異聞
文字数 1,392文字
「目撃証言によると謎の発光体はこの森に落ちたらしい。
危険物の可能性もある。二人一組で警戒しながら探せ!」
謎の発光、及び爆音と揺れが生じた夜の翌朝。
深刻な被害は報告されていなかったが、それでも異常事態には変わりない。そこで市長はこの男達に調査を要請していた。
「リゲル団長!こっち来てください!」
1人の整った顔立ちの青年が呼び掛けに応える。誘導された先で目にしたものは、深さ5メートルはあろうかという円錐状に抉られた大地だった。
居合わせた人間は11人もいるが誰一人この様な光景は目にした事がない。動揺する男達をリゲルは落ち着かせ、慎重に穴を調べる様に指示する。
土の様子や薙ぎ倒された周囲の木を見るについ最近できたものだ。しかしどうすればこの様な穴が……?
世界最高威力の爆弾を使ってもここまで大きな穴は開かないだろう。ならば考えられるのは爆弾よりも強大な力が働いたという事。
例えば遥か上空から凄まじい速度で何かが落ちたとか……
昨日の揺れの原因はこれで間違いない。だが何故何も残っていない?
穴の中心を少し掘ってみるがやはり何も見つからない。周辺にも変わった物は見つからない。
「どういう事だ?
我々よりも先に誰かがここへ来て持ち去ったのか……」
「もしくは自ら動いたか。」
声のした方を向くと中年男性がしれっと調査に加わっていた。1人だけ服装が違う。調査を依頼されて来た男達の仲間ではない様だ。
何者だ!?と腰の銃に手を掛けるリゲル。中年男性は動じる様子を見せないまま身分を明かす。
「どうも、コスモス新聞社のアルデバランといいます。」
新聞社も独自に聞き取りを進めここに辿り着いたようだ。まだ完全に安全を確認できた訳じゃないと立ち退きを命じられるが、アルデバランは飄々とした口調でかわす。怒った1人が力尽くで追い出そうとするところをリゲルが止める。
新聞社は好きになれないが調査することに関して彼らはプロだ。そう考えたリゲルはアルデバランと名乗った記者に意見を聞く。
「自ら動いたとは?
まさか落ちて来たのが生物だとでも?」
「それは分かりませんよ。その可能性もあるなってだけです。」
「他に知っている事は?」
「あなたの方と大差ないと思いますよ。」
いくら質問されようとはっきりとした答えは返さない。何か隠している様にも、本当にわかっている事がない様にも見える。何とも真意が掴めない男だ。
「というかこの状況、意見を聞くなら他に適任がいるでしょう。」
はぐらかしている感じはあるが確かに彼の言う通りだ。対象は遥か空の彼方から飛来した。これは複数の目撃証言からして間違いない。ならば、空の彼方に詳しい人間の力を借りるべきだ。
リゲルは穴を登りながら仲間に命じる。
「少し離れる。
皆は誰もここに近付かないよう見張ってくれ。」
「何処へ?」
「学術区へ向かう。宇宙学者のアルタイル教授に協力を求める。
それと、アルデバラン殿にも御同行願おう。」
後日、アルタイル教授も調査に加わったが結局正体もその行方も分からず終いだった。
分からないと公表して市民の不安を煽る事は出来ないと判断した市長は、この事実を暫し隠蔽する事にした。
新聞社にあの現象は開発中の新機工の実験によるものであると嘘の情報を流させて。