14節
文字数 1,833文字
そこに、混乱に乗じて1人の子供がステージに乱入した。
「お前は、昨日あの女と一緒に居た……」
「(´・ω・)つ ハイコレ」
「なんだ、それは……?」
「おい、今度は子供が勝手にステージに上がってるぞ!」
「なんなんだ、次から次へと!!」
「ε=ε=(((((っ・ω・)っ ニゲロー!」
ビエラが無理矢理デネブに手渡した物。それは手の平で隠せる程小さな、半透明の白い石だった。
何故こんな物を?不思議に思っていると、突然声が聞こえて来る。
[聞こえますか、デネブ技師?]
「な、なんだこの声!?何処から!?」
[聞こえてるみたいですね。
昨日お会いしたスピカです。]
なんと放送室にいる筈のスピカが語り掛けてきた。
この騒音の中でもはっきり鮮明に聞こえる。しかも、デネブ以外の人間には聞こえていないようだ。スピーカーを通して話している訳ではない。
不可思議な現象に驚くデネブ。そんな彼にスピカは伝える。
彼自身も気付いていない、無意識に犯している罪を。
[アルタイル教授がそろそろ扉が破られそうだって言ってるので、単刀直入にいいます。
デネブ技師、あなたは他人を見下し過ぎです。]
「なに!?それはどういう……」
[自分は誰よりも優秀で強い。他人は自分より遥かに劣る弱い存在。
強い者が弱い者を護るのは当然の道徳。
だから辛い事は全部、自分が1人で受け止めるべきだと思ってる。]
「そんな事は……」
[世界一の天才技師だが知りませんが図に乗り過ぎです!
今の孤立は、あなたのその自惚れた優しさが招いた必然の結果です。]
「…………」
[曲がりなりにも工房長なら……
ちゃんと仲間を頼りなさいッ!!]
「ッ!!?」
この時デネブは思い出した。
今朝の夢で見たアルビレオと大喧嘩した時の記憶。その時言われた言葉を。
『デネブ、アンタは工房長として一番必要な事ができてない!
みんなウチらの仲間なのよ!
なのになんで頼ろうとしないの!?』
あの時もアルビレオに同じ事を言われた。「工房長なら仲間を”頼れ”」と。
ずっと仲間から”頼られる”のがリーダーの証だと思っていたデネブとって、この言葉は意味不明だった。
だが、今なら分かる気がする。
アルビレオが居なくなり、工房が上手く回らなくなったあの時。
1人でなんとかしようとせず、もっと仲間の力を借りていれば。もっと声を聴いていれば。もっと信用していれば。
きっと、アンサーに付け入られる事にはならなかった。
「工房長ッ!!」
「ッ……!?」
顔色の悪いデネブを心配して一人の男性が駆け寄って来た。
それはアルビレオが連れて来た初めての部下。最も長い付き合いの仲間だ。
大半の工員がアンサーの支持者になった後も、熱心にデネブの味方を続けてくれた男でもある。
「大丈夫ですか?
気分が悪いなら一度下がりましょう。
上手くできるか分かりませんが、観客には少し待ってもらう様に、私が説得を……」
デネブは肩に置かれた彼を手をグッと握った。
そして、微かに聞き取れる声でこう言った。
「すまない……
俺1人ではこの状況を収められない……
だから……、お前達を頼らせてくれ……」
肩の手をそっと除けると、自ら前に出てマイクを握った。
そして、持てる限りの肺活量を使い、叫ぶ様に言い放つ。
「さっきの放送は紛れもない真実だッッ!!!」
デネブは更に言葉を続ける。
ここ数年、自分が機工製造を放棄していた事。
そのせいで不良品が増えていた事。
その不良品を偽物と言って責任逃れしていた事。
あらゆる不正を大衆の前で白状した。
衝撃のカミングアウトで、さっきまでの騒ぎが嘘の様に場内が静まり返る。
その沈黙を真っ先に破ったのは、鬼の形相を浮かべたアンサーだった。
「黙れッ!
この裏切り者ッ!!」
拳を振り上げるアンサー。
それを、先程の男性が飛び掛かり抑えつけた。
「離せぇッ!!
これが傾いた工房を立て直してやった恩人に対する扱いかッ!!
この恩知らずがッッ!!!」
まだ自分に正義があると言いたげな戯言を喚き散らすアンサー。
そんな奴を仲間に任せ、デネブは取り囲む幾万の大衆をしかと見つめる。
そして、謝罪の言葉と共に頭を深々と下げた。
それを皮切りに人々の激しいブーイング、罵詈雑言、ゴミ屑が会場を埋め尽くさん限りに飛び交う。
その喧騒がスタッフによって鎮められるまでの数十分という時間、デネブが頭を上げる事は決してなかった。