3節

文字数 1,580文字

 その部屋は壁一面が本で埋め尽くされていた。天井は遥か頭上にあり、部屋の中央を中心として大きな円を描く螺旋階段がある。どうやらここは外からも目立っていた塔の部分の様だ。
 アルタイルはこの部屋の最上階に居る。それだけ告げると受付のおばさんはドアを閉めて帰ってしまった。

(付いて来てくれないんだ……)

 言われた通り階段を登って上を目指す。
 最悪な事にここでも呻き声の様な声が聞こえる。階段を登るにつれてその声ははっきり聞き取れるようになる。

「ハァ……ハァ……
 あああああぁっうううええゔぇえぇぇぅぅーーーー!!!!!」

 最早これは呻き声というより奇声だ。
 聞き取れる様になった事で逆に異常性が露わになり恐怖は増長する。ビエラと身を寄せ合いながら一歩一歩階段を登る。

 遂に最上階に辿り着いた。
 最上階はそれだけで1つの部屋の様になっており、ここにも大量の本が所狭しと敷き詰められている。床には奇怪な文字?記号?が書かれた紙が足の踏み場が無い程散乱している。

 そして一際目を引く巨大な筒状の機材。望遠鏡だろうか?
 スピカはその裏側に人の姿を捉える。

「グギガガァァウウイイィ!!」

 この人物が奇声の主。もといアルタイル。
 皺くちゃのシャツを腕捲りし、机に向かいながら何やら一心不乱に書き込んでいる。

「すみません、アルタイル教授ですよね?
 少しお話をさせて頂けませんか?」

 スピカの控え目な問い掛けでは聞こえなかったのか、そのペン先が動きを止める事はない。
 声のボリュームを上げて何度も声を掛けるが、どれだけ声を張っても結果は変わらない。凄まじい集中力だ。

「話をするのは難しいって、こういう事か……」

 横からそっと顔を伺う。
 50代くらいのお爺ちゃん一歩手前の男性。ノートを凝視する目は充血し濃い隈も出来ている。スピカが横に廻ってもまだ気付かない。

 今度は思い切って肩を叩く。

「あああああああぁぁぁーーーーーーッッッ!!!」
「うわぁぁぁぁ!ごめんなさいッ!!」



 アルタイルは突如叫びながら立ち上がった。
 怒られると思い身を丸めたスピカだったが、彼はスピカを気にも留めず散乱した本と紙の海にダイブする。
 大量の資料を掻き分けて何かを探している様だ。スピカはお探しの物があるなら手伝いましょうか?と言う気遣うが、やはりその声は届かない。

 もう落ち着くまで待っているしかない。
 適当なスペースを見つけ座って待っていると、暇を持て余したビエラがウロウロし始め勝手に部屋の物を触り出す。
 これだけグチャグチャならちょっとぐらい触っても分からないから別にいいか。そう思って自由にさせていると、何かを見つけたビエラは手に取ったものをスピカに見せる。

「それは……、星教のアミュレット?」
「ファぁぁァァッ!!」
「∑(゚Д゚)!!」

 アルタイルがビエラを見ながら奇声を上げる。そして気味の悪い独特のフォームでダッシュしながらビエラに迫る!
 当然逃げるビエラ。2人は部屋の中をグルグルと周り出す。

 止める間も無くビエラは下へと降りる階段に逃げ込み、アルタイルもそれを追う。
 転がり落ちる様に階段を下る2人。幸か不幸かその速度はほぼ同じで付かず離れずの追走劇が続く。

 最下層まで降りたビエラは入り口のドアを開けようとするが、重たい扉はビエラの力ではなかなか開かない。
 モタモタしているうちにアルタイルがすぐ背後に迫り、ビエラに襲い掛かる。

「マああぁぁァァッ!!」
「ヒィーーー(ノ)ºДº(ヾ)ーーー!!!!!」

[ゴスッ!!]

 突如鈍い音が部屋中に響いた。
 直後、その場に倒れ込むアルタイル。
 その背後には分厚い本を握ったスピカが立っていた。

「ビエラ様に何すんじゃ、ゴラァ!」
「…………」

 反応が無い。ただの屍の様だ。

「……殺っちゃった!(テヘッ!」
「ヒィーーー(ノ)ºДº(ヾ)ーーー!!!!!」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

名前:スピカ=ウィルゴ

性別:女

年齢:27

身長:162センチ

この物語の主人公。

基本は優しい心の持ち主だが平和主義者というわけではなく、必要とあれば荒事も辞さない。

有り過ぎる行動力と小賢しい悪知恵が働く以外はごくごく普通の一般人。

名前:ビエラ

性別:女

年齢:?(見た目は7歳くらい)

身長:117センチ

準主人公。

何故か一切声を出すことが出来ない。その代わりなのか感情に合わせて動きを変える、アホ毛の様なもの(触覚?)が頭頂部から生えている。

性格は奔放で好奇心旺盛。なのにビビり。

名前:アクルックス=クルス

性別:男

年齢:30

身長:188センチ

大柄で逞しい体躯を持ち、素行には大人の落ち着きがある。愛娘が一人いて、名前は”ミモザ”。

彼と知り合ったことをきっかけに、スピカ達はとある猟奇事件に巻き込まれる。(2章へ続く)

名前:アークトゥルス=ボーティス

性別:女

年齢:18歳

身長:155センチ

やや素直さに欠けるが根は真面目で勤勉。このお話では貴重な十代女子。

農夫達からの依頼で農作物を荒らす魔女の解決に乗り出したスピカ。その正体がなんと彼女だった。(3章へ続く)

名前:アルタイル=アクィラ

性別:男

年齢:51歳

身長:175センチ

宇宙や世界の真理を探究する高明な学者。『三賢人』と呼ばれる3人の天才の一人。

彼がビエラに関する情報を持っていると聞いたスピカは、彼の働く学術院を訪れるが…(4章へ続く)

名前:カノープス=カリーナ

性別:女

年齢:28歳

身長:161センチ

おっぱい担当兼、物語の核心に絡む角の生えた美女。しっかり者だが若干天然が入っている。

ビエラと関係があるかもしれない謎の飛来物の調査に来たスピカ一行。そこで偶然彼女と出くわす。(5章へ続く)

名前:リゲル=オリオン

性別:男

年齢:28歳

身長:176センチ

女と見紛うレベルの超美形。それでいて中身も聖人君子の出木杉君タイプ。

仕事でとある人物の護衛の任についていた彼は、その過程で思いがけず"裏の人間"と邂逅する。(7章へ続く)

名前:デネブ=シグナス

性別:男

年齢:50歳

身長:168センチ

数々の名品を生み出してきた機工技師。アルタイルと並ぶ『三賢人』の一人。

彼、強いては彼が代表を務める工房の力が必要になったスピカ。しかしその工房はある男に乗っ取られていた。(8章へ続く)

名前:花圃の魔女(本名不明)

性別:女

年齢:23歳

身長:159センチ

アークトゥルスの元仲間。手下を従えて群れるのが好きなお局気質の女性。

平和に暮らしていたアークの元に突然現れた彼女は、魔女である者は決して逃れられない"悲運"を告げる。(9章へ続く)

名前:(左から)ミモザ=クルス、ポルックス=ジェミニ、リギル=ケンタウルス

性別:女、男、男

年齢:7歳、10歳、10歳

身長:120センチ、139センチ、148センチ

ビエラの友達。いずれも喋れず身元不明なビエラを変に思わず、分け隔て無く受け入れる豊かな心を持つ。

公園である小動物を拾ったビエラは3人にどうするべきか相談する。それがキッカケとなり、子供達4人だけの小さな冒険が幕を上げる。(10章へ続く)

名前:デネボラ=レオ

性別:女

年齢:24歳

身長:166センチ

小さな喫茶店を経営する若き商売人。オシャレでギャルっぽい見た目だが、性格は実直で働き者。

先輩の手伝いで第13居住区にやって来たスピカ。そこでデネボラと偶然出会い話に華を咲かせていると、突如ある男が乱入して来て大混乱を巻き起こす。(11章へ続く)

名前:ミアプラキドゥス=カリーナ

性別:女

年齢:26歳

身長:148センチ

行方不明のカリーナ四姉妹の次女。子供の様に小柄で遊び人気質。

全国民が対象となる年に一度の健康診断。それが始まるとほぼ同時に、何故か行方不明者が続出し始めた。その事件にはどうやらミアが関係している様で……(12章へ続く)

名前:ベガ=リラ

性別:女

年齢:52歳

身長:155センチ

コスモス1の名医と言われる三賢人の1人。おっとりゆったりした立ち居振る舞いで、誰しも初めは癒し系の印象を受けるが、その本性は……

ずっと探していたベガを遂に見つけたスピカ。しかし彼女はコスモスの地下に隠された、恐ろしい闇に深く関わっていた。(13章へ続く)

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み