12節

文字数 1,793文字

 一般的な口調よりワンテンポ遅い、間伸びした喋り方の女性。
 快活な口調のミアとは違う事だけは確かだ。

 こちらに語りかけて来たという事は、先程のスイッチは中の人間を呼ぶインターホンと言ったところか。
 返事をするべきか?それとも無言を貫くべきか?
 張り詰めた沈黙が空白の時間を埋める。

[あららぁ〜?誰もいないのかしらぉ〜?
 ん〜……、誤作動ぉ?
 報告した方が良さそうねぇ〜]

 ヤバい!仲間を呼ばれる!?
 咄嗟にスピカが答える。

「待って!!
 私、私ッ!ミアッ!」

 確実にここに出入りしている事が分かっているのはミアのみ。
 誤魔化せる可能性のある言葉はそれしか思い付かなかった。
 もし相手が中でミアと会っていたら即バレるが、果たして……

[……あらぁ、ミア看護師だったのぉ。
 どうしたのぉ〜?]
「じ、実は鍵を無くしちゃって!
 だから開けてくれないかなぁ〜なんて……
 ダメだよね〜!もう一回探して……」

[まぁ大変〜!
 すぐ開けに行くわねぇ〜]
「え……?」

 そう言って通話は切れた。
 まさか本当に開ける気か?こんなにも厳重に隠されている扉を?
 そんなバカなと思っていると……

[カチャ……!]

 開いた!?
 扉がゆっくり開く。

 隙間から顔が覗いた瞬間、アルクが飛び掛かり押さえ付けつつ口を塞ぐ!

「騒ぐな!
 大人しくするなら傷付けない。黙って誰も来ない場所に案内しろ!」

 現れた女性はコクッと一度だけ首を縦に振った。
 アルクは警戒しつつゆっくり拘束を解く。
 女性は騒ぐどころか動揺する様子すら微塵も見せず、冷静に乱れた服と髪を整える。

 腰まで伸びた長髪の女性。白髪だが薄っすら茶系の髪が混じっているので、老化によって白くなったのだと伺える。
 喋り方から想像できる通り、トロンとした眠たそうな目をしている。
 青白い肌で不健康そうな印象を受けるが、肌は綺麗でシワも少ない。
 30代にも見えるし50代にも見える。見た目から年齢の予想が難しいタイプだ。

 女性は身だしなみを整え終えると、何も言わないままフラ〜と歩き出した。

「オイ!どこに行く!?」
「どこってぇ……
 誰も来ない場所に案内して欲しいんでしょぉ〜
 付いて来てぇ〜」



 当たり前の様にそう答える女性に不気味さを覚えつつも、右も左も分からない今は付いて行くしかない。

 長い廊下だ。扉も曲がり角もいくつもある。広さは地上の病棟と同じぐらいか?
 だが誰も居ない。あまりに静かで足音と空調の音がうるさく感じる程だ。

「気を付けて。
 ミアさんとか他の仲間が居る場所に行く気かも。(ボソボソ)」
「そう思って神経を張り続けています。
 しかし、今のところ何の気配もしない。」
「この広さで本当に彼女しかいないのか?
 一体何の施設なんだ……?」

 誰ともすれ違わないまま、100メートル程進んだところで女性が足を止めた。
 目の前の扉を指しながら朗らかに微笑む。

「私の私室よぉ〜
 この人数だとちょっと狭いと思うけど、ゆっくりして行ってねぇ〜」

 中にはテーブル一式とベッド。奥には給湯室も見える。
 最低限の生活ならここだけで過ごせる感じだ。

 全員部屋に入ると女性はすぐ給湯室に行き、お菓子を手に戻って来る。

「はぁ〜い、つまらない物だけどどうぞぉ〜!」
「(⌒o⌒) ワ~イ♪」
(もしかして毒が入ってたり……
 なんて事はしそうに見えないわね。私も貰お!)

 まだ昼食を食べておらずお腹がペコペコのスピカとビエラ。
 不用心に差し出されたお菓子を食べるが、やはり変なところはない。

「美味しい!
 自作ですか?」
「いいえぇ〜
 『レプス製菓』っていうお店のお菓子よぉ〜」

「あの老舗高級菓子店の!?
 どおりで……」
「まだ余ってるから持って帰るぅ〜?」
「(*゚▽゚*) ホシイッ‼︎」

「ゴホンッ!!」

 全く緊張感の無い女性に釣られて和やかムードになる2人を注意する様に、アルクが大きく咳払いする。
 ハッと気付き2個目に手を伸ばしていた手を引っ込める。

 話を本題に戻す為、リゲルが口を開く。

「私はリゲル=オリオン。星騎士団団長です。
 私達はとある事件の調査中、ここに行き着ました。
 失礼ですが、あなたのお名前をお聞かせ願えますか?」

 そう尋ねると女性は懐に手を伸ばし1枚の名札を取り出した。
 顔写真付きのそれをスピカ達に見せながら、こう自己紹介する。

「医療協会所属のベガ=リラよぉ〜
 よろしくねぇ〜!」
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登場人物紹介

名前:スピカ=ウィルゴ

性別:女

年齢:27

身長:162センチ

この物語の主人公。

基本は優しい心の持ち主だが平和主義者というわけではなく、必要とあれば荒事も辞さない。

有り過ぎる行動力と小賢しい悪知恵が働く以外はごくごく普通の一般人。

名前:ビエラ

性別:女

年齢:?(見た目は7歳くらい)

身長:117センチ

準主人公。

何故か一切声を出すことが出来ない。その代わりなのか感情に合わせて動きを変える、アホ毛の様なもの(触覚?)が頭頂部から生えている。

性格は奔放で好奇心旺盛。なのにビビり。

名前:アクルックス=クルス

性別:男

年齢:30

身長:188センチ

大柄で逞しい体躯を持ち、素行には大人の落ち着きがある。愛娘が一人いて、名前は”ミモザ”。

彼と知り合ったことをきっかけに、スピカ達はとある猟奇事件に巻き込まれる。(2章へ続く)

名前:アークトゥルス=ボーティス

性別:女

年齢:18歳

身長:155センチ

やや素直さに欠けるが根は真面目で勤勉。このお話では貴重な十代女子。

農夫達からの依頼で農作物を荒らす魔女の解決に乗り出したスピカ。その正体がなんと彼女だった。(3章へ続く)

名前:アルタイル=アクィラ

性別:男

年齢:51歳

身長:175センチ

宇宙や世界の真理を探究する高明な学者。『三賢人』と呼ばれる3人の天才の一人。

彼がビエラに関する情報を持っていると聞いたスピカは、彼の働く学術院を訪れるが…(4章へ続く)

名前:カノープス=カリーナ

性別:女

年齢:28歳

身長:161センチ

おっぱい担当兼、物語の核心に絡む角の生えた美女。しっかり者だが若干天然が入っている。

ビエラと関係があるかもしれない謎の飛来物の調査に来たスピカ一行。そこで偶然彼女と出くわす。(5章へ続く)

名前:リゲル=オリオン

性別:男

年齢:28歳

身長:176センチ

女と見紛うレベルの超美形。それでいて中身も聖人君子の出木杉君タイプ。

仕事でとある人物の護衛の任についていた彼は、その過程で思いがけず"裏の人間"と邂逅する。(7章へ続く)

名前:デネブ=シグナス

性別:男

年齢:50歳

身長:168センチ

数々の名品を生み出してきた機工技師。アルタイルと並ぶ『三賢人』の一人。

彼、強いては彼が代表を務める工房の力が必要になったスピカ。しかしその工房はある男に乗っ取られていた。(8章へ続く)

名前:花圃の魔女(本名不明)

性別:女

年齢:23歳

身長:159センチ

アークトゥルスの元仲間。手下を従えて群れるのが好きなお局気質の女性。

平和に暮らしていたアークの元に突然現れた彼女は、魔女である者は決して逃れられない"悲運"を告げる。(9章へ続く)

名前:(左から)ミモザ=クルス、ポルックス=ジェミニ、リギル=ケンタウルス

性別:女、男、男

年齢:7歳、10歳、10歳

身長:120センチ、139センチ、148センチ

ビエラの友達。いずれも喋れず身元不明なビエラを変に思わず、分け隔て無く受け入れる豊かな心を持つ。

公園である小動物を拾ったビエラは3人にどうするべきか相談する。それがキッカケとなり、子供達4人だけの小さな冒険が幕を上げる。(10章へ続く)

名前:デネボラ=レオ

性別:女

年齢:24歳

身長:166センチ

小さな喫茶店を経営する若き商売人。オシャレでギャルっぽい見た目だが、性格は実直で働き者。

先輩の手伝いで第13居住区にやって来たスピカ。そこでデネボラと偶然出会い話に華を咲かせていると、突如ある男が乱入して来て大混乱を巻き起こす。(11章へ続く)

名前:ミアプラキドゥス=カリーナ

性別:女

年齢:26歳

身長:148センチ

行方不明のカリーナ四姉妹の次女。子供の様に小柄で遊び人気質。

全国民が対象となる年に一度の健康診断。それが始まるとほぼ同時に、何故か行方不明者が続出し始めた。その事件にはどうやらミアが関係している様で……(12章へ続く)

名前:ベガ=リラ

性別:女

年齢:52歳

身長:155センチ

コスモス1の名医と言われる三賢人の1人。おっとりゆったりした立ち居振る舞いで、誰しも初めは癒し系の印象を受けるが、その本性は……

ずっと探していたベガを遂に見つけたスピカ。しかし彼女はコスモスの地下に隠された、恐ろしい闇に深く関わっていた。(13章へ続く)

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