15節

文字数 2,120文字

 花圃を捕らえ、葬儀場に戻って来たアークとビエラ。
 そこではあまりに恐ろしい所業が行われていた。

「さぁ、もう1発行くわよ。
 強めに行くから歯食い縛りなさい。」

「イ、イヤ……!!
 止めて……!!」
「反省してるッ!反省してるからッ!
 ホントに痛いのソレ!!」

「勘違いしないで。私は反省して欲しいんじゃないの。
 ただ……
 お前らの悲鳴が聞きたいのよ!!(クワッ!)」

「狂ってる……!
 この女狂ってる……ッ!?」

 花圃の取り巻き達が全員泣きながら許しを乞っている。
 怯え方が普通じゃない。一体何をしたというのか……

「(。•∀•。)ノ タダイマ!」
「あ、お帰りなさい。」

「何してるんだ、スピカ?」
「おしおきのデコピン。」

[ペチンッ!]

「ぐぎゃゃァァーーーーッッ!!?」

 ただのデコピンの痛がり方じゃない……
 また妙な秘術でも使っているのだろうか?
 次々と断末魔を上げ倒れていく様は、まるで集団処刑だ。

「よし!次はお前だ、淫乱ピンク!!」
「コイツはもういい。
 既にボロボロだからな。」

 もう暴れる気力すらないといった感じの花圃。
 すっかり大人しくなった彼女だが、どうしても納得出来ない事があった。

「何であんなデカい人形を動かせたの……?
 たった2日で、どうやってそれだけの魔力を……」
「別に何もしてない。
 今のワシは普通に生活してるだけで魔力が補給できる。」

「ウソよ!
 私達魔女は人間の願いを叶えなきゃ魔力を得られない。それは絶対ルールのはずよ!」
「そうだ。
 だからワシには”ただ生きていて欲しい”と願ってくれる人がいる。
 ここの人達がそうだ。」

 初めにそう願ってくれたのはハマルだった。
 ハマルには農作業で手伝って欲しい事がある度に、それを魔導書に書いて貰っていた。
 だがある時、特に手伝って欲しい事が無かったのか彼女は冗談で、「元気で居てくれるだけで良い」と書き込んだ。
 それを見た他の農夫達も同じ様な事を書き込んだ。

 その日からアークは何もしてなくても徐々に魔力が溜まる様になった。
 初めは微量だったが農夫達の信頼を得るにつれて補充量も増えていき、今では2日もあれば魔力をフルチャージできる様になったのだ。

「あり得ないッ!!
 そんな自分に何の得もない事を、本気で願う人間なんている筈ないッ!!」
「願いを叶え終えた人間は用済みだからって片っ端から殺してれば、誰ともそういう関係を築けなくて当然だ。」

「好きで殺してる訳じゃないわよ!
 殺しておかなきゃ、こっちが危ないから仕方なく殺してるの!!」

 意味無く殺しなんてする訳ない。魔導書の秘密を知られない為に必要だから我慢して殺っている。
 殺す事にいちいち罪悪感なんて覚えていたら頭がおかしくなるから、平気なフリをして考えない様にしているだけ。
 心の無い殺人狂みたいに言うな!

 ヒステリースイッチが入った花圃の不平は止まらない。
 
「みんなそうよ!
 みんな我慢してこのやり方に従ってる!
 なのに何で、我慢から逃げたお前だけが得してんのよ!
 おかしいでしょッ!!」

 声を荒げる花圃の声は僅かに震えていた。
 それは自分達を否定するアークへの純粋な怒りから来るものか。
 それとも誰も手にできなかった理想を手にした、アークへの嫉妬から来る震えだろうか。

 その時、突然ビエラが花圃に近付き……

「( •ω•)ノ“ ナデナデ」
「なッ……!?」

 一言の反論も許さないレベルで荒れていた花圃のヒステリースイッチが急に切れた。
 これもビエラの不思議な力のひとつ……
 ではなく、ただ単に子供に慰められて恥ずかしさが込み上げて来ただけだろう。

 少し落ち着いたのを見計らいスピカが説き伏せる。

「あなたのは我慢とは言わないわ。
 “妥協”って言うのよ。
 楽な道に逃げたのはアークかあなたか、ホントにわからないの?」
「チッ……!」

 1人で怒ってる自分が馬鹿らしくなったか。花圃は何も言い返さなかった。もう言いたい事は無さそうだ。

「終わったんなら転送石出せ。
 持ってるだろ?夜宴の本館行きのヤツ。
 それで強制送還してやる。」

 アークは花圃の身体を探り転送石を見つけると、敵を全員1箇所に集めた。
 そこに石を投げ込むと、石が紫のオーラを放ち始める。
 転送が始まる前にアークは最後の忠告をする。

「さっきも言ったが、もう二度とワシらに関わるな!他の奴らにも伝えとけ!
 今度ちょっかい出して来たら、次は寸止めじゃ済まないからな!」
「フフ……
 それは無理ね。」

「お前、まだ懲りて……!」
「アークはともかく、そこの聖職者さんは近いうちにまた夜宴と関わるわ。
 星教の若い女司祭ってあなたの事でしょ?」
「私?」

「私が焦ってアークを連れ戻そうとしたのは、近々あなたを狙ってあの人が来るって知ったからよ。
 夜宴館長の『迷宮の魔女』がね。」
「なに!?」
「(・ω・) ダレ⁇」

「彼女が動くなんて余程の太客から依頼があったのね。
 一体誰を敵に回したのかしら?
 まぁ精々気を付ければ。無駄だと思うけど。
 キャハハハ……」

 そう言い残し花圃達の姿は消えた。

「”迷宮”が来る……
 また面倒になりそうだな……」
「ま、何とかなるでしょ。
 それよりお葬式再開しましょ!」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

名前:スピカ=ウィルゴ

性別:女

年齢:27

身長:162センチ

この物語の主人公。

基本は優しい心の持ち主だが平和主義者というわけではなく、必要とあれば荒事も辞さない。

有り過ぎる行動力と小賢しい悪知恵が働く以外はごくごく普通の一般人。

名前:ビエラ

性別:女

年齢:?(見た目は7歳くらい)

身長:117センチ

準主人公。

何故か一切声を出すことが出来ない。その代わりなのか感情に合わせて動きを変える、アホ毛の様なもの(触覚?)が頭頂部から生えている。

性格は奔放で好奇心旺盛。なのにビビり。

名前:アクルックス=クルス

性別:男

年齢:30

身長:188センチ

大柄で逞しい体躯を持ち、素行には大人の落ち着きがある。愛娘が一人いて、名前は”ミモザ”。

彼と知り合ったことをきっかけに、スピカ達はとある猟奇事件に巻き込まれる。(2章へ続く)

名前:アークトゥルス=ボーティス

性別:女

年齢:18歳

身長:155センチ

やや素直さに欠けるが根は真面目で勤勉。このお話では貴重な十代女子。

農夫達からの依頼で農作物を荒らす魔女の解決に乗り出したスピカ。その正体がなんと彼女だった。(3章へ続く)

名前:アルタイル=アクィラ

性別:男

年齢:51歳

身長:175センチ

宇宙や世界の真理を探究する高明な学者。『三賢人』と呼ばれる3人の天才の一人。

彼がビエラに関する情報を持っていると聞いたスピカは、彼の働く学術院を訪れるが…(4章へ続く)

名前:カノープス=カリーナ

性別:女

年齢:28歳

身長:161センチ

おっぱい担当兼、物語の核心に絡む角の生えた美女。しっかり者だが若干天然が入っている。

ビエラと関係があるかもしれない謎の飛来物の調査に来たスピカ一行。そこで偶然彼女と出くわす。(5章へ続く)

名前:リゲル=オリオン

性別:男

年齢:28歳

身長:176センチ

女と見紛うレベルの超美形。それでいて中身も聖人君子の出木杉君タイプ。

仕事でとある人物の護衛の任についていた彼は、その過程で思いがけず"裏の人間"と邂逅する。(7章へ続く)

名前:デネブ=シグナス

性別:男

年齢:50歳

身長:168センチ

数々の名品を生み出してきた機工技師。アルタイルと並ぶ『三賢人』の一人。

彼、強いては彼が代表を務める工房の力が必要になったスピカ。しかしその工房はある男に乗っ取られていた。(8章へ続く)

名前:花圃の魔女(本名不明)

性別:女

年齢:23歳

身長:159センチ

アークトゥルスの元仲間。手下を従えて群れるのが好きなお局気質の女性。

平和に暮らしていたアークの元に突然現れた彼女は、魔女である者は決して逃れられない"悲運"を告げる。(9章へ続く)

名前:(左から)ミモザ=クルス、ポルックス=ジェミニ、リギル=ケンタウルス

性別:女、男、男

年齢:7歳、10歳、10歳

身長:120センチ、139センチ、148センチ

ビエラの友達。いずれも喋れず身元不明なビエラを変に思わず、分け隔て無く受け入れる豊かな心を持つ。

公園である小動物を拾ったビエラは3人にどうするべきか相談する。それがキッカケとなり、子供達4人だけの小さな冒険が幕を上げる。(10章へ続く)

名前:デネボラ=レオ

性別:女

年齢:24歳

身長:166センチ

小さな喫茶店を経営する若き商売人。オシャレでギャルっぽい見た目だが、性格は実直で働き者。

先輩の手伝いで第13居住区にやって来たスピカ。そこでデネボラと偶然出会い話に華を咲かせていると、突如ある男が乱入して来て大混乱を巻き起こす。(11章へ続く)

名前:ミアプラキドゥス=カリーナ

性別:女

年齢:26歳

身長:148センチ

行方不明のカリーナ四姉妹の次女。子供の様に小柄で遊び人気質。

全国民が対象となる年に一度の健康診断。それが始まるとほぼ同時に、何故か行方不明者が続出し始めた。その事件にはどうやらミアが関係している様で……(12章へ続く)

名前:ベガ=リラ

性別:女

年齢:52歳

身長:155センチ

コスモス1の名医と言われる三賢人の1人。おっとりゆったりした立ち居振る舞いで、誰しも初めは癒し系の印象を受けるが、その本性は……

ずっと探していたベガを遂に見つけたスピカ。しかし彼女はコスモスの地下に隠された、恐ろしい闇に深く関わっていた。(13章へ続く)

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み