9節
文字数 2,321文字
「……大丈夫そうっすよ、アルさん。
騒ぎになってる様子はないっす。」
「そうか……
ったく!大事なアガリを置いて来やがって!
ガキに喚かれたぐらいでパニクってんじゃねぇよ、アホがッ!!」
「す、すいません……
(自分だって慌てて逃げたクセに……)」
カツアゲグループの5人が元の場所に戻って来た。
周囲を警戒しつつ車を置いて来た場所へと向かう。
「あのガキども金に気付いてないですかね?
アレ持って警察にタレ込まれでもしたら……」
「問題ねぇよ!
あの金は真っ当な商売で稼いだ金だって言い張れば良いだけだ。
カツアゲで稼いだ証拠なんて無いんだからな!」
「でも、いつまでこんな事しなきゃいけないんすかね……」
「あ?」
「確かに金は稼げるようになりましたけど、あんなガキ相手にイキってダサいっつうか……」
仲間の1人がそうボヤくと、リーダーの男が突然そいつを殴り飛ばした。
倒れた仲間の胸ぐらを掴み、声を荒げる。
「嫌ならテメェだけ抜けろッ!!
端金の為にヘコヘコする、無様な生き方に戻りたいならなッ!!」
「そんな事は……!
オレはただ……!!」
「オレだっていつまでもこんな事する気はねぇよ!!
でもな……!今はやるしかねぇんだよッ!!
負け組から抜け出すには金がいるッ!
それを手に入れる為には、”あの人”に認められるしかねぇんだよ!!」
「わ、わかりました!!
オレが悪かったっす……ッ!!」
他の仲間にもなだめられリーダーの男は矛を収めた。
険悪になりつつも再び歩き出し、目的の車の元までやって来た。
早速1人が車の中を確認する。
「あったあった!
鞄は無事だ!」
喜んで鞄を持ち上げた時、すぐさま異変に気付く。
軽過ぎる……、まさかッ!?
慌てて鞄を開くと、何と中は空っぽ!?
……いや、1枚だけ紙が入っている。その紙にはこう書かれていた。
[金がどこに有るか知りたければ後部座席を探せ]
「何だこれ?」
「チッ!ガキどもの仕業だな!!
どっかに金を隠しやがったんだ!!」
書かれている通り後部座席を覗き込む。すると、椅子の下にも1枚の紙が。
それにはこう書かれている。
[車の下にあるかも]
今度はうつ伏せになって車の下を覗く。しかし何も無い……?
いや、よく見ると車の底、ど真ん中辺りにまた紙がある。
腕を伸ばして掴もうとするが距離があって届かない。強引に身体を捩じ込もうとするが、車の下は狭く大人では入れない。
「ダメだ……!
ギリギリ届かねぇ……!!」
「どうします?諦めます?」
「バカ野郎ッ!!
金の場所の手掛かりがアレしかねぇんだぞッ!!
仕方ねぇ……、車浮かすぞ!!」
4人が車の側面片側を持ち、せ〜の!で車体を浮かす。
その隙に残りの1人が身体を捩じ込み紙を取ろうとする。
「オ、オイ……ッ!!
まだかッ!?早くしろッ!!」
「グッ……!!キツ……ッ!!」
「後もうちょい……
取れたッ!!」
潜り込んだ男がそう言うとほぼ同時に、車体を持ち上げていた内の1人が指を滑らせた。
そのせいで車体が沈み、下に居た男が押し潰される。
「イテテテッッ!!!」
「オイッ!早く上げ直せッ!
死んじまうぞッ!!」
何とか死なずに抜け出した男。
だが助かるやいなや、「殺す気か!」と仲間に掴み掛かる。
仲間割れをリーダーが鉄拳制裁で無理矢理止め、苦労して取った紙をふんだくり内容を確認する。
大方予想出来ていたが、紙にはまた別の場所が書かれていた。
空調機の裏側……
排気ダクトの中……
排水溝の蓋……
日が落ち始め、元々暗い路地裏は更に視界が悪くなる。
にも関わらず、どれこれも探し難い場所ばかり指定される。しかも該当する物が多数あり、5人で手分けして探してもなかなか見つからない。
苦労して見つけても次の場所が書かれているだけで、目的の金は全く見つからない。
「もう止めましょうよ、こんなの……
みっともない……」
「うるせぇ!!
ウダウダ言ってねぇで探せッ!!
早く見つけねぇと、”あの人”との約束の時間が……!!」
「ありました!」
「次はなんだ!?」
「え〜っと……
『次で最後、ゴミ袋の中』って書いてあります!」
「あれか……!!」
すぐ側に多くのゴミがまとめてあるコンテナがある。近くにある食堂がゴミを溜めて置くのに使っている物だ。
なので中身の多くは生ゴミ。客の食べ残しや腐った食材ばかり。
コンテナの蓋を開けただけで、涙が出る程の悪臭が立ち込める。
臭いに耐えながらゴミ袋を片っ端から開けていく。
袋の奥にあるかもしれないので、ひっくり返して中身も全て出す。
数十分の格闘の末、ようやく目的の紙を見つけ出す。
そこに書かれていたのは……
[よく頑張りました
じゃ、後片付けがんばってね〜]
「……は?
なんだよコレ!?金の場所は何処だよッ!!」
リーダーが思わず激怒した、その時だった。
「お前達、何やってるッ!?」
「け、警官!?
なんでここに!?」
「近くの住人から通報があった!
ここを荒らし回ってる奴らがいるとな!!」
警官に注意されて周囲を確認する。
男達は探すのに必死で気にしなかったが、あちこち探し回ったせいで辺りは散らかり放題。生ゴミの異臭まで立ち込めている。
いくら不良の溜まり場であっても、これで通報されない訳がない。
「何をしてたのか知らないが、これは立派な公共物の破損だ!!
すぐに元の状態に戻しなさい!!
拒否するなら現行犯逮捕するッ!!」
「なん……だと……ッ!!?」
ここは袋小路。出入口は1つしか無い。
そこに陣取られたら絶対逃げられない事は、ここを狩場にしていた彼らが一番よく知っている。
男達は大人しく後片付けをする他ないのだった。