2節

文字数 2,067文字

——同じ頃、スピカの教会。

「失礼。
 スピカ司祭はいらっしゃるかの?」
「は〜い!
 ……あ!ウヌお爺さん!
 また来たんですか?」

 スピカの元を訪れたこの老人。
 その出会いは半年以上前。ビエラの親探しをしていた時に偶然出逢ったお爺さんだ。

 その当時は重い病で随分と弱っていたが、ビエラの不思議な力で完治。今の様な元気な姿を取り戻した。
 完治した理由は医者にすら説明不能。しかしお爺さんはスピカとビエラが奇蹟を呼んだからに違いないと信じ込んでおり、以来こうして何度もスピカの教会を訪れている。

「遠いのにわざわざここまで来なくても……
 もっと近い教会があるでしょう?」
「そうは言っても、スピカ司祭にお会いできるのはここだけですからのぉ。
 ホッホッホ! 」

 ウヌ老人は教会の祭壇まで進むと両手を組み合わせ祈りを捧げる。
 その一連の所作は理想形と言える程完璧。とても熱心な、年期の入った星教徒である事が伺える。

「前から思ってましたが本職の私より手馴れてますね。
 おいくつからこうして礼拝を?」
「まだ十にも満たぬ頃からじゃ。
 恥ずかしながら若い頃は荒れとっての……
 そんなワシが唯一穏やかになれるのが、こうしている時間じゃった……」

「わかります〜!
 動く物全てが敵に見える時期って誰にでもありますよね〜」
「ウヌ、そこまでではなかったのぉ。」

 お祈りを終えたウヌ老人は持って来た紙袋から、1つのクッキー箱を取り出した。

「心ばかりのお布施ですじゃ。お嬢さんと一緒に召し上がるといい。
 ……そう言えば、お嬢さんの姿が見えんの?」
「ビエラ様ならおつかいに出ています。
 もうすぐ帰って来ると思いますけど、待ちますか?」

「そうさせて貰えるかの?
 あの子にも会っておかないと、天運に見放された様で縁起が悪い。」

 幸いこの時、他に客人は無し。
 どうぞ好きな場所にと勧められたウヌ老人は近くの椅子に腰を落ち着ける。

「それにしても、おつかいですか……
 立派なものじゃが、お嬢さんは喋れなかったはず。
 1人で使いに出して大丈夫ですかの?」
「平気ですよ。しっかりしてますから。
 最近じゃ喜んで行くぐらいです。」

「ホホッ!
 きっとスピカ司祭の役に立ちたいからでしょうな!
 言葉を話せない子とそこまで信頼関係を築けるとは、誰にでもできることではない。
 司祭様の人望じゃの!」

「いや〜!それ程じゃないですよ〜!(照)
 私に言わせれば言葉なんて本来コミュニケーションには不要。
 ちゃんと心を見て会話すればいいだけですからねッ!!(ドヤ顔)」
 
「意思疎通には困っておらんと?」
「もっちろん!!
 ビエラ様の考えてる事なんて、一目見れば手に取るようにわかります!!」

 スピカが得意げにそう言い切った時だった。教会の扉がバタンッ!と勢いよく開かれた。
 駆け込んで来たのはビエラ。そのまま一直線にスピカへ体当たりする様に抱き付く。

「ど、どうしたんですか?ビエラ様?」
「(´口`*) ミテッ!ミテッ!」

「ん?頭がどうか……
 うわっ!?何ですかソレ!?
 ……ネズミ?リス?」

 スピカがビエラの頭に張り付いた小動物に気付き、驚きの声を上げた。
 それに釣られてウヌ老人も近付いて来た。

「これは……!?」
「なんの動物か知ってるんですか?」

「ウヌ……
 詳しいと言える程ではないのじゃが、”モモンガ”の一種のようじゃ。」
「モモンガ?
 そんなのこの国に居るんですか?」

「ワシが若い頃はそれなりに見ましたの。街外れの森に行けば今でも見かけるそうじゃ。
 大方、餌の虫でも追いかけて街に迷い込んだんじゃろ。」
「へェ〜
 で、なんでそれを連れて来たんですか、ビエラ様?」

「(இдஇ; ) ウルウル…」

 これ以上ない程に潤んだ瞳でスピカを見つめるビエラ。
 その表情には必死……いや、決死の想いが宿っていた。

 助けを乞う様に駆け込んで来たビエラ。
 その頭にはモモンガ。
 訴え掛ける様な、縋るような瞳。

 これらの状況からスピカはひとつの答えに辿り着いた!!

「この顔は……わかった!!」
「(゚´Д`゚) オオッ‼︎」

「飼いませんよ!」
「……(´•̥ ω •̥` ) エ?」

 なんとスピカはビエラが「このモモンガを飼いたい!」、そう泣き付いていると受け取ってしまった。

「懐かれて可愛くなっちゃったのはわかりますが、だからって持って帰って来ちゃダメじゃないですか!」
「(>_< )三( >_< ) チガウチガウ‼︎」

「そんなに嫌がってもダメですッ!
 野生動物は野生のままが1番幸せなんです!
 別れるのは辛いと思いますが、元居た場所に帰して来て下さい!」
「(;´Д`) ムシロカエシタイ‼︎」

 一度思い込んだスピカはそう簡単に考えを改めない。
 いくらビエラが訂正しようとしても、それが伝わる事はない。

「流石スピカ司祭じゃ!
 こうも簡単にお嬢さんの気持ちを読み取るとはのう!」
「ハッハッハ!
 これぐらい私とビエラ様の絆があれば簡単ですよ!!
 ね?ビエラ様?」

「(ᯣ _ ᯣ)」

「目が死んでる……ッ!?」
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登場人物紹介

名前:スピカ=ウィルゴ

性別:女

年齢:27

身長:162センチ

この物語の主人公。

基本は優しい心の持ち主だが平和主義者というわけではなく、必要とあれば荒事も辞さない。

有り過ぎる行動力と小賢しい悪知恵が働く以外はごくごく普通の一般人。

名前:ビエラ

性別:女

年齢:?(見た目は7歳くらい)

身長:117センチ

準主人公。

何故か一切声を出すことが出来ない。その代わりなのか感情に合わせて動きを変える、アホ毛の様なもの(触覚?)が頭頂部から生えている。

性格は奔放で好奇心旺盛。なのにビビり。

名前:アクルックス=クルス

性別:男

年齢:30

身長:188センチ

大柄で逞しい体躯を持ち、素行には大人の落ち着きがある。愛娘が一人いて、名前は”ミモザ”。

彼と知り合ったことをきっかけに、スピカ達はとある猟奇事件に巻き込まれる。(2章へ続く)

名前:アークトゥルス=ボーティス

性別:女

年齢:18歳

身長:155センチ

やや素直さに欠けるが根は真面目で勤勉。このお話では貴重な十代女子。

農夫達からの依頼で農作物を荒らす魔女の解決に乗り出したスピカ。その正体がなんと彼女だった。(3章へ続く)

名前:アルタイル=アクィラ

性別:男

年齢:51歳

身長:175センチ

宇宙や世界の真理を探究する高明な学者。『三賢人』と呼ばれる3人の天才の一人。

彼がビエラに関する情報を持っていると聞いたスピカは、彼の働く学術院を訪れるが…(4章へ続く)

名前:カノープス=カリーナ

性別:女

年齢:28歳

身長:161センチ

おっぱい担当兼、物語の核心に絡む角の生えた美女。しっかり者だが若干天然が入っている。

ビエラと関係があるかもしれない謎の飛来物の調査に来たスピカ一行。そこで偶然彼女と出くわす。(5章へ続く)

名前:リゲル=オリオン

性別:男

年齢:28歳

身長:176センチ

女と見紛うレベルの超美形。それでいて中身も聖人君子の出木杉君タイプ。

仕事でとある人物の護衛の任についていた彼は、その過程で思いがけず"裏の人間"と邂逅する。(7章へ続く)

名前:デネブ=シグナス

性別:男

年齢:50歳

身長:168センチ

数々の名品を生み出してきた機工技師。アルタイルと並ぶ『三賢人』の一人。

彼、強いては彼が代表を務める工房の力が必要になったスピカ。しかしその工房はある男に乗っ取られていた。(8章へ続く)

名前:花圃の魔女(本名不明)

性別:女

年齢:23歳

身長:159センチ

アークトゥルスの元仲間。手下を従えて群れるのが好きなお局気質の女性。

平和に暮らしていたアークの元に突然現れた彼女は、魔女である者は決して逃れられない"悲運"を告げる。(9章へ続く)

名前:(左から)ミモザ=クルス、ポルックス=ジェミニ、リギル=ケンタウルス

性別:女、男、男

年齢:7歳、10歳、10歳

身長:120センチ、139センチ、148センチ

ビエラの友達。いずれも喋れず身元不明なビエラを変に思わず、分け隔て無く受け入れる豊かな心を持つ。

公園である小動物を拾ったビエラは3人にどうするべきか相談する。それがキッカケとなり、子供達4人だけの小さな冒険が幕を上げる。(10章へ続く)

名前:デネボラ=レオ

性別:女

年齢:24歳

身長:166センチ

小さな喫茶店を経営する若き商売人。オシャレでギャルっぽい見た目だが、性格は実直で働き者。

先輩の手伝いで第13居住区にやって来たスピカ。そこでデネボラと偶然出会い話に華を咲かせていると、突如ある男が乱入して来て大混乱を巻き起こす。(11章へ続く)

名前:ミアプラキドゥス=カリーナ

性別:女

年齢:26歳

身長:148センチ

行方不明のカリーナ四姉妹の次女。子供の様に小柄で遊び人気質。

全国民が対象となる年に一度の健康診断。それが始まるとほぼ同時に、何故か行方不明者が続出し始めた。その事件にはどうやらミアが関係している様で……(12章へ続く)

名前:ベガ=リラ

性別:女

年齢:52歳

身長:155センチ

コスモス1の名医と言われる三賢人の1人。おっとりゆったりした立ち居振る舞いで、誰しも初めは癒し系の印象を受けるが、その本性は……

ずっと探していたベガを遂に見つけたスピカ。しかし彼女はコスモスの地下に隠された、恐ろしい闇に深く関わっていた。(13章へ続く)

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