異聞(後編)
文字数 1,428文字
弱みを握って奴隷化。
或いは四肢を削ぎ、目を潰し、薬漬けにして廃人化。
他にも埋める、沈める、焼く、固める、……
とにかく2度と女が自分達に歯向かえない様にする事。それを最初にできた者が次期会長だ。
ラサルハグェはそう話す。
「マジで言うとんのか、オヤジ?
そんなんでエエなら、すぐ決まってまうぞ。」
「アイツらにボコられた奴が何言うとんねん。」
「そ、それは……!?
敵が人外やて知っとたら本気出しとったわ!!」
「お前の本気なんて、どうせ集団で襲い掛かるだけやろ。
そんなもん手下総動員しても意味無いわ。」
ケバルはそう簡単な相手じゃないと諭す。
下手に手を出せば倍返し。それどころか、自分達が全滅させられる事もあり得る。
それだけの戦力を持っている相手だと思え、と警告する。
いくら何でもそれは言い過ぎだ。
普通ならそう言うところだが、ケバルの危機察知能力の高さはサビクも知っている。流石に下手な冗談で片付けようとは思わなかった。
[随分相手を買っとるな、ケバル。
そう言うお前はどうするつもりなんや?]
「手は考えとる。
目には目をってやつや。人外には人外をぶつけるのが一番やろ。」
[”夜宴”……か?]
「せや。」
“夜宴”というフレーズが出た瞬間、サビクの目が見開いた。
名前だけで身構えてしまう程の危険な何か、という事だろう。
「おいおい、あのアマ共を頼るんか?
めっちゃ本気やんけ……」
「当たり前や。会長の座が掛かっとるんやからな。
出し惜しみはせん。」
[……エエやろ。やり方は問わん。
だが奴らの魔性に魅入られん様にな。]
「分かっとる。
もう女遊びで火傷する程ガキやない。」
この事は既に他の3人の子供にも伝えている。報復レースのスタートは既に切られた。
ラサルハグェは最後にこう締め括る。
[お前達がそれぞれどう動くか、じっくり拝見させて貰う。
オフィウクスの血に恥じぬ働きを見せい。
……(プツッ)]
電話が切れたのを確認したサビクは恐る恐るケバルに話し掛ける。
「ケバル兄、1個訊きたいんやがエエか?」
「ん?
しゃあないな。特別やぞ。」
「ホテルぶっ壊したんはホンマにあの2人なんか?
確かにあれはバケモンやったが、あそこまでの事ができるとは思えん。
あの2人以外にもなんかエグい仲間がおったんちゃうか?」
この質問に対してケバルは一瞬目つきを尖らせた。
また怒らせたと動揺したサビクだったが、ケバルはすぐに表情を崩して笑う。
「ハッハッハ!
お前もチョットは考える様になったんやな!兄貴として嬉しいで!」
「バッ……!?
バカにし過ぎやぞ!舐めんなや!!(照)」
「エエとこに気付いたが、残念ながらハズレや。
あの女の手駒は”獣の男”と”人形使いの小娘”だけ。
あの2人が合体技みたいなん出しよってな。その結果があれや。」
「そんなんできたんかアイツら!?
ほな、2人揃っとる時は手ェ出せんな……」
(いや、あっさり信じんのかい……
やっぱまだまだアホやな、コイツ。)
どうやらサビクも会長の座を狙ってない訳ではない様だ。
どう攻めるべきか。使い慣れない頭を使って、ブツクサ言いながら部屋を出て行った。
空っぽになった部屋でケバルはカーテンを開ける。
夜の街を見下ろしながら彼は唇の端を吊り上げた。
(ホンマにヤバいんは司祭の女でも、連れの人外2人でもない。
それを知っとんのは俺だけ。
この状況、上手い事利用せんとな!)