4節
文字数 1,902文字
地域清掃のアルバイトを終え、家に帰るところだったらしい。
心配して声を掛けてくれたので2人にも事情を説明する。
「そのモモンガをどうするか困ってんのか……
確かにここに放置はかわいそうかもな……」
「それ以前に、一度捕まえた動物を逃すのはダメだよ。」
「(´・ω・`) ナシテェ?」
当たり前だが動物を勝手に逃す事は条例で禁止されている。
どうしても手放したい場合は、自然管理局という場所に届け出なければいけない。
野生動物の場合、その義務は最初に捕まえた人にある。つまり今回のケースではビエラだ。
でも、スピカには元居た場所に放して来いって言われたけど……?
ビエラがポルックスに訊く。
「この事知らなかったんだろうね。野生動物を捕まえる事なんてまず無いから。
ともかく、まずは行政区まで行ってモモンガを捕まえた事を申告しないと。」
「うわ、めんどくせぇ……
申告した後はどうするんだ?」
「自分で飼わないなら自然管理局に引き渡す事になるだろうね。」
「引き渡した後、この子はどうなるの?」
「それは……」
一度でも街に入り込んだ動物は森に帰しても、また戻って来ることが多い。街は食べ物が多いということを学んでしまうからだ。
そして1匹が街に出入りする様になると、その仲間も真似をし始める可能性がある。
そうなったら被害は決して小さいものでは済まない。
故にコスモスでは街に迷い込んだ野生動物は基本的に自然に帰されない。誰か欲しい人に引き取って貰う事になる。
ただ野生となると懐き難いので、ペットとして欲しがる人は稀。大半は学者が実験や研究用とするか、商人や金持ちが剥製にしてしまう。
もちろん、引き取り手がいなくても問答無用で殺処分だ。
「ええ〜〜!かわいそう〜!」
「そうだ〜ッ!かわいそうだぞ〜ッ!!」
「(`ε´) ブーブー‼︎」
「いや、僕に言われても……」
そんな話を聞いたら当局に渡すのは憚られる。
かと言って公園にコッソリ逃しても、他の誰かが見つけて通報するだろう。また捕まるのは時間の問題だ。
親切な人に飼って貰うのが1番だが……
「ビエ子に1番懐いてるんだから、ビエ子が飼えばいいじゃん。」
「(≧ヘ≦ )) イヤ!」
「リギル……、話聞いてた?
そもそもビエラちゃんは頭に引っ付かれるのが嫌だから困ってるんだよ。」
「あ、そっか。
じゃあミモ子は?」
「私のアパートはペット禁止なの……
リギル君とポルックス君は飼えないの?」
「ムリムリ!
一回『犬飼ってみたいな〜』って母ちゃんに言ったら……
『犬の面倒見る暇があるなら、弟の面倒見なさい!!』ってマジギレされたもん。」
「僕の家はお金が……
ゴメンね……」
今いる4人とも引き取る事ができない。どうしよう……
こういう行き詰まった空気を破るのは大体能天気なリギルだ。
「なぁ、ポル。
さっき『森に逃しても戻って来る』って言ってたけど、絶対じゃないんだろ?」
「うん。その可能性があるってだけだから。」
「じゃあやっぱ森に逃してやろうぜ。
出来るだけ街から離れた場所に放してやれば、戻って来ないんじゃね?」
「私もそれが良いと思う!」
「(*゚ー゚)ゞ ドウイ」
「ちょっと待って!!
そんな事してバレたら怒られるだけじゃ済まない!罰金だよ!!」
「じゃあバレない様に逃がそう。」
「そういう問題じゃ……」
ミモザは渋るポルックスの目の前にモモンガを突き出す。
こんなに可愛い子を見殺しにするのか!?という無言の抗議だった。
ただそれ以上に彼をたじろかしたのは、ミモザの反則級の上目遣いだった。
「……もしバレたら、『逃しちゃダメなんて知らなかった』って言うんだよ。
子供だから、それで許して貰えるかもしれない。」
「ありがとう!」
「ミモ子……恐ろしい子……」
「(; ̄д ̄)」
では具体的に何処で逃すべきか?
やはり自然が豊富で、ここ11区から近い農園区だろうか?
しかし農園区には餌になる作物が多い。それに被害が出たら大変だ。
ここは南隣の8区がいいだろう、というポルックスの助言に従う。
「じゃあ行こ!ビエラちゃん!」
「(゚∀゚) ok」
「エッ!?
今から行くの?2人だけで?」
いくら隣の街区と言っても、それなりに遠出になる。
1人で他街区に出たことがないビエラとミモザだけでは、行くのも帰るのも厳しいだろう。
かと言って大人は頼れない。本当はいけない事をやるのだから。
となれば……
「しゃあない、オレらも行くか?」
「そうだね。2人だけじゃ危ないから。」
4人は諸々の準備をする為一旦別れ、バス停で待ち合わせる事になった。