13節

文字数 1,893文字

 あの球体の中に居るのは生物なのか?この質問をした瞬間アルタイルの目が急に鋭くなり、凄まじい早口で語り出す。

「あれ自体が生物かどうかは分かりません。ですが!生物でないとしてもあれを造った何者かが居るのは間違いありません!そして今この世界には15メートル、中に居る物は10メートル程ですが、そんな巨大な物を静止軌道上まで飛ばす技術はない。
 考えられるとしたら……つまり……あれは……
 ハァハァ……う…う…うちゅ……
 うちゅわああはぁああぁぁーーーー!!」

「ギャアアーーッ!
 いきなり変なスイッチ入ったぁーーッ!?」
「ハッ!すみません、つい……」

 ギリギリで踏み止まり正気に戻ったアルタイルは現時点での推測を話す。
 宇宙空間で生物が生身で生存できるとは常識では考え難い。なのであれは無機物で造られた人型の被造物ではないかとみている。

 そしてそれを造ったのはこの世界とは異なる世界の生命体。
 空よりも遥か先。宇宙を渡った先に住む”宇宙人”ではないかと言う。

「それってあの星の中に住んでるって事ですよね?
 まるで星書に語られる神様みたい。」
「おお!!実は僕もそう考えています!
 宇宙人とコンタクトする事こそ、僕の長年の夢なんです!」

 アルタイルは星教は宇宙人を崇めた宗派ではないかと考えている。
 かつて宇宙人はこの世界に住んでおり、それを人は神と崇めた。しかし何かの理由で宇宙人はこの世界を去った。
 その史実が星教の神話の元になっているのではないかと。

 アルタイルが少年の様な目をしながら熱く語っていると、階段から受付のおばさんとビエラが現れた。ビエラが起きたから連れて来てくれたようだ。

 アルタイルに気付いたビエラは慌ててスピカの後ろに隠れる。
 何故怖がられているのか分かっていないアルタイルに昨日の事を話すと、追いかけ回した事を謝罪しつつ手を差し出す。
 ビエラは恐る恐るそれに応えお互いに握手を交わす。

「君の活躍は見ていましたよ。
 実に賢い子だ!」
「(=`^´=)エッヘン」

(あなたの夢、今叶いましたけど。)

 などと言える訳もなく黙って見守っていると、ビエラはポケットから何かを取り出しアルタイルに渡す。

「これは、僕のアミュレット。
 何故君が?」

 昨日ビエラがここで見つけた物だ。ずっと持っていたらしい。
 初対面の時、アルタイルが必死で探していたのもこれだった。

 星教の神は宇宙人であり実在していると考えているだけあって、アルタイルは星教信者。
 何か壁にぶち当たった時、このアミュレットを握り締めて祈りを捧げると心が落ち着いて考えがまとまるらしい。

「学者さんって神様みたいな非科学的な存在は絶対信じないって思ってました。」
「ハハハ!学問は宗教を否定するものではありませんよ。
 ……しかし今回の事は神をも恐れぬ愚行でした。改めてお詫びします……」

 学術院の資金繰りはアンタレスが全面的に管理しており、そのお陰でアルタイルはお金の心配をせずに研究に専念できている。
 無料コースの実態は知っていてダメだとも思っていたが、そういう力関係のため強く否定できなかった。
 しかし、知らない事にも必死で喰らいつくリギルやポルックスの姿を見て、やはり見過ごせないと思い直した。

「お金どうこうは大人の都合でしかない。
 そんな大人の都合で子供の興味や意欲を妨害する様な事はあってはいけませんからね。」

 今日はアルタイルのお陰で色々と分かった。逆に深まった謎もあるが……
 次の手掛かりは発光現象の時に出来たという南部の森にある大穴。それがビエラと関係がある事はほぼ間違いない。

 感謝と別れを告げるスピカに、最後にもう1つだけとアルタイルが呼び止める。
 その言葉は何かを知っているであろうスピカに向けた忠告だった。

「この件、決して能天気に構えていい問題ではありません。
 この世界には大気圏外からの攻撃を防ぐ方法も、反撃する方法も有りませんから。」

「ビエ……、ゴホンッ!
 私を助けてくれた訳ですし、敵ではないと思いますけど……」
「ですが味方とも断言できません。
 今この情報はごく一部の人間しか知りませんが、世間に知れ渡ったら大パニックは避けられないでしょう。」

 もしアレが本気で牙を剥いたとしたら、人間の力では到底立ち向かえない。
 それは魔獣や魔女、強いては最強種族と名高い悪魔であっても同じ。
 そんな未知の強大な存在から、今現在も見下ろされ続けているのだ。

(1人で立ち向かうべき問題じゃない。それは分かってる。
 でも……
 ビエラ様は危険なんかじゃないですよね?)



ーーーー 第4章『街区対抗クイズバトル』 完 ーーーー
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登場人物紹介

名前:スピカ=ウィルゴ

性別:女

年齢:27

身長:162センチ

この物語の主人公。

基本は優しい心の持ち主だが平和主義者というわけではなく、必要とあれば荒事も辞さない。

有り過ぎる行動力と小賢しい悪知恵が働く以外はごくごく普通の一般人。

名前:ビエラ

性別:女

年齢:?(見た目は7歳くらい)

身長:117センチ

準主人公。

何故か一切声を出すことが出来ない。その代わりなのか感情に合わせて動きを変える、アホ毛の様なもの(触覚?)が頭頂部から生えている。

性格は奔放で好奇心旺盛。なのにビビり。

名前:アクルックス=クルス

性別:男

年齢:30

身長:188センチ

大柄で逞しい体躯を持ち、素行には大人の落ち着きがある。愛娘が一人いて、名前は”ミモザ”。

彼と知り合ったことをきっかけに、スピカ達はとある猟奇事件に巻き込まれる。(2章へ続く)

名前:アークトゥルス=ボーティス

性別:女

年齢:18歳

身長:155センチ

やや素直さに欠けるが根は真面目で勤勉。このお話では貴重な十代女子。

農夫達からの依頼で農作物を荒らす魔女の解決に乗り出したスピカ。その正体がなんと彼女だった。(3章へ続く)

名前:アルタイル=アクィラ

性別:男

年齢:51歳

身長:175センチ

宇宙や世界の真理を探究する高明な学者。『三賢人』と呼ばれる3人の天才の一人。

彼がビエラに関する情報を持っていると聞いたスピカは、彼の働く学術院を訪れるが…(4章へ続く)

名前:カノープス=カリーナ

性別:女

年齢:28歳

身長:161センチ

おっぱい担当兼、物語の核心に絡む角の生えた美女。しっかり者だが若干天然が入っている。

ビエラと関係があるかもしれない謎の飛来物の調査に来たスピカ一行。そこで偶然彼女と出くわす。(5章へ続く)

名前:リゲル=オリオン

性別:男

年齢:28歳

身長:176センチ

女と見紛うレベルの超美形。それでいて中身も聖人君子の出木杉君タイプ。

仕事でとある人物の護衛の任についていた彼は、その過程で思いがけず"裏の人間"と邂逅する。(7章へ続く)

名前:デネブ=シグナス

性別:男

年齢:50歳

身長:168センチ

数々の名品を生み出してきた機工技師。アルタイルと並ぶ『三賢人』の一人。

彼、強いては彼が代表を務める工房の力が必要になったスピカ。しかしその工房はある男に乗っ取られていた。(8章へ続く)

名前:花圃の魔女(本名不明)

性別:女

年齢:23歳

身長:159センチ

アークトゥルスの元仲間。手下を従えて群れるのが好きなお局気質の女性。

平和に暮らしていたアークの元に突然現れた彼女は、魔女である者は決して逃れられない"悲運"を告げる。(9章へ続く)

名前:(左から)ミモザ=クルス、ポルックス=ジェミニ、リギル=ケンタウルス

性別:女、男、男

年齢:7歳、10歳、10歳

身長:120センチ、139センチ、148センチ

ビエラの友達。いずれも喋れず身元不明なビエラを変に思わず、分け隔て無く受け入れる豊かな心を持つ。

公園である小動物を拾ったビエラは3人にどうするべきか相談する。それがキッカケとなり、子供達4人だけの小さな冒険が幕を上げる。(10章へ続く)

名前:デネボラ=レオ

性別:女

年齢:24歳

身長:166センチ

小さな喫茶店を経営する若き商売人。オシャレでギャルっぽい見た目だが、性格は実直で働き者。

先輩の手伝いで第13居住区にやって来たスピカ。そこでデネボラと偶然出会い話に華を咲かせていると、突如ある男が乱入して来て大混乱を巻き起こす。(11章へ続く)

名前:ミアプラキドゥス=カリーナ

性別:女

年齢:26歳

身長:148センチ

行方不明のカリーナ四姉妹の次女。子供の様に小柄で遊び人気質。

全国民が対象となる年に一度の健康診断。それが始まるとほぼ同時に、何故か行方不明者が続出し始めた。その事件にはどうやらミアが関係している様で……(12章へ続く)

名前:ベガ=リラ

性別:女

年齢:52歳

身長:155センチ

コスモス1の名医と言われる三賢人の1人。おっとりゆったりした立ち居振る舞いで、誰しも初めは癒し系の印象を受けるが、その本性は……

ずっと探していたベガを遂に見つけたスピカ。しかし彼女はコスモスの地下に隠された、恐ろしい闇に深く関わっていた。(13章へ続く)

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