね……」
「大丈夫だよ!
アルファルドだって最後には改心してくれたじゃん!
だからパーティ会場の場所わかったんだし!」
「あ〜……、それなんだけど……
実はね、彼が場所を教えてくれた訳じゃないの。」
「エッ!?どういう事!?」
アミュレットを持つ者同士でテレパシー通話ができる奇蹟の技『星心』。
実はこの技、電話の様に誰でもいつでも使える程便利ではない。
まず最初に技を使える者が自分専用のアミュレットを持って、通話相手とコネクションを繋がなければいけない。
あの時、スピカは自分のアミュレットをアルファルドに渡していた。
手元に自分のアミュレットがないので、そもそもテレパシー通話ができない状態だったのだ。
「じゃあ、何で場所がわかったの?」
場所を特定する為に使ったのは別の奇蹟の技『星引』だ。
自分のアミュレットを磁石の様に引き寄せる、引力を生む技。たったそれだけの効果だが、ちょっとした応用が効く。
引力とは互いに引き合う力の事。
つまり技を使ってる本人もアミュレットの方へと引っ張られる感覚がある。
例えアミュレットが動かせない状態に置かれていも、引っ張られる感覚を頼りに場所の特定は可能なのだ。
だからスピカはアミュレットがある場所。
即ち、アルファルドの居場所(パーティ会場)が分かった。という訳だ。
「信者用アミュレットを渡して、『星心』で場所を教えて貰う方法もあったわ。
でも私はアルファルドを信じられなかった。最後までマルフィクを裏切れないだろうと思った。
だから私のアミュレットを渡して『星引』を使う方法をとったの。」
「じゃあ彼は結局、改心してないって事?」
「そうとも言い切れないわ。
だって、少なくともアミュレットを手放さなかったんだから。」
改心する気が微塵も無かったのだとしたら、アミュレットをすぐに捨ててしまう事もあり得た。
しかし彼は捨てなかった。パーティ会場までアミュレットを持ち続けた。
それだけで改心した根拠にはならないが、少なくとも迷いはあったと言えるだろう。
「それに会場でアミュレットを回収しに行った時、彼は私を見て驚かなかった。
もしかすると言われた通り、場所を念じていたかも知れないわね。」
「だとしたら騙してちょっと悪い気がするね……」
「それは仕方ないわよ。
人の信用を無くす様なことばっかしてたんだから。
……まぁ、ちょっとは見直して上げるけど。」
アルファルドがアミュレットを捨てなかったのは、アクベンスの涙ながらの説得の賜物と言えるだろう。
強いては彼が駆け付けるキッカケを作った手紙のお陰。それが無ければ完敗だった。
そしてその手紙を出したのは敵の1人であるケバル。
何を企んでいるのか分からないが、彼の掌の上で踊らされている感じが拭えない。
釈然としない勝利で、素直に喜べないスピカだった。
「それにしても気持ち悪い相手だったわ……
直接攻撃して来ないどころか、顔すら見せないんだもん。
詐欺師ってやっぱり最低の人種ね。」
「でも、マルフィクを見つけてからは圧勝だったじゃん!
スピカ司祭ってメチャクチャ強いんだね!!
柱叩いた時の音とか私もビックリしたもん!」
「あれは単に音を大きくしただけよ。
音を自在に録音して、音量調整も可能な技『星音』の応用ね。
腕力は平均レベルよ。」
「エ……?
じゃあもし脅かしが効かなかったら、どうしてたの……?」
「フッ……、いい事教えて上げるわ。
ハッタリかます時のコツはね、何も考えない事よ!(キメ顔)」
「そ、そうなんだ……
(この人が1番の詐欺師かも……)」
ーーーー 第11章『弱者の王』 完 ーーーー