3節
文字数 2,046文字
あとちょっとだったのに……」
「やはり実戦不足が響きましたか。
勝ちを確信して力み過ぎましたね。」
ガックリ肩を落とすスピカ。
そんな彼女を慰める為にリゲルが褒める。
「スピカらしい、いい作戦だった。半分私の負けだ。
最後の攻撃は流石に驚いた。あの槍、物体を貫通するのか。」
「そういう事。
だから相手が分厚い防具を身に付けてたり、頑丈な戦車の中とかに居ても攻撃できるって訳。」
星槍は物理的な干渉を一切受けない。重力や空気抵抗の影響も受けないので、投げつければ数キロ先まで届かせることも可能だ。
手から離れても数分なら形状を維持でき、手元に呼び戻す事もできる。
遠近両用の万能武器だ。
「でも持続させるのはかなり難しいみたいだな。
長時間使い続けるのは厳しいだろうし、貫通する特徴も知っていれば対処は簡単だ。
正直、コスパが悪い。苦労に見合う価値はあるとは思えないな……」
「特訓中の人を前にそれ言う……?」
「そう思うのは当然でしょうね。
ですが、星槍の本当の力は相手に当てた時にこそ発揮されるのですよ。」
レグルスは自分のアミュレットを首から取り,右手で握り締めるとその手をリゲルの頭に近付ける。
「今から軽くデコピンをします。よろしいですか?」
「デコピン、ですか?
……わかりました。」
よく分からないが、取り敢えず言われた通り額を差し出す。
レグルスはアミュレットを握ったまま中指を弾いた。
[ペチンッ!]
レグルスの指先がリゲルの額を打ち、可愛らしい音が鳴る。
一見すると何の変哲もないデコピン。だが直後のリゲルのリアクションが、それが全く普通じゃない事を証明する。
〈イッッッ!!タァァーーーッっっ!!?〉
リグルが教会の外まで聞こえる程の大声を上げた。
日頃から戦闘訓練を欠かさない男だ。多少の痛みでは表情一つ変えないぐらいには我慢強い。そんな彼が思わず悲鳴を上げる程の激痛が走った。
リゲルは額を抑えながら悶え苦しみ、目には薄ら涙が浮かんでいる。
「クウうぅぅ……ッッ!一体な、何をッ!?」
「少し祈力を込めて打ちました。
要領は星槍と同じです。」
「それだけでこんな威力に!?
イツツ……ッ!もしかして骨にヒビが入ったんじゃ……」
「大丈夫、大丈夫!
ほら、あそこの鏡でおでこ見てみて。」
近くにあった鏡で額を確認する。
さぞ腫れていることだろう。と思っていたリゲルだが、実際には腫れるどころが、赤くすらなっていない。指がどこに当たったのかわからない程だ。
だが今もジンジンと残るこの痛みは間違い無く本物。
頭が認識しているダメージと、身体に負ったダメージが一致しない。この差は一体……?
「破壊力は普通のデコピンと何ら変わりません。
ただ痛みだけを何倍にも増幅させたのです。
それがこの技の効力です。」
人間に限らず、生き物の痛覚というものは電気信号によって身体から脳に伝わる。
この技はその痛みを知らせる信号を強制的に、それも強烈に発生させる。
電気ショックの様なもの、と捉えるのが分かり易いだろう。
「手に祈力を纏わせる事なら私もできるの。
拳を当てられれば、私の力でも大人の男を1発KOさせられるぐらい、イッタい衝撃を与えられるわ。
ほら。前にホテルで久しぶりに会った時、オッサンをブッ飛ばしたでしょ?
あの時もこの技を使ったのよ。」
「キタルファを殴った時か!?
1発で気絶したから変だと思ってた……」
だが素手で攻撃する場合、その手で”直接相手に触れなければいけない”という欠点がある。
布切れ1枚でも間に挟まれば効力は発揮されない。それでは簡単に防がれてしまう。
その弱点を克服するために、あらゆる物体を貫通する星槍を創れるようにならないといけない。
更に槍ならリーチがあって、体格差のある相手とも戦い易い。形状も複雑ではないのでイメージし易く、慣れれば素早く創り出せるというメリットもある。
槍の形状に拘るのは理に適っている、という訳だ。
「先程のデコピンは限界まで手加減しました。
本気で攻撃すれば脳回路が焼き切れるレベルの激痛を与え、脳死に追いやる事も可能です。」
「恐ろしい技ですね……
秘密にする訳だ……
……ん?
だとしたらさっきの模擬戦、もしあのまま攻撃が当たってたら……」
「嫌だなぁ!
もちろん手加減するつもりだったって!」
「でも力み過ぎて失敗したって……」
「…………
ハハ、ウケる。」
「何がッ!?」
その時、教会のドアが叩かれた。
入って来たのは宿舎で留守番中のビエラだった。
「(›´ω`‹ ) グ~」
「お腹空いたんですね。」
「では少し早いですが、今日はもう終わりにしましょう。
明日からも特訓を続けなければいけないですからね。」
「はぁ〜い……」
「夕飯はほぼ出来ているので、後は火を入れて温めるだけです。
椅子は私が元に戻しておくので、スピカ司祭は夕飯の準備をして来て下さい。」
「椅子運びなら私もお手伝いします。
少しレグルス主教とお話ししたい事があるので。」