4節
文字数 1,752文字
「いいのいいの!怖がらせたこの人が悪いんだから。
それに丁度いい休憩になるでしょ。アハハハハッ!」
アルタイルを殴打した後直ぐに受付のおばさんを呼びに行ったスピカは正直に経緯を説明し、2人で倒れた彼をベッドのある部屋へ運び入れていた。
診察によると殴られた傷は大した事は無く、気を失ったのは殴られた衝撃ではなく過労によるものとわかった。
とは言え、殴った事は事実。何度も平謝りするスピカを、おばさんは豪快に笑い飛ばす。
ここで人が倒れる事は珍しい事ではないから気にしなくていい、と言われ少しだけ気持ちが軽くなる。
その頃、ちょうど授業終了を知らせるチャイムが鳴り響く。
と同時に部屋の外が一気に騒がしくなる。
「おわったーーーーーッッ!!(喜)」
「終わった、全部終わったよ……、お母さん……!(泣)」
「オワタ……(白目)」
口々に終わったと言いながら出て来る生徒達。終わったの意味は人それぞれ違う様だが……
スピカはふと時計を確認する。
「15時半か……、あッ!!
しまった!そろそろ子供達を迎えに行かないと!
ああ、でも全然教授と話出来てないし……!!」
慌てるスピカを見兼ねておばさんが声を掛ける。
「目が覚めたらアンタが話したがってたって伝えとくよ。
ここに名前と連絡先を書いてくれるかい?」
スピカはおばさんの申し出に感謝しつつ手早くメモを書き残し、急ぎ元いた学術院の入り口へと向かった。
——学術院、受付——
「すみません、もう体験入学は終わっているでしょうか?」
ギリギリ約束の時間に間に合ったスピカ。受付では昼に対応してくれた人と同じ女性が待っていた。
すると女性は昼の時のような笑顔を見せず、何故か神妙な面持ちでこちらですと誘導する。反応を不自然に思いつつも取り敢えず付いて行く。
お昼に説明を受けた部屋にでも待っているのだろうと思ったが行き先はそこではなかった。別の建物に移動しどんどん奥へと進んで行く。
これから帰るだけなのに、どこまで行くのだろう?
辿り着いた部屋のドアを開けるとリギルとポルックスが居た。
しかしその部屋には他にももう2人。50代ぐらいのインテリでキツそうな雰囲気の女性と、20代ぐらいの若い男性の姿がある。男性の方は顔に怪我をしているのか左頬にガーゼを貼っている。
誰一人顔を見合わせず黙りこくっており、語らずとも伝わる程部屋の空気は重々しかった。
スピカが部屋に入って子供達の隣に座ると、向かいにいる女性が威圧気味の口調で自己紹介する。
「アタクシ、この学術院の院長を務めておりますアンタレスと申します。」
わざわざ最高責任者の院長が顔を出していて、もう一人は怪我。そしてこの重苦しい険悪な雰囲気。
悪い事の察しは良いスピカは、もしかしてと顔を痙攣らせる。
「単刀直入に申し上げます。
リギル君が私の隣にいるこちらの教授に対して暴力を振るいました。」
(やっぱりかぁーーッ!!
まさかこっちでも暴力事件が。完全に私達ヤベェ連中じゃん……)
子供のしたこととは言え立派な暴行。相手は不問で終わらせるつもりは一切無い様だった。
今日は一旦リギルを学術院で預かるので明日両親を連れてまた来て欲しい。そう宣告された。
一応丁寧な言葉遣いをしているが節々に棘があり、了承しないなら警察を呼ばせてもらう、と脅しとも取れる言い方をされた。アルタイルの所にいたおばさんとは全然違い容赦が無い。
「まったく!学問を学ぶ前に人としての常識を学ばせるべきじゃありませんの!?
これじゃまるで猿!ここは動物園じゃないんですのよッ!」
口悪くリギルを罵るアンタレス。スピカは流石に言い返したくなったが、加害者側である側が声を荒げればリギルの立場が余計に悪くなる。
唇を噛み、言葉を殺していると……
「リギルは悪くないッ!!」
激昂したのはポルックスだった。何もしていないのにずっと俯いて暗い顔をしていたので気にはなっていたが、やはり何かあっただろう。
スピカ泣きそうな顔のポルックスを宥めこう進言する。
「この子達の話も聴いていいですか?
私はどうしてもリギル君が大した理由もなく手を出したとは思えません。」
スピカに促されポルックスは何があったかを詳しく話し始めた。