2節
文字数 1,715文字
誰も居ない教会で少女はジッと天井に開いた穴を見つめていた。
横を向いているがはっきり分かる。見た事のない子だ。
背格好からするにリギルやポルックスよりも少し歳下。変わったデザインの服を着ている。
何よりも印象的なのはその髪。月明かりを反射する白い髪が、穴から吹き込む風に揺れキラキラと輝きを放つ。まるで一枚の絵画のように幻想的だ。
「キレイ……」
スピカは無意識にそう呟いていた。静かな夜の聖堂ではその小さな呟きでも十分聞き取る事が出来たのだろう。少女はスピカに気付き顔を向ける。
目が合った途端少女は驚いてその場から逃げ出す。目に付いた近くのドアを開けようとするが、そこには鍵が掛かっている。
「あなた、誰?」
スピカが話し掛けながらゆっくりと近付く。しかし少女が警戒を解く事はなく、今度は聖堂に散らばる瓦礫の陰に隠れてしまう。
「怖がらなくて大丈夫よ。私はここの司祭なの。」
いきなり言われても説得力が無かったか。一向に姿を見せてくれないのでソロリソロリと少女が隠れた場所を覗き込む。
「あれ?居ない……?」
確かにここに隠れたはず。近くを探していると、ガタッと物音がした。音がした方を向くと少女が四つん這いで逃げようとしているのが見えた。しかもその進行方向は出口に向かっている。
気付かれた少女は立ち上がり外に向かって走り出す。
だがあと一歩のところでスピカが出口の前に立ちはだかる。
「逃げないでよ!
外は真っ暗よ。女の子1人じゃ危ないわ!」
怒られると思ったのか少女は慌ててUターンし、また物陰に隠れてしまう。
「やれやれ……
こうなったら本気を出すしかないようね!」
スピカは扉の前から動かず、ジッと逃げた少女の気配を探る。すると、女の子がヒョコッと奥の椅子の影から顔を覗かせる。
猛ダッシュで近寄るスピカ。しかし少女は椅子の下を潜り抜けその場から逃げる。スピカも頭を低くし後に続こうとするが大人では通るのは難しい。
モタつくスピカを見てチャンスと思った少女は再び出口に向かって走り出す。
外まで後ちょっと。かなり引き離したからさっきの様に追い付かれる事はない。
いざ外へ逃げようとした、その時……
[バタンッ!!]
なんと扉がひとりでに勢い良く閉じた。
風でも吹いたのだろうか?ならきっとまだ開くはず。
少女はドアを一生懸命押すも何故か開かない。
どう見ても普通の木の扉。オートロック機能なんて付いてるとは思えない。
それに鍵が掛かってビクともしないというより、誰かが扉を押さえつけている感じだ。
この押し返してくる力は一体どこから……?
少女がふと取手に目をやると、そこに何かが括り付けられていた。
それはスピカがついさっきまで首に掛けていたアミュレット。ドアの前で気配を探っていた時、コッソリ取り付けていたらしい。
それがまるで磁石の様に部屋の内側に向かって引っ張られている。これがドアを押さえていたのだ。
でも何に引っ張られているのか?
アミュレットが向かおうとしている方向を振り向くと……
「気付いたみたいね。
でももう遅い!」
すぐ背後には腕組みしたスピカが仁王立ちしていた。少女はドアに気を取られて接近に気付かなかったようだ。
ジリジリと距離を詰めるスピカ。堪らず少女は脇をすり抜けようと試みるが、そう上手くいかずあえなく捕まってしまう。
「さぁて、何で天井に穴が空いてるのか教えて貰いましょうか?
教えないと……」
下卑た笑みを浮かべるスピカ。
怯え震える少女に対しスピカは……
「コチョコチョコチョコチョッ!」
猛烈に、そしていやらしく腋の下で指を躍らせる。
少女は身を捩らせてもがくが、スピカは決してその指を止めようとしない。
くすぐりながらは再度問う。
「さぁ、白状しなさい!」
「…………」
おかしい。
こんなにくすぐっているのに笑い声どころか声のひとつも聞こえて来ない。
顔は笑っているし、暴れっぷりから見てくすぐりに強いタイプではないようだが……
効いてるのか?それとも効いていないのか?
どっちだろうと思いながらくすぐり続けていると、次第に少女は笑い疲れてグッタリと力尽きてしまった。
「あ、やり過ぎちゃった。」