8節
文字数 1,847文字
突如ビエラからカメラのフラッシュの様に鋭い閃光が放たれた。視界が一瞬、白一色に染められる。
たった一度の瞬き。1秒にも満たない刹那の後、目の前の景色が一変した。
まるで最初から何も無かったかの様に、火球が一片の跡形も無く消え去っていたのだ。
「カノーお姉ちゃんの魔法を掻き消した……!?」
「相殺……?
いや、違う!音も衝撃も、何もしなかった!?」
あれだけのエネルギーの塊が周りに何の影響も与える事なく消えるなんて考えられない。
相殺でも、反射でも、吸収でもない。
そう、これはまるで……
「天罰……!?」
カノーが呟く。
バースと霊峰を瞬時に丸ごと消した鉄巨人の『天罰』。目の前で起きた現象は規模こそ小さいが、伝え聴くそれに酷似している。
その場に居た全員が呆気に取られる中、ビエラが泣きながらスピカに走り寄り抱き着く。
「。゚(゚´Д`゚)゚。 ウエーン!!」
「ヨシヨシ、怖かったですね。
……あ!ヤバい!!」
ビエラのアホ毛が天向かって直立し、キーンという甲高い音を響かせ始めた。
という事は来る!”アレ”が!!
スピカがキョロキョロと空を見渡し、大声で叫ぶ。
「カノーさんッ!上ッ!
上に注意して下さいッ!!」
「上?」
全員釣られてスピカが指差す空を見る。
そこには星々より明らかに強く光る何かが見えた。
それはみるみる光量を増していく。
近付いて来ている。そう理解した時には既にそれはカノーを直撃していた!
「カノーお姉ちゃんッ!!」
思わずアスピが叫ぶ!
この隕石は過去アビィという悪魔の腕を消し飛ばした。
それをモロに受けたという事は……
最悪の事態が頭を過ぎり、青褪めた表情を浮かべるアスピ。
だが流石は歴代最強を自認していただけはある。なんとカノーは隕石を素手で、しかも片手で受け止めていた!!
しかし、決して無傷という訳では無かった。
カノーはキャッチした隕石を足元に捨てると、自身の掌を見つめて戦慄する。
「焦げた……!?
マグマにすら耐える私の手が……!?」
手に走るヒリヒリとする感覚。
初めての火傷の感覚に手を震わせているカノーにスピカが大声で警告する。
「次来ますッ!!」
「ッ!!?」
空を睨むと先程と同じ光の点が幾つも見えた。
4つ、5つ、6つ……尚も増え続ける!
またあの隕石が来る!しかも連続でッ!!
〈ハアアアァァッッッ!!!〉
カノーは次々と降り注ぐ隕石を拳と蹴りで弾き返して行く。しかし受ける度に四肢は傷付いていく。
しかも文字通り息つく間もない隕石の雨。呼吸すらままならず、みるみる体力を削られていく。
(このままじゃ耐え切れない……!!
こんなところで使いたくはないけど、”あの力”を解放するしか……ッッ!!)
隕石の数が50を超えた頃、何かを決心した様にカノーの目つきが変わった。
しかしその瞬間、まるでその変化を察したようにパタリと隕石が降り止んだ。
何とか耐え切った彼女は片膝を付き、激しく息を切らす。
「ハァ……ッ!ハァ……ッ!
あ、危なかった……
私がここまで追い込まれるなんて……」
「カノーさん、大丈夫ですか!?
すみません、ビエラ様がちょっとやり過ぎちゃって!!」
スピカの声がしたのは頭上だった。隕石に対処に手一杯だった内に上空に逃げていたのだ。
このまま行かせはしないと疲労困憊の身体を起こし再び構えるカノー。そんな彼女にスピカは話し続ける。
「本気出したらきっともっと凄いですよ!
これでビエラ様なら鉄巨人も倒せるって信じて貰えました?
今は上手くコントロールできないですが、ちゃんと使いこなせる様にしてみせます!
そしたら……」
スピカは大きく息を吸い、一際大きな声で叫んだ。
「一緒に戦いましょう!”約束”ですッ!!!」
「ッ!?」
その後、アークは急いで霧の中に飛び込み身を隠した。
街に着くまで背後に注意し続けたが、結局カノーは追って来なかった。
何故急に諦めたのか?
姿を見失ったからか?或いはビエラの力を恐れたからか?
それとも……
『一緒に戦いましょう!約束ですッ!!』
スピカのこの言葉を聴いた時、カノーの表情が揺らいだ様に見えた。
アークはあの表情を見た時、ふと過去の自分と重なった。スピカに「助ける」と言われた時の自分と。
あれは全てを諦めていた時に、不意に希望を与えられた時に見せる顔だ。
カノーはスピカとビエラに一抹の希望を見出したのかもしれない。
勝ち目のない神との戦いに……